第13話 時効迫る殺人事件

 群馬からとんぼ返りした午後三時――。

 別当光智は菱友銀行の瀬島会長を伴い、大手広告代理店である電王社に社長の桧垣を訪ねた。電王社のメインバンクが菱友銀行と知ったうえで、瀬島に仲介の労を依頼したのである。

 二時間前、群馬から戻った光智は、まずインターネットで、あるサイトを検索した。日本において、ブック・メーカーの存在が一般的に知られるようになったのは、一九九〇年頃からであるが、当時はインターネットが普及しておらず、専ら海外の大きなスポーツ・イベントのニュースを報道する際の、刺身のつま的に紹介された。

 一九九〇年代の後半。インターネットの急速な普及と共に、その認知度は高くなり、ニュースから実践の対象へと移り変わった。警察当局も、ブック・メーカー事業は、サーバーが国外にある限り、賭博開帳図利には当たらず、日本からのインターネットによるベッティング行為に関しては、非合法ではあるが取り締まることもできないとの見解のようである。いわば、グレーゾーンになっているのが実情なのだ。

 だがそれは、あくまでも表社会の論理であって、裏社会にその理屈は通らない。外国の賭博事業によって、しのぎに影響を受ける日本の裏社会が黙ってはいないからである。

 となると、スタイン社も三年前の本格的な日本進出の際には、裏組織に利益供与を行っているはずだ、と光智は睨んだ。ちょうど奈良龍明が、上納金という形で大王組と話を付けたように、である。

 外為法の規制があるため、多額の送金は避けるだろうし、現金を持ち運ぶはずもない。残る手段は、定番である日本市場におけるマーケッティング調査等の名目で、傘下の企業にコンサルティング料を支払う方法だと考えた。

 そこで、スタイン社のホーム・ページ上に、何か手掛かりとなる情報はないかと、サイトを開いてみたが無駄骨に終ったため、菱友銀行会長の瀬島に電話を入れたという訳である。次善の策として考えていた、少々強引な手段に打って出るためだった。

  

 電王社は、千代田区五番町に二十七階建ての自社ビルを構えている。その二十五階の応接間で光智は面会に臨んでいた。

「瀬島会長が直々に足をお運びとは、恐れ入ります」

 桧垣は、緊張の面持ちで言った。

「君に、別当光智君を紹介しようと思ってね」

「初めまして。別当光智です。今後ともお見知りおき下さい」

「別当……」

 桧垣は見知らぬ若者に目を遣った。身形を整え、ただならぬ雰囲気を醸し出してはいるが、いかにも若い。

「桧垣です。よろしく」

 と訝しげに言った。

「桧垣君。彼はね、いまは別当と名乗ってはいるが、実は周英傑氏のご子息なのだよ」

「周? あの香港の周英傑氏ですか」

「そうだ。私は、周氏から光智君の後見人を依頼されている」

「会長が後見人?」

 桧垣は酷く驚いた。金融界の首領である瀬島が、いかに日本の戸籍を持っていようと、中国人の血を引く者の後見人など、軽々しく引き受けるはずがなかった。

「ところで、本日はどのようなご用件でお見えになったのでしょう」

 桧垣は、いっそう困惑の様子で訊いた。

「光智君の話を聞いてやってくれないかね」

 そう言うと、瀬島が光智に目配せをした。

「御社はスタイン社の、日本における広告一切を請け負われていると思いますが」

これは光智の賭けだった。彼は広告代理店が電王社とは突き止めていなかった。だが、スタイン社の広告を小さな代理店に扱わせれば目立ってしまう。彼は、正体を隠したい裏組織が、そのような愚かなことをするはずがないと読んだ。

さすれば、大手広告代理店は電王社と日本博営堂となる。しかも、この二社が広告を請け負うとなれば、厳しい審査に合格した、真っ当な企業というお墨付きを貰ったことになり、その後の活動に支障が無くなるという利点も生まれる。

 そこで、まずは電王社に出向くことにしたのだ。 むろん、裏を掻いている場合もある。この二社が契約していなかった場合は、中筋に捜査依頼をする腹づもりだった。

「スタイン社?」

「英国のブック・メーカーです」

「ブック……ああ、ギャンブルの?」

「そうです」

「ええ。我が社で扱っていますが、それが何か?」

当った、と光智は胸を弾ませた。不景気の影響で審査が緩かったのか、あるいは電王社に内通者がいたのかはともかく、電王社の審査を通過していた。

「広告の依頼をした日本の会社をお教え頂きたいのです」

「お得意先様の名を? いや、いくら瀬島会長のお連れの要望でもそれはできない」

「どうしても?」

「勘弁してもらいたい」

 桧垣は強い口調で拒否した。

「桧垣君、よく考えたまえ。彼がその気になれば、警視庁を動かすこともできるのだよ。それをせず、敢えて私に話を持って来た。その意味をよく考えた方が良い」

 瀬島は、桧垣を射抜くような目で見つめた。さすがに、桧垣もひとかどの男である。彼は、瀬島の言葉の意味を瞬時に理解した。

「分かりました。営業を統括する遠藤専務に問い合わせましょう」

そう言って、秘書室に電話を入れた。桧垣は瀬島の言葉の意味を、ここで光智の要望を断れば警視庁が捜査に入る、と受け取ったのでも、メインバンクの菱友銀行が敵に回る、と受け取ったのでもない。そうであれば、最初から刑事を同行させれば良いだけのことであるし、銀行は何も菱友だけではない、と腹を括ることもできた。

 桧垣は、光智の背後に大きな力が存在するのを感じ取ったのである。いくら周英傑の息子だからといって、警視庁や瀬島を顎で使うことはできない。彼は光智の背後に、周英傑以上にこの国の中枢に影響力を持つ人間が控えている、と察したのである。

 確固たる理由はなく、強いて言えば、虫の知らせとでもいうべきか。瀬島ほどの人物が、電話で済ませられる程度の用件にも拘わらず、わざわざ足を運んだという事実が桧垣の第六感を呼び起こしたのである。

