第5話 万能少女

 しずるはマールと友達の13歳の女の子。いつも仲良し3人組とは基本的に程良い距離を置いているの。

 それぞれに個性的なマール達3人組だけど、しずるの場合はちょっと特別ね。彼女は家柄も能力も性格も全て飛び抜けているのよ。


 そうして語るのはこの私、しずるの使い魔のみこと申します。齢3歳の綺麗好きで才色兼備で青い瞳の白猫レディよ。以後どうかお見知り置きを。


 しずるの朝は午前5時、いつも自然にすっと目が覚めるの。朝起きた彼女はまずは精神統一をして心を鎮めるのよ。

 それからまずは朝の予習とスケジュールのチェック。その後は軽いストレッチをして体をほぐすの。


 朝食の後は要人と共に今日の予定を詰めるわ。彼女はこの歳にして既に特別な仕事についているの。それは彼女の家柄のせいなのよね。

 そう、古くからこの国を守るのが彼女の一族の仕事なの。代々の一族は強大な力を持って外敵からの脅威に備えて来ているわ。

 彼女もまたその力を受け継ぎ、類まれな才能を持って産まれたのよ。


 学業があるので基本的にしずるの仕事はそれ以外の時間帯となるわね。仕事内容としては内外の不穏分子の監視、偵察、尾行、時には始末までを担当するの。

 勿論彼女はまだ13歳だし、年齢に応じた仕事しか任せられないけど、時と場合によっては非情な命令に従わなくてはならないのよね。

 だからその為の訓練をしずるはまた欠かさないのよ。愚痴も不満も言わずに家族の為に、また自分の為に。生まれ持った与えられた優れた能力と引き換えに。


 けれど学校ではその事は秘密になっているわ。勿論教師達にはしっかり知れ渡っているけどね。

 しずると一緒に勉強する生徒達の中で彼女の仕事を知っている者はいないわ。彼女もそれを知られる事を恐れて学校内では一般に生徒として振舞っているの。

 ただ、知っている生徒は知っているみたいね。いわゆる公然の秘密と言うアレよ。


 それでしずるの友達であるマール達なんだけど、どうも彼女の仕事は知らないっぽいわね。彼女達としずるがそれなりに仲がいいのはもしかしたらそのせいなのかも。


 マール達としずるとの距離感はいつもつかず離れずと言ったところよ。ただ、3人が困った時には、必ず彼女が助け舟を出しているみたい。そう言う関わり方を彼女が好むと言うのもあるけれど。

 今日もまたしずるはマール達の近くで彼女達のやり取りを微笑ましく眺めているわ。


「……でさ、私も言ったのよ。関係ないじゃんって」


「うわ、それ言っちゃう?」


「私はこう言う性格なの!」


 今日もマール達は楽しく話しているみたい。会話の流れから見ると3人の仲に多少暗雲が立ち込めても、会話を続ける内に結局はその事がどうでも良くなって来るようね。

 それだけ3人はとても仲がいいと言う事なんだと思うわ。


「やば!宿題間違ってた!どうしよう1ページ分やってない」


 あら?どうやらファルアが宿題の範囲を間違ったみたい。この言葉を受けて不安になったのかマールがその範囲を確認してるわね。


「え?35~41ページでしょ?」


「ほら、ここ!」


 マールの言葉にファルアが自分の間違っていたところを指摘しているわ。そこで彼女は自分も同じ間違いをしていた事に気付いたみたい。


「あっ!ここ例題だけだと思ってたらしっかり本文に問題が書いてある!」


「良かった~、マールも同じポカやらかしてて」


「こんな直前に気付かないでよ~!時間無いじゃん!」


 あらあら、どうやらマールとファルアは宿題で同じ場所を間違っていたみたいね。ゆんはそんな2人を見て笑っているわ。どうやら彼女はそのミスをしていないみたいね。


「困ってる?見せて?」


「あっ、しずる!お願い!助けて!」


 こんな時、しずるはさり気なく2人に対して助け舟を出してあげるの。そんな感じで3人の誰かが困ると彼女がすぐにサポートするから、しずると知り合ってから3人の成績が下がった事はないわ。

 しずるも人を助ける事が好きだからみんな幸せ、いい関係よね。


 授業が終わったらしずるには家業である任務のお仕事が待っているの。誰にも気付かれないように、すっと気配を消して今日の任務場所に向かうわ。


「みこ、今日は早めに終わらせましょう!」


「私のサポートがあれば大丈夫よ!」


「そうだね!頼りにしてる!」


 今日の任務は結界のほころびの修繕。この島は外界の影響を受けないように全体的に結界が張ってあるのだけれど、定期的にほころびが出て来てしまうの。

 だから御役目の一族はその修繕を定期的に行っているのよ。

 今回の仕事はしずるの日々の仕事の中で最も一般的で最も簡単なもの。私がほころびを見つけて、しずるが修繕をしてそれでおしまい。

 毎日こんな簡単な仕事ばかりならいいのにねえ。おっと、私如きがこんな事言える立場ではないわね。


「しずる!見つけたわ、あそこ!」


「うん、確認した!直すね!」


 ふぅ、今日の仕事はこれで終わり。簡単で助かったわ。それじゃあ帰りましょうか……あら?


「気をつけて!何かいる!」


「まさか……外道生物?」


 私達がほころびを直して帰ろうとしたら、闇に蠢く小さな影を見つけたの。結界がほころぶと、たまにそこから別次元の生き物が這い出してくる事があるんだけど、どうやら今回それが出て来たみたいね。

 もう少し早くにこのほころびを見つけられていたら良かったのだけど、もう今更そんな事も言っていられない。


 この外道生物、何が出て来るかはその時によってピンキリなんだけど、幸いな事に今回はそんなに厄介な相手ではなさそうね。

 大きさは子猫程度の大きさで見た目は全身真っ黒の毛玉っぽい感じ。動きはぎこちなくてまだこの世界に適応しきれていないみたい。

 この相手なら苦もなくしずるが対処出来るはず。そう判断した私はすぐにしずるに声をかけたわ。


「しずる、出来るわね!」


「当然!」


 彼女はこんな時に備えて特殊な訓練を積んでいるの。外道生物はまだ私達の存在に気付いていない、動くなら今がチャンスね。

 しずるはすぐに奴の弱点を魔法で探りだして浄化呪文を詠唱!この呪文によって小さな毛玉の外道生物は断末魔の叫び声を上げたわ。


「グオアアアアァ!」


 ほころびから漏れだした外道生物はこうして彼女によって浄化されたの。外道生物って時間が経つほどこの世界に馴染んで強くなってしまうから、見つけたら即浄化が基本なのよ。

 今回は本当に早くに発見出来て何よりだったわ。


 仕事を終えて私達は家に帰宅するの。それから今日の仕事の報告と明日の予定を詰めるために家族で会議。それが終わったら、宿題とか一日に終えなくてはいけない事をすぐに処理して就寝。大体そんなサイクルでしずるの一日は過ぎて行くのよ。


 普通の少女の一日に比べたら結構ハードなところもあるけど、彼女は愚痴ひとつ零す事なくそれをこなしている……流石ね。私もしっかりしずるをサポートして彼女の負担を少しでも軽くするよう頑張っているわ。


 それじゃあそろそろ私も寝ようかしら……おやすみなさい。明日もいい日でありますように。

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