ルゥのお母さんはお嫁さん!
黄鱗きいろ
お母さんって呼んでいい?
「お母さん、お母さん」
小さな手で揺さぶられ、少女、アビー・マリアンは目を開く。
あたしはどうしてここにいるんだっけ。たしか住んでいた孤児院が野盗に襲われて、あたしは弟、妹たちを守ろうとしてそれで……。
そんなことを考えながら起き上がると、ちょうど両手を広げたぐらいの小さな竜が、目の前で翼を広げていた。
「ルゥだよ!」
元気よくそう名乗った竜に、マリアンは面喰って目をぱちくりさせた。だけどそれも一瞬のこと。瞬きを数度する間に何故か、マリアンはこの不思議な生き物の存在を受け入れていた。
「ねえお母さん。お母さんって呼んでいい? だめ?」
ルゥは小首をかしげる。その仕草があまりに可愛らしくて、マリアンは小さく笑った。
「いいけど……でもあたしは君のお母さんじゃないよ?」
「ええー。お母さんだよー」
ルゥはマリアンにすり寄るようにして周りを飛び回る。周囲には彼の仲間の姿はなかった。
きっと母が恋しいんだろう。
同じ孤児院で育った弟、妹たちの姿が思い浮かぶ。私を姉と慕うあの子たち。私が命を懸けて守り切ったはずのあの子たち。
――この子も寂しいんだ。
「あのねあのねお母さん。ルゥのお嫁さんになって!」
突拍子もない申し出に、マリアンは声を上げて笑った。
「あらあら。おませさんだね、このおちびさんは」
「おちびさんじゃないよ。ルゥだよ」
ルゥはマリアンの膝の上に乗ると、抗議するように羽をばたつかせた。
「ねえ、お嫁さんになって。ねえったら」
小さな手で何度も膝を揺さぶられ、マリアンは苦笑いを返す。
「はいはい。じゃあルゥはお嫁さんに何をしてほしいの?」
「えっとね。……抱っこ!」
言うがはやいか、ルゥはマリアンの胸に飛びつき抱き着いてきた。咄嗟に両手を出し、小さな竜を受け止める。竜は少女の腕の中に納まると、気持ちよさそうにぐるぐると声を上げた。
「……これじゃあ本当にお母さんみたいだね」
マリアンは片手でルゥを抱えなおすと、その首を優しく撫でてやった。
ルゥの本名がルーアということも、こんな些細なやりとりでルゥと結婚してしまったのだということも、ルゥがその見た目に反して九十歳だということも、マリアンが知るのはまだまだ先のお話。
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