 遠藤からの内線電話で、スタイン社が契約している会社は石黒企画と分かった。光智は、謝辞を述べてその場を去り、法務局へと急いだ。

 光智が立ち去った後、桧垣はおもむろに瀬島に訊ねた。

「彼はいったい何者ですか」

「私の真意が伝わったようだね」

 瀬島は満足そうに言った。

「何となくではありますが、彼には周氏の子息という以外に、何かあるのではないかと感じました」

「その通り。これは秘中の秘だから、ここだけの話にしてくれたまえ」

 瀬島は強く釘を刺すと、広い応接室に二人だけしかいないというのに、

「桧垣君、顔をこちらへ……」

 と催促し、自らも顔を近づけた。

「彼は、出雲の御前様の直系なのだよ」

「出雲の御前様……? まさか、神祖智篤(ともひろ)様の……」

 桧垣は、眼鏡の奥の細い目を丸くして訊き返した。

「そのまさかなのだ。曾孫に当たる」

「しかし、七年前の事故で、御前様の血を受け継ぐ男系男子は絶えたはずでは?」

 桧垣は、率直な疑問を口にした。

 神祖智篤、九十六歳。日本屈指の名家である出雲神祖家・第七十二代当主である。もとを糺せば、神祖家は大和朝廷時代に皇族から分流した由緒正しき一族の末裔である。

 分流後の神祖家は、平安時代から学問によって家門を打ち立てることになり、中世以降、島根県出雲地方を支配した山名、大内、尼子、毛利、そして徳川からも独立自存を担保された稀有な家門であった。

 中でも、智篤はまさに不世出の傑物だった。幼少より英邁の誉れ高く、わずか十二歳にして大正天皇に論語を説き、後年には昭和天皇も、度々四書五経の講義を受けられたと言われている。

 帝都大学の前身の帝都帝国大学在学中に『中国哲学・及び思想に関する一考』を著し、これが日本国内だけでなく、中国の識者からも大きな反響を呼ぶこととなった。特に、時の海軍中枢には信奉者が多く、五代大将や開戦時の連合艦隊司令長官・山辺少将らは、年下の学生にも拘らず、初対面で弟子入りしたという逸話を持つ。

 戦後は出雲の生家に戻って執筆活動に専念したが、政治家や菱友、安井、住川といった旧財閥系企業のトップを始めとする会社経営者、芸能界やスポーツ界など、あらゆる分野の著名人が指南を仰ぐため、引っ切り無しに訪れた。

 終戦直後のある内閣においては、閣僚の半数以上が智篤の薫陶を受けた者たちで占められたため、明治新政府をなぞって、『昭和の吉田松陰』と称されたほどである。

 ところが二十年前。智篤は突如、一切の面会を拒絶し、晴耕雨読の隠棲生活に入った。

 また、七年前の事故とは、智篤の孫で七十四代当主だった智信と彼の長男と三男、つまり光智の実兄である智幸と実弟の正智が同乗していた乗用車が大型ダンプカーと正面衝突し、乗用車は大破、三人とも即死した事故のことである。

 事故原因は、ダンプカーの運転手の脇見運転とされ、警察の捜査は打ち切られた。

 智篤の嫡男智成はすでにこの世になく、光智の唯一の叔父である宗智は、高野山真言宗・金剛峰寺執事次長の要職を務める身にあり、還俗は無理な相談であった。このため、由緒ある神祖家当主の後継の座は、七年間空席のままなのである。

「ところがだ。光智君は生まれてまもなく、周英傑の養子に出されていたのだよ」

「なぜまた、周氏の養子などに?」

 桧垣の、ただでさえ小さな目がさらに薄くなった。彼の疑問は、至極真っ当である。日本屈指の名家の一族が、いかに周英傑とはいえ、選りに選って中国人の養子に入るなど、彼でなくとも信じられることではなかった。

 瀬島は、桧垣の反応を予見していたようで、

「英傑氏の祖父・文博(ウェン・ブォ)氏が、御前様の命の恩人だからだよ」

 と秘事を審らかにした。

「な、なんと……」

 あまりの唐突な話に、桧垣は俄かには信じることができない。

「世間には知られてはいないが、御前様は戦後GHQによってA級戦犯の裁判に掛けられそうになったことがある」

「東京裁判にですか。なぜ民間人の御前様がA級戦犯に?」

 依然として不審の色に染まる桧垣を見て、瀬島は歴史の波に埋もれた、ある事実を紐解いた。

 戦後統治をスムーズに運びたいGHQにとって、日本指導層の思想的支柱であった神祖智篤は、大きな障害に映っていた。そこで、学問を通じて軍部を戦争へ邁進するように洗脳したという嫌疑を掛けた。

 たしかに、戦前から太平洋戦争開始直後に掛けて、智篤の元には海軍を中心に、軍部の高官が足繁く訪れていた。むろん、極めて純粋に哲学を教授されていただけで、彼らが智篤の思想的影響を受け、戦争へ舵を切ったというのは全くの言い掛かりである。

 だが、天皇制の瓦解に失敗した米国の、腹いせとも取れる強硬な主張に押され、智篤の起訴は免れない状況に追い込まれた。

 まさに万事休す、と思われたとき、智篤を救ったのが、それまで沈黙を守っていた中国だった。毛沢東の片腕だった周恩来が断固反対の声を上げたのである。

 当時はまだ国民党を率いる蒋介石が優位の時代であるが、毛沢東一派が率いる共産党も十分な発言権を有していた。

 怨敵であるはずの日本人の救済に動いたのには訳があった。周恩来に神祖智篤の救出を願い出たのが、従弟の周文博だったのだ。文博は、大正末期から昭和初期に掛けて、日本に留学していたことがあり、その折智篤の、中国哲学及び思想の造詣の深さに感銘を受けていた。

 後日、面談に臨んだ際、五代や山辺と同様、まだ帝都帝国大学の学生だった智篤に、その場で弟子入りを懇願したというほどの心酔振りであった。

 周文博の家門は恩来の本家筋に当り、経済的に恩来を、そして国民党との内戦時代から共産党をも援助していた家系だったため、文博の必死の懇願を恩来は無下に断る訳にはいかなかった。右腕である恩来の進言に、毛沢東も異を唱えなかった。 そこは中国人のしたたかさと言うべきか、智篤ほどの巨人である、ここで恩を売っておけば、後々何かの役に立つと考えたのであろう。彼らの理念に照らし合わせれば、怨念よりも利を取ったとしてもおかしくはない。

「後年、この事実をお知りになった御前様は甚く感激され、いつの日にか恩返しができるものならば、と心に刻んでおられたらしい。そして二十年前、文博氏の孫の英傑氏に子供ができないことを聞き及んで、光智君を養子に出されたという経緯なのだ」

