魔法使いマールの日常
にゃべ♪
フォーリン諸島の魔法使い
マールと愉快な仲間達
第1話 おばあちゃんの遺言
マールは13歳の女の子。住人全員が魔法使いの不思議な島、フォースリンク諸島、通称フォーリン諸島に住んでいる。
その中でマールが住んでいるのは大きな本島の外れの小さな島なんだけど。マールも魔法使いの才能をしっかり持っているんだよ。
この島の魔法使いは亡くなる時に自分の魔法の力を誰かに譲る事が出来るんだ。大抵はおじいちゃんおばあちゃんが孫の誰かに譲る形を取る事が多いかな。
そうやって力を継承してどんどん魔法力が高まっていくようになっているから、フォーリン諸島の魔法使い達は時代を経るに連れどんどん力や技術を高めているんだ。
マールは今学校からの帰り道を急いで家に向かっている。何故かと言うとマールのおばあちゃんが大変なんだ。
もう明日をも知れぬ命だってお医者様がそう言っていた。大のおばあちゃんっ子だったマールはもう気が気じゃなかったんだろうね。
急いで家に帰ったマールはかばんだけを放り投げて一目散におばあちゃんの眠る寝室に向かったよ。どうかまだ無事でいてくれますようにと祈りながらね。
「おばあちゃん!」
マールの顔を見たおばあちゃんはニッコリと笑って彼女を受け入れたんだ。どうやら彼女は間に合ったようだね。
「マール、かわいいマール。こっちにおいで」
マールを目にしたおばあちゃんは優しい顔をして彼女を手招きした。マールもその声に素直に従っておばあちゃんのもとにやって来たよ。
「よかった。おばあちゃんまだ元気だね」
マールはそう言うとおばあちゃんの手をしっかり握った。彼女の手におばあちゃんの生命のぬくもりがしっかりと伝わったよ。
「マール、おばあちゃんから大切なプレゼントがあるんだ」
「えっ……」
マールはこの時、それがどう言う事か知っていた。それが力の継承の事だって言う事を。この島の住人ならそれが死の儀式だって事も誰もが知っている。
「受け取ってくれるかい?」
「ダメ!」
おや?せっかくのおばあちゃんの申し出をマールは拒否したよ。それは一体どうしてだろう?
おばあちゃんもその彼女の言葉を受けて少し悲しくなったんだ。
「おや?マールはおばあちゃんが嫌いなのかい?」
「そうじゃなくて!好きだから受け取れない!」
「マールはへそ曲がりだねぇ」
どうやらマールはおばあちゃんが嫌いだから受けと入りたくない訳じゃないみたいだね。そう、マールはおばあちゃんがとても好きなんだ。
おばあちゃんの申し出を断ったのには彼女なりの考えがあるみたい。
「だってそれを受け取ったらおばあちゃんが死んじゃう!」
「マール、これを受け取ってもそうでなくても私はもうお迎えがそこまで来ているんだよ」
「だけど……だけど……」
なるほど、マールはおばあちゃんの力をもらったら、おばあちゃんがそのまま死んでしまうような気がして受け取れなかったんだね。
けれど何もしなくてもおばあちゃんの死期は近い――おばあちゃん本人から直にそれを聞いてマールはとても悲しくなったんだ。
マールは泣きそうになる気持ちを必死にこらえていたよ。
「マール……どうか私の最後のお願いを聞いておくれ……お前に私の力を受け継いで欲しいんだ」
「おばあちゃん……」
「これは私の生きた証……マールならきっと大丈夫」
この言葉を聞いたマールはおばあちゃんの切なる思いをしっかりと感じ取ったんだ。
だけどマールはやっぱりおばあちゃんに少しでも長く生きて欲しくて、すぐにはその願いを受け入れられずにいた。
「おばあちゃんは本当にもうダメなの?」
「なぁに、ただこの身体の役目が終わるだけさ。おばあちゃんはずっとマールの中で生き続けるよ」
力を受け入れれば自分の中でおばあちゃんは生き続ける――この島の魔法使い達はみんなそうやって想いを繋げて来た。
このおばあちゃんの言葉を聞いて、マールはやっとその想いを受け入れられたんだ。
「分かった……有難う、おばあちゃん」
「力は好きに使っていいからね……マールの良心を信じてる」
「おばあちゃん」
「立派な魔法使いにおなり……」
マールが受け入れるとおばあちゃんの手から光の塊が――。その光はすうっとマールの身体に溶けるようにして入っていった。
(あたたかい……)
そう、マールがおばあちゃんの心を感じた時、おばあちゃんはゆっくりと目を閉じたんだ。僕はその様子をじいっと眺めていたよ。
継承の儀式が終わってからおばあちゃんはもう目を覚ます事はなかった。
それからは家中がお葬式の準備で大忙しだった。
マールはすごく寂しそうで……でもいつまでもおばあちゃんと一緒にいる、そんな暖かさをずうっと感じていたんだ。
数日後、マールのおばあちゃんの葬式が街を上げて盛大に行われた。彼女はこの小さな島でも指折りの魔法使いだったから悲しむ人も多くて、マールも沢山の人に慰めの言葉をもらっていたよ。
最後にみんなでおばあちゃんの墓前でお別れの祈りを捧げていると、とても清らかな風が吹いたんだ。それでみんなが振り返ると、一羽の白くて美しい鳥が飛び去っていったよ。
その鳥はまるでおばあちゃんの化身のようで、みんながずうっと見送っているとその先に虹が見えたんだ。
これはきっとおばあちゃんからみんなへの最後のプレゼントだねってお葬式に参列した誰もがそう感じていたんだ。
えっ?さっきからナレーションみたいに話す君は誰かって?
そっか、まだ説明がまだだったね。僕の名前は――。
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