 瀬島はそこまで言うと、話の最後に、

「これは、御前様の傍にいた私の父が直接伺ったことだから、間違いのない話だ」

 と有無も言わせぬ口調で付け加えた。

「二十年前というと、御前様が一線を退かれた頃ですね」

 桧垣も憑き物が取れたような様子で言った。

「心に期するものがお有りになったのだろう」

「ところが、あの事故で神祖家自体の跡継ぎがいなくなったため、光智君を再び日本に戻したということですか」

「そういうことだな」

「しかし、どうして別当家に?」

「御前様は、あの事故をただの事故とは思っておられないからだ」

「故意だと?」

 瀬島は黙って頷き、

「光智君は、唯一残った掌中の珠だからね。用心には用心を重ねて、一旦分家である別当家に預け、様子見をされているのだと思う」

 と、智篤の心情を忖度するように言った。

「何か疑わしいことでもあったのですか」

「当時、あの事故は宗方妙雲が大王組にやらせたという憶測が一部に流れた」

「宗方妙雲とは、ここ数代の首相の指南役を務め、政界のフィクサーとも言われている、あの宗方ですか」

 思わず桧垣の声が昂じた。瀬島は手で宥めるようにして、

「そうだ」

 と言い切った。

 神祖智篤の隠居の報に触れた妙雲は、目敏くその機を捉え、政財界の指南役を取って代わることに成功したのである。

「なぜ、宗方妙雲が御前様に仇なすのですか」

「そこだ。これから先は、私の憶測も入るのだが……」

 瀬島はそう前置きしておいて、再び古い記憶を辿った。

 宗方妙雲の実父・東雲は、昭和の初頭に暗躍した、一人必殺のテロ集団である憂国団のリーダーだったが、その彼は一時期、智篤の門下生であった。だが智篤は、東雲のあまりに狂信的且つ過激的な思想に手を焼いた。智篤は、再三東雲を諭したが、いっこうに考えを改めないので、終には破門という手段に出ざるを得なくなった。

 その後、東雲は数度に及ぶテロ事件を犯した後、密告により警察に捕まることになるのだが、彼は密告者が智篤だと思い込んだ。むろん、智篤は東雲の潜伏先を知る由も無いし、知っていたとしても、一時とはいえ弟子であった東雲を売るようなことはせず、自首をするよう説得に努めたであろう。

 結局、東雲は死刑となり、妻のセツは過労が祟って後を追うように病死する。孤児となった妙雲は、テロリストの子供ということで、どこも引き取り手がなく、その苦労たるや想像を絶するものだった。

 したがって、妙雲が智篤に積年の恨みを抱いていたとしても不思議はなかったし、むしろその逆恨みが、妙雲の生に対する執着心を生んでいたのかもしれなかった。

「そこで、大王組を使って意趣返しをしたのですか」

 桧垣は苦々しい顔つきになった。

「当代の山城忠徳が妙雲の熱烈な信奉者だというのは、知る人ぞ知る事実だからね。彼が六代目に就任した直後に、あの事故が起こったことからして、タイミングが良過ぎないかい」

 確信に満ちた瀬島の目を見ているうち、桧垣に不吉な思いが過ぎった。

「では、いずれ彼の身も危なくなるのでは?」

 不安げな桧垣に、瀬島は口元に微笑を浮かべて言った。

「そこは君、あの周英傑氏が黙ってはいないだろう?」

「私としたことが、言わずもがなでした」

 瀬島の示唆で、失念に気付いた桧垣は自嘲気味に言った。

「英傑氏の養子になっていたことが、結果として、強力な盾と矛を手にしたという訳だ。まさに天の配剤というべきだな」

「本人は、この真実を知っているのですか」

「いや。今のところ、まだ英傑氏を実の父と思い込んでいるようだ。いずれ、機を見て御前様自らお話になられるのだろう」

「驚くでしょうね」

「うむ。いくら聡明な彼でも、少なからず心が惑うだろうね」

「それにしても、御前様の血を受け継ぐ者がこの世に存在していたとは、驚きやら嬉しいやら、何とも言えぬ心地です」

 桧垣は躍る心の内を正直に告白した。

「私は五年前から彼を知っているが、見事に御前様の智力を受け継いだ者といって良い」

 瀬島が顔を崩してそう言うと、桧垣も大きく肯いて、

「私も、ほんの一言言葉を交わしただけですが、同じ印象を持ちました」

 と同調した。 

「加えて、周英傑氏に養育されたことで、強靭な精神と肉体も身に付けている。御前様の人脈と英傑氏の資産を受け継げば、彼は将来、日本と中国の両国に影響力を持つことになる。もっとも、彼がそれを望んでいるかどうかはわからないがね」

 瀬島は目を閉じて、瞼の裏に光智の活躍する姿を想像した。

「いずれにしましても、この先いったいどんな人間に育つか楽しみですね」

 桧垣の言葉に、瀬島は目を開けると、

「真にもって……」

と言って、大きく肯いた。


 法務局で石黒企画の法人登記謄本を入手すると、光智はその所在地へと車を走らせた。石黒企画の住所は、西新宿七丁目―XXの柴田ビル四〇一となっていた。  ビルの前にタクシーを横付けさせた光智は、窓越しにその装いを見渡して、暴力団が所有するビルだと分かった。しばらく様子を窺っていると、ビルの中から数名のヤクザ風の男たちが出て来る気配がした。外装を確認できれば長居は無用、と運転手に車を走らすよう指示した直後だった。去り際、目の端に飛び込んだ、ビルに掛かった看板の文字に光智は驚愕した。

――まさか、真司が……?

 雲散霧消する謎と入れ替わるように襲って来た激しい動悸で、光智は言いようのない息苦しさに見舞われていた。


 その頃、麻布署には一人の若者の行方不明捜査の依頼が持ち込まれていた。失踪者が増加する一方の昨今では、決して珍しいことではなく、いきおい事務的になり勝ちになるのだが、捜査を依頼したのが、大手家電量販店の社長・結城真吾だったため、対応した刑事の面に緊張が奔った。

 失踪者が社会的地位のある人物の身内であれば怨恨、資産家であれば誘拐などの事件性を帯びてくるからだ。

 申し出によると、失踪したのは一人息子の真司ということだった。真司とは一昨日から全く連絡が取れない状態で、自宅マンションにも行ってみたが、普段と変わった様子がなかったということだった。家族が知る限りの知人に連絡を取ってみたものの、誰も行方を知らないということだった。

 本来であれば、事情聴取の結果、特段の事件性が感じられなければ、失踪者ファイルに登録するなど、ありきたりの捜査で終わるのだが、刑事とのやり取りを、所用で麻布署に戻っていた中筋が偶然耳にしたことで、状況は一変した。光智の友人の失踪に、中筋の刑事としての勘が働いた。

 中筋からこの情報を伝えられた光智は、思わず身震いした。真犯人の刃が、真吾ではなく真司に向ったのではないかと不安が過ぎったのである。

 光智は、中筋との約束時間を変更し、真吾に会って詳しい状況を聞いた。

 その結果、隠されていた真実が判明した。

 光智の投資グループに加わった際の二十億円は、祖父や真吾の承諾を得たものではなく、真司の個人財産だった。上場した際の創業者利益のうち、祖父の持分の中から、五十億円を生前相続していたのだ。光智の投資グループのメンバー入りを熱望したのは、すでに株式投資で二十億円を損失し、焦っていた真司が光智の正体を知って、損失分を取り戻そうとしたものだと思われた。

 また真吾は、堀尾貴仁からブック・メーカー事業への投資を依頼されたが、十五年前とは異なり、上場企業の経営者としては、適当な事業ではないとの判断から断ったということであった。

 本宮真奈美の件も聞き出した。光智の推測どおり、彼女の両親が非業の死を遂げたことへの良心の呵責から、彼女を養女にしたと告白したが、養子縁組を解消した経緯については明言を避けた。


 時刻は、午後六時を少し回っていた。

 逸る気持ちを抑えきれない中筋は、三十分も前から光智を待ちわびていた。六時前には野崎も顔を出した。石黒企画の所在を確信した光智は、野崎にも同席を求めていた。急遽、彼に依頼したいことができたからである。 

「遅れてすみません」

光智は、二人の顔を見るなり詫びた。 

「気にしないで下さい。それより別当さん」

 と言い掛けて、中筋は光智の様子がいつもと違っていることに気づいた。真司を心配したものと分かった。

「結城さんの方はどうでしたか」

 中筋は気遣うように訊いた。

「株式投資で二十億円の損失を出したこと以外、詳しいことは分かりません」

「株で二十億も……資産家の金銭感覚は、私のような庶民には理解できませんね」

 中筋は、つい呆れ顔になった。

「ただ、それだけで彼が失踪するとは思えないのです」

 光智は不安な表情で言った。

「他に何かありましたか」

  野崎も気遣いを見せたが、光智は後回しにしたい旨を申し出た。まずは、本題から片付けることにしたのである。光智の推測どおり、加賀見は堀尾と同じ日に渡英し、帰国していた。また、堀尾の技術者としての腕前は相当なもので、その気になれば、高度のセキュリティーのコンピューターへも侵入可能なほどであった。

「別当さん、どういうことでしょうか」

 気が急く中筋を目でなだめると、

「順を追って話をします。まず、この三つの事件は同一犯だと思います。そして真相を解く鍵は、やはりイニシャルBMです」

と断言した。

「私も同感です」

 中筋は即座に共鳴したが、野崎は言葉に詰まった。彼には不可解な点があったのである。

「もっとも、実行犯が同一とは限りませんが、裏で指図していた黒幕は同一です」

「その口ぶりですと、やはり大王組ですか」

「いいえ、違います」

「えっ、違う?」

 当てが外れた格好の中筋は肩を落とした。

「で、では誰なのですか」

「それは……」

 光智は一呼吸間を置いた。

「スタイン社のターナー社長とその一味です」

「ターナー社長ですって?」

 中筋は、全く予想外の名前に声が裏返った。

 事件の背景には、ブックメーカーライセンス取得者の今津航が、大王組と縁の深い奈良龍明 と組んだことにあるが、直接的にはターナー社長が堀尾貴仁に脅威を感じたから、と光智は推測した。

 光智は、堀尾が渡英したのはターナー社長と直談判し、ブック・メーカー事業を実質上我が物にするためだと考えた。事実、堀尾自身も成功したと思っていたことだろう。ところが、その手法に黙っていなかったのは、大王組だけでなく、ターナー社長も同じだった。

 彼は、堀尾の提案を了承したと見せかけ、裏で素性を詳しく調査をし、その資金力と技術力、そして行動力に脅威を感じた。つまり今津だけなら自分の支配下に置いて、事実上日本市場を思うままにできる。ところが、堀尾が相手となると、それも儘ならないと感じた。

「では、加賀見はどうして?」

 野崎は自分の持ち場が気になった。

「加賀見も今津のスポンサーだったからです。いや、堀尾さんのスポンサーだった、と言った方が正確でしょう」

「加賀見が? まさか、彼は借金のために、食堂を畳んだのですよ」

「まさにそこが落とし穴でした。ですが、一方で引っ掛かりもあったのです」

 光智は、五千万円もの大金を、金庫にも入れずにいたことが気に掛かっていた。銀行嫌いでれあれば、よけい金庫は必要であるし、土地を売ったため、急に手にした金だとしても、数日間も無造作に置いておくのは不用心過ぎる。借金で苦労した者であれば、なおさら粗末には扱えないのが道理である。もし、金にルーズだったとすれば、売り上げを入れていた手提げ金庫の説明が付かなくなる。

「しかしながら、加賀見が借金で苦しんでいたのは事実ですよ」

 野崎は得心のいかない様子だった。

「ところが、そうではないのです。私が群馬へ行った最大の収穫はそれです」

 光智は小里という女性から聞き出した話--。

 群馬の山林王・仁多甚三郎が、加賀見雅彦の義理の伯父だったこと。

 十五年前、証券界を席巻した堀尾貴仁へ出資者した人物は、その仁多甚三郎であったこと。

 加賀見が、現金で八十億、山林が時価にして四十億は下らないという莫大な遺産の相続者であることを伝えた。

「現金はともかく、ただの山林が四十億ですか?」

「ただの山林ではありません。再開されたダムの建設や道路の予定地になっていて、一坪当り五千円で国が買い取ることになっているのです」

「なるほど。桁の違う大金を前にすれば、五千万など鼻糞みたいなものということですか。でも、どうして食堂を閉めたのでしょうか。借金の返済は容易だったと思われますが」

 野崎の疑問は当然であった。

「おそらく、自分で蒔いた種と遺産相続は全く別物だと考えていたのではないでしょうか。ですから家屋敷を売り捌いてけじめを付けてから、仁多甚三郎さんの遺産を元に、一から新しい人生を歩もうと思っていたのでしょう」

「それがブック・メーカー事業という訳ですか」

 野崎の頭の中で、ようやく事件が一本の線で繋がった。

 風聞とは違い、堀尾貴仁はとても義理堅い人間だったらしく、十五年前に仁多甚三郎を紹介してくれた恩を忘れることなく、借金の肩代わりを申し出たと思われたが、加賀見はそれを断った。そこで、堀尾はその代わりとして今度の事業に誘ったのだと推測された。

「結果として、それが仇になった訳ですか……」

「何とも皮肉な話です」

「しかし、堀尾貴仁と今津航を亡き者にすれば、ライセンスもインターネットの技術力も無い加賀見雅彦は、何もできないと思われますが」

 中筋が堪らず口を挟んだ。これもまた無理のない疑問だった。

「そこです、中筋さん。奈良龍明は加賀見と面識が有ると言っていましたか」

 光智は、加賀見雅彦がライセンスの認可を受けた会社の役員になっていれば、奈良龍明と加賀見雅彦の組み合わせでもブック・メーカー事業は展開できると考えていた。

「あ、そうでした。二度食事をしたと言っていました」

 中筋は、手帳を捲りながら答えると、

「そうか、奈良と加賀見が直接手を組むことも有り得るのか……」

 と自分自身に言い聞かせるような独り言を言った。 

「二度? 三度ではないのですか」

 光智は、確かめるように言った。

「間違いなく二度です。三月二十八日は今津と堀尾を交えて、四月十日は二人きりで食事をしたということです」

 加賀見のノートには、四月十八日にもメモがあった。奈良龍明の証言を信用すれば、BMのメモは奈良や今津の他に、ブック・メーカーの関係者で、第三の男がいることを示唆している。

 BMの謎は、依然残ったままとなった。

「しかし、ターナー社長にとっては、野心を抱く堀尾が脅威なのであって、奈良と加賀見ならば歓迎すべきことではないですか」

 中筋の疑問は的確だった。

「その通りです。加賀見の殺害に関しては、彼は殺害の意思が無かったと思います。ところが、加賀見の殺害を強力に主張した者がいました」

 光智は、奈良と加賀見の存在はその共犯者にとって都合が悪かったと考えた。だが、加賀見雅彦と違い、奈良龍明には背後に大王組が控えているため、迂闊には手が出せないということである。

「そいつが一味なのですね」

「そうです」

「奈良と加賀見が組んで、ブック・メーカー事業を押し進めると都合の悪い者……」

中筋は視線を宙に向けて考え込んだ。

「しかも、二人は大王組と深く結び付くことになります」

「まさか、稲墨連合……」

「中筋さん。これを見て下さい」

 光智は、法人登記謄本を中筋に差し出した。

「この石黒企画という会社は、稲墨連合傘下・郷田組のフロント企業かと思われます。この会社を通じて、ターナー社長から郷田組へ金が流れているのでしょう。役員の中に幹部の名がないか調べて下さい。もっとも、第三者を絡ませるといった用心をしているかもしれませんがね」

「すぐに調べましょう。でも、どうしてそこまで分かったのですか」

「念のため、会社の所在地である西新宿七丁目・柴田ビルまで行って来ました」

 石黒企画の所在地を調査した光智は、稲墨連合所有のビルのテナントであることを突き止めていた。稲墨連合は、ただ大王組と敵対関係にあるというだけではなかった。ターナー社長と稲墨連合は、スタイン社が日本に進出したときから、協力関係にあったのである。

「そこまで……」

 中筋は、光智の好意に胸を詰まらせた。

「ビルの看板を見て、郷田組の所有するビルだと確信しました」

「看板を見ただけで、郷田組と特定を?」

 中筋は不可解な声を臭わせた。いかに光智が聡明であっても、フロント企業が極道の金看板を掲げているはずがない。

「ええ。東亜ファイナンスという、郷田組の別のフロント企業の看板があったからです」

 光智は、村井の情報から東亜ファイナンスという金融会社が、郷田組のフロント企業であることを告げた。

 中筋は事情を飲み込んだものの、苦渋に満ちた表情に、真司との関連を読み取った。

「別当さん。気に掛かることとは、いったい何ですか。そろそろ話して下さい」

「取り越し苦労かも知れないのですが」

「ええ……」

中筋は息を詰めた。

「東亜ファイナンスは、結城真司の実家が経営する結城電器の大株主に食い込んでいるのです」

「そういうことですか。石黒企画と東亜ファイナンスが、共に郷田組のフロント企業ということで、結城家または真司君が、今度の事件に関わりがあるのではないかと直感されたのですね」

 中筋は、即座に光智の懸念を理解した。

「全くの偶然とは思えないのです」

 光智も、真司が実行犯に加わっているとは考えていなかった。だが知ってか知らずか、あるいは脅迫されていたかはわからないが、犯罪の一翼を担ったと思えてならなかった。さしあたり、林の抜け道の存在を知っていることから、郷田組の情報源だったと考えられた。

「矢崎さんが目撃した男女は、真司と連れの女性だと思います」

 光智の目には迷いがなかった。冗談で言った堀尾殺害の目撃を、真司は真顔で否定した。きっと、間もなく目撃するであろう加賀見の殺害を重ね合わせていたに違いない。

 野崎は中筋と顔を合わせた後、

「目的は何ですか?」

 と訊いた。

「私を試すためではないかと推察します」

 光智は自分を窮地に陥れ、どのように解決を図るか、具体的にどの権力筋が動くのかを確認したかったのだろうと言った。

「案の定。司法の大物OBが動きましたが、真司君がそれを知って何の益があるというのです」

 野崎は率直に訊いた。これもまた当然の疑問である。さすがのベテラン刑事の二人も、光智の頭の中を理解するのは骨が折れた。

「真司にではなく、背後で操っている誰かにあるのでしょう」

「背後……、それも大王組、あるいは稲墨連合ですか」

「私も、当初はどちらかだと思っていましたが、最近は何となく両者とも違うような気がしています。もっと大きな闇が、彼らの背後で蠢いているように思えてなりません」

「指定暴力団より大きな闇ですか」

 野崎は当惑したように呟いた。

 光智は、神戸の夜の『ある使命』という父英傑の言葉と関わりがあるような気がしていた。

「公衆電話の慰留指紋から、連れの女性には辿り着けませんか」

 中筋が訊いた。

「残念ながら、真司は録音されることも考慮して、足の付かない女性を同行させるぐらいの計算は働く男です」

「そうでしょうね。しかし、真司君が友人である貴方を陥れるとは信じられません」

 野崎の声には同情の色が滲んでいた。

「それだけ、抜き差しならぬ事情があったということなのでしょうね」

「どのような」

「それはまだわかりませんが、ただ彼の行動は、私を陥れるためだけとは思えません」

 光智はやるせない表情で野崎に言った。

 真司は、光智が加賀見殺害の第一発見者だと知って驚きはしたが、その反応には違和感があった。光智が加賀見宅へ出向くことを知っていたと考えれば腑に落ちた。サンジェルマンに仕掛けられていた盗聴器は、光智を監視するためのものだったのであろう。ママの玲子から、度々留守番を仰せつかった真司は、サンジェルマンに盗聴器を仕掛ける機会があった。

「しかし、彼が現場に出向こうにも、犯行がいつ行われるかわからないはずですよ」

 野崎は、偶然現場に居合わせた女性の通報説を捨て切れなかった。

「郷田組は、曜日と夕方の時刻を指定して、人通りなどの状況を聞いたのではないでしょうか」

「なるほど、そこから犯行時刻を類推した」

 野崎は納得したように頷いたが、

「そうであれば、夜はもっと都合が良かったのではないでしょうか」

 と新たな疑問を投げ掛けた。

 光智は黙って顎を引くと、

「当然、真犯人は夜の面会を求めたのでしょうが、さすがに加賀見さんは断ったのでしょう。そこで、何とか人通りの少ない日曜日の夕方の面会を取り付けた」

「そこで、真犯人は逃走ルートを確保しておく必要に迫られたということですか……」

「もっとも、上杉さんとの約束時間は午後六時でしたから、その十五分も前に私が動いたのは計算外だったでしょうが……」

「わかりました。貴方の勘でしたら、調べてみるに値します」

 と、野崎はようやく得心したように言った。光智に呼び出された理由を理解したのである。

「それで、私は何を調べれば良いのでしょうか」

「加賀見殺害時刻の、真司のアリバイを調べてもらえないでしょうか。全くの勘ですが、そこから闇の正体も見えてくるかもしれません」

「ふむ。真司君の失踪も気になりますので、関係者に当たってみましょう」

 野崎は、光智の心中を慮って快諾した。

 光智は話を元に戻した。加賀見殺害は、自分たちに先んじて大王組に本腰を入れられては困る稲墨連合の意向が強く働いたものと、光智は推測した。加賀見を殺害したところで、大王組が本気になれば、ブック・メーカー事業を進めることは容易であるが、暴力団は未確定な事業に、大金を先行投資などはしない。リスクを負わずに美味しい蜜だけを吸う集団のはずである。したがって、加賀見殺害は、十分大王組に一撃を加えることになる。

「今津は、なぜ殺されたのです。ターナー社長は、彼の後見だったはずです」

 中筋には、どうしても解けない謎であった。

「彼は、今津をどうするか迷っていたのでしょうね。ですから、堀尾と加賀見を殺害してから間が空いたのだと思います。ところが、ここにきて今津の裏切りが判明したのです」

「殺されるほどの裏切りとは、彼は何をしたのですか?」

「堀尾さんと今津は、スタイン社のコンピューターにハッキングしていたと思われます」

「ハッキング?」

 中筋の頭には何も響かなかった。

「日本人の顧客リストと、コンピューターのプログラムか、システム及びプログラムの仕様書を盗むためです」

 プログラマーは、仕様書に従ってプログラムを製作する。大工が設計図に沿って家を組み立てるのと同じである。故に、プログラムの質を決めるのは、まさに仕様書の質に掛かっていると言えた。つまり、プログラムそのものを盗めなくても、システム仕様書とプログラム仕様書を盗むことができれば、製作費と製作時間の大幅な節約ができるだけでなく、スタイン社の最新のノウハウをそっくり入手することにもなる。

「ターナー社長にとっては、重大な裏切り行為ですね」

 中筋も、ようやくソフトウェアーの重要性を理解した。

「今津航はスタイン社を離れましたから、さすがに直接コンピューターから盗み出すことはできません。そこで、堀尾さんの技術者としての能力を使い、ハッキングしたのだと思います」

 いくら堀尾でも、闇雲にハッキングすれば時間が掛かる。光智は、今津の部屋が荒らされていたことから、内部事情に詳しい今津が道案内をしたと推理した。堀尾の裏切り行為によって、一見今津と堀尾は敵対関係に見えるが、スタイン社の最新ソフトを入手するという共通の利益がある。

「そうだとすると、堀尾の部屋が荒らされないのは何故ですか。すでに立ち入り禁止は解けていますが」

「そこです。何故、堀尾ではなく今津が所有しているとわかったのか。というより、そもそも極秘だったはずのハッキング行為をどうして知ったのか。それは真犯人が今津航のごく近くにいる人物だからとは考えられませんか」

 光智は、目で中筋に問い掛けた。

 堀尾と加賀見は、共に自宅で殺害されている。しかも、一旦は招じ入れられているのだ。特に加賀見は、堀尾が殺害された直後だけに、用心をして滅多な者とは会わないはずである。となれば、彼とは相当な顔見知り、しかもブック・メーカーに関係している人物となると、自ずと限られてくる。

「しかし、堀尾の場合は深夜に近い時間です。いくらブック・メーカーの関係者でも、今津以外の人物に会いますか」

 と、中筋は訊き掛けて、気が付いた。

「そうか。それで女性を餌に使ったのですね」

「はい」

 光智は大きく頷いた。

「となれば、堀尾がご執心だった女性となると、まさかベルサイユの沙耶香さん?」

「いえ。本命は沙耶香さんではなく、真衣という女性です」

「真衣? ベルサイユでちらっと見かけましたが、彼女はずいぶんと背が高かったはずです。モニターに映っていたのは普通の女性でした」

 中筋の胸には、雲霞の如く次から次と疑問が湧いた。  

「そこが盲点です。どうしても背の高い方が男性だという先入観が働いてしまいます」

「では、男女が逆……、とすると、背の低い方が男という訳ですか」

 女装までは考えが及んだ中筋も、小柄な方が男とは推測できなかった。

「そこで、中筋さん。捜査上に、今津の近くで『ババ』という名の小さな男が挙がっていませんか」

「今津の近くで、小さな男、ババ……あっ、居ました」

 中筋は弾けるよう言った。どこか不気味な印象を感じた男を思い出したのである。

「今津を訪ねたとき、小柄な男がスタッフとして居ました。もし彼の姓が『ババ』だったら、イニシャルはB。名前によっては、BMは彼ということも有り得ますね……」

「その男なら今津と行動を共にしていたでしょうし、今津の代理と称して、単独で堀尾さんや加賀見と会っていたとも考えられ、家の中に入り込むこともできます。住所はわかりますか」

「いいえ、残念ながら。もう、姿を暗ましているでしょうね」

 中筋は悔しさを滲ませた。

「大丈夫ですよ、中筋さん。奈良龍明に聞けば、何かわかると思います。大王組の動向を探るためにも、ババは奈良と会っていたでしょうし、それに彼にはまだやることもあるでしょうから」

「さっそく、本庁に連絡を入れます」

中筋は、席を外して森野係長に電話を掛けた。その機を捉えて、野崎もまた、釈然しない胸の内を吐露した。

「今津は、堀尾と加賀見が殺害されたのに、身の危険を感じなかったのでしょうか」

「彼も、二人の殺害は大王組の仕業だと思い込んでいたのです」

「だから、奈良龍明との関係を良好にしておけば大丈夫だと? ババというのは何者ですか」

「ターナー社長が、今津の裏切りを警戒して付けた監視役でしょう」

「そいつが稲墨連合の息の掛かった男という訳ですか」

 光智は、仁多家の周りを探っていたヤクザ風の男たちとは、ババから今津と接触した加賀見の身辺調査を依頼された、郷田組の組員だと見立てた。

「しかし、いまさらながら素朴な疑問があります」 

 電話を終えた中筋は、気が咎める素振りで訊いた。

「何でしょう」

 光智は柔和な表情で応じた。

「ターナー社長は、なぜ今津に郷田組を紹介しなかったのでしょう。浮気をせず郷田組と組んでいれば、このような連続殺人は起きなかったはずです」

「全くその通りです。おそらく、ターナー社長は間口を広げていたのでしょう」

 日本の裏社会が、大王組と稲墨連合でほぼ二分されていることは、ターナーも承知済みであろう。規模では大王組が上だが、稲墨連合の本拠地は、何と言ってもあらゆる日本の中心地・東京である。ブック・メーカー事業の迅速な普及のために、まずは稲墨連合と組んだターナーだが、いずれ大王組とも関係を持ちたいと望んでいたはずである。

「なるほど。ターナー社長は、自ら幅を狭めることはせず、今津に成り行きを任せたということですか」

「今津が大王組と組めば、実質日本市場は彼の独占市場となります。ターナー社長にとっては、堀尾さんの登場が誤算だったということでしょう」

「ターナー社長の欲が、悲劇の引き金を引いたのですね」

 席に戻った中筋の声には怒気がこもっていた。光智も呼応するように声を荒げた。

「実に腹立たしいことです」

「真衣は、ババの『これ』でしょうか」

 中筋は、ずいぶんと古臭い、左手の小指を立てるという仕草をした。

「そうです。沙耶香さんによると、最近塞ぎ込みがちということですから、彼女は何も知らずに、無理やり引き込まれた可能性が高いですね」

「では、犯行を知っている彼女の身も危ういのでは?」

 はい、と言って光智は肯いた後、

「それが、さっき言ったババのやり残した最後の仕事だと思います。彼女を始末した後で、英国へでも逃亡するつもりでしょう。これ以上の悲劇は、何としても食い止めなければなりません」

 と継いだ。

「貴方の推測通りだとすると、時間が有りませんね。すぐに本庁へ戻り、捜査会議に諮るよう進言します」

 中筋がそう言うと、二人は飛ぶようにして部屋を出て行った。


 中筋から連絡を受けた森野係長は、石塚と都倉を奈良龍明が滞在するホテルに急行させた。

 奈良は入浴後であったらしく、ガウンを着用して応対した。彼は一転して協力的だった。大王組の手を煩わすことなく、郷田組にダメージを与えるという思惑があったからである。

 奈良龍明の供述から、今津航の身辺にいた小柄な男の名は馬場聡(ばばさとし)、三十歳と判明した。光智の睨んだとおり、稻墨連合傘下・郷田組の元組員ということまで聞き出した。奈良自身も、独特の嗅覚で馬場が自分と同種の人間と見抜き、調べを付けていたのである。

 聴取を済ませた二人が部屋を出たときだった。ドアを閉めようとした都倉の脳が激しく揺さぶられ、身体が硬直した。顔面からは血の気が失せ、小刻みに身震いが始まった。

 異変に気付いた石塚が声を掛けた。

「都倉君、どうかしたのか」

「刺青……、刺青がありました」

 どうにかドアを閉めた後、都倉は震える唇で言った。

「刺青? 何のことだ」

「奈良は、奈良龍明は、父を殺した真犯人かもしれません」

「何だと!」

 石塚の声が廊下に響き渡った。


 神戸の澤健組では、組長の澤村健治が、腹心の勝部幹夫に決意の胸中を明かしていた。

 一週間前、澤村は本家に呼び出され、親分である山城から跡目相続を打診されていた。山城は七月の最高幹部会議において、年内限りでの勇退を表明するというのである。

 むろん、澤村は慰留した。たしかに裏社会の頂点である大王組組長の任務はことのほか重く、肉体的、精神的な疲弊は想像を絶するものがある。山城はその激務を七年も務め上げてはいるが、とはいえまだ六十四歳である。六代目を退くには早すぎた。

 だが、山城の決意は固かった。目の黒いうちに跡目を自分に譲るため、というのが表向きの理由だが、澤村には真の理由を察していた。

 光智の命を取るためである。

 山城は、大王組と関わりのないところで、事を成就しようとしているに違いない。澤村はそう確信していた。

 それからというもの、澤村は忸怩たる思いに苛まれ続けた。責任の一端は、いやその大部分は、若頭である自分に有る。ところが、山城は一言も責めることもなく、それどころか七代目を継がせるというのだ。

 澤村は、このまま七代目を引き継げば、任侠道に悖ると悩んでもいた。彼の侠客としてのプライドが許さないのである。

 そのような澤村の前に、ある男が訪ねて来た。彼はその男との再会で、山城の勇退の餞に、光智の命を取ることを決意したのである。

「勝部。五億ほど用立ててもらえるか」

 一応下手には出ていたが、有無を言わさぬ口調だった。

「いつでも用立てます」

 勝部は即諾した。彼も、山城の口から七代目の話が出たことを聞いて、この金が何に使われるのか察していた。澤村の性分を良く知る彼は、瞬時に光智の命を取るための軍資金であるとの見当を付けたのである。

 勝部にしても、ここで金を渋る訳にはいかなかった。念願だった澤村の七代目就任が現実化したのである。澤村は、光智の命が取れないと見るや、責任を取って跡目は継がないだろう。そうなれば、今日まで尽くしてきた努力が水泡に帰すことになる。

 しかも、五億円という金は、光智から貰ったのも同然の金であった。結城真司からの情報で、牧野モーター株に五十億円を投資し、十パーセント余の値上がり状態になっていた。つまり、五億円の利益を生んでいるのだ。

 むろん、いま売り抜けるつもりはないが、計算上は敵から塩を送って貰ったのも同然であった。その金が、光智自身の命を狙う軍資金となるのであれば、勝部にしても、多少は胸のすく思いになる。

 したがって、金を提供することには何の躊躇もなかったが、如何にして光智の命を取るか、その方法が問題であった。勝部は、澤村自身があれほど慎重を期していた、光智暗殺の手立てをどのように付けたのかが知りたかった。

 勝部は、澤村の顔色を伺った。

「若頭。妙案が浮かびましたか」

 すると、澤村は不気味な笑みを浮かべ、

「勝部。郭峰立(クオ・フォンリー)を覚えているか」

 と訊いた。

「郭? 元虎鉄組の郭ですか」

「そうや。先日、あいつが三年ぶりに訪ねて来よっての。そこで思い付いたんや」

 そう言った澤村の目は、久しぶりに底光りしていた。

 北九州の繁華街・中州の一部を縄張りとする虎鉄会の会長だった郭は、十二年前のいわゆる九州戦争の際、獅子奮迅の活躍で澤村に合力した武闘派の極道だった。 敵対する九州侠道会の会長を殺害した罪で、七年の懲役となったが、出所後抗争時の功績が認められ、山城忠徳から直参若衆の盃をもらった。五年前のことである。

 ところが僅か二年後、大王組が厳禁としていた覚醒剤に手を出したことで、山城の逆鱗に触れ、破門となってしまった。組は解散、組員は他の組織に預けられ、在日中国人三世の郭は、親戚を頼って香港へと渡った。そのとき、澤村は人目に付かないように、餞別として五千万円を渡した。

 郭はそれを元手として、日本人観光客向けに模造品の販売や売春の斡旋などの事業を始めたが、何せ弱小組織のこと、しだいに強まる龍頭の圧力の前に、商売が立ち行かなくなった。そこで、日本で再起ができないものかと、澤村を頼って日本に舞い戻ったのである。

 若頭という立場上、破門になった者との接触は、決して好ましいことではなかったが、武闘派の極道は得てして人情に脆い。ご他聞に漏れず、澤村も郭の懇請に、人目を避けて会うことにしたのである。

 澤村は、郭の相談に乗っているうち、ふとこの男を使えないかと思った。郭は、澤村も舌を巻くほどの武闘派である。しかも、九州戦争では生死を共にした戦友でもある。なまじの身内より、よほど信用が置ける。

 澤村は、別当光智暗殺計画を郭に漏らした。すると、郭は二つ返事で了承した。 龍頭には、彼自身も意趣があったし、武闘派としての血も騒いだが、何よりも破門された身である自分に、五千万円もの餞別をくれた澤村に対する恩義を返せると思ったからである。

 しかも、郭はその場で綿密な計画まで提案した。

 郭は、一年の時間を掛けて計画を推進するとした。まず、ヒットマンとして十名を集める。中国内陸部の農村地帯は、極貧生活者が多く、百万円の支度金を渡せば、喜んで引き受ける。念のため、郭は眼鏡に適う者を集めるべく、半年ほど掛け、自ら足を伸ばしてリクルートをするという。

 光智が、龍頭の後継者であることは伏せるものの、日本の暴力団の息子という触れ込みにするため、報復を覚悟する肝の据わった者が必要だからである。

 その後、十名をプロの暗殺者に仕立て上げるため、さらに半年掛けて訓練をする。銃の扱いはもちろん、日本での生活に順応するため、簡単な日本語や生活習慣を身に付けさせるのである。

 澤村にとっては、この上ない妙案だった。もし、計画が失敗に終わっても、暗殺者の十名には光智の正体を知らせないので、大王組の関与までは辿り着けない。郭自身は、龍頭には商売を潰された恨みという動機があるし、殺されても口を割るような男ではない。また龍頭も、大王組を破門になった男であるから、恨みこそすれ、協力などするはずがないと見るだろう。

 澤村は、二日間熟慮した結果、この計画に賭ける決意を固めた。山城忠徳から、跡目相続の話があったのが一週間前。まるで、その話を聞き付けたかのように、突然郭が目の前に現れた。軍神・毘沙門天を背に彫るほど信心深い澤村は、これは神の思し召しだと信ずることにしたのである。

 勝部幹夫の予想した通り、五億円は経費だった。十名には、事の成否に拘わらず、一人につき一千万円の報酬とした。郭には一億円、他に一年間の生活費、遊興費、武器類や偽装パスポートの購入、日本での滞在費、そして事が成ったときの逃走資金等々、合わせて五億円であった。

 話を聞いた勝部は、詳細は追々詰めるとしても、考え得る最上の方法だと思った。

「なかなかの良策だと思います。私も全面的に協力致します」

 勝部も腹を括ったように言った。

 こうして、光智暗殺計画の幕は切って落とされたのだった。

 

 捜査会議は粛々と進行した。

 中筋から報告を受けた森野係長は、直ちに竹中捜査本部長に上申し、緊急捜査会議の開催となったが、特に異論も無く、その後の捜査方針が決定された。 

 光智の推理と知って、反駁するであろうと思われた鵜飼と安宅も、何ら声を上げることなく終わった。一度は中筋を槍玉に挙げた彼らだったが、その後の捜査に何の進展もない状態では、捜査本部ですら及びもつかない、光智の端倪すべからざる推理に、味噌を付ける言葉が無かったというのが真相だった。

 奈良龍明の証言を足がかりに捜査を進めたところ、馬場聡は三年前に郷田組から足を洗って堅気になったと見せかけ、その実ブック・メーカー事業の尖兵として、ターナー社長の許に身を寄せていた。そして、今津のライセンス取得を機にスタッフとして入り込んだのである。

 またスタイン社は、企業舎弟である石黒企画を通して郷田組に利益供与をしていたことも明らかになった。これらはいずれも、本格的な日本進出に備えての、ターナー社長の深慮遠謀だったのである。だが、当の馬場聡はすでに行方を暗ましていた。

 一方、六本木のクラブ・ベルサイユの真衣は、本名が山内静香、二十三歳。本籍は、島根県隠岐郡西ノ島町X―XX―Xと分かった。彼女もまた、中筋らが出向いたときには、姿を消した後だった。

 捜査本部は、馬場聡と山内静香を重要参考人として身柄の確保に全力を挙げた。特に島根県警には、彼女が実家に立ち寄る可能性があるため、周囲の警戒を依頼したが、一週間を過ぎても二人の行方は杳として知れなかった。

 ただ、馬場が出国した形跡もなく、不法出国でもしない限り、国内に留まっている可能性が高いと見られ、馬場による真衣こと山内静香殺害という光智の推理がいっそう現実味を帯びていった。


 捜査会議の後、都倉は石塚と中筋に相談を持ち掛けた。中筋は、十六年前の事件の捜査に加わっており、当時都倉少年から事情を聞いた刑事の一人であった。

「事件は、昨年時効になっていますから、継続捜査も打ち切られているはずです」

「遅かったのか……」

 遠慮がちに言った石塚の横で、都倉は悔しさを滲ませていた。

「いや、それはどうかな」

 中筋は意味深い表情をしていた。

「どういうことですか」

 都倉は意気込んで訊いた。

「今津の話だと、奈良龍明は度々長期の海外旅行をしていたということだから、ひょっとしたら時効前かもしれんぞ」

「なるほど、国外にいる日数は時効の計算には含まれない。では、さっそく入出国記録を調べてみましょう」

 言い終わる間もなく、都倉は席を立とうとした。

「待て、都倉君。管轄外の我々が勝手に動くことは厳禁だ。しかも君は身内だから、そもそもこの件の捜査に加わることはできない。それより、本当に奈良龍明で間違いのか?」

 中筋が慎重を期した。

「はい。ドアを閉めようとしたとき、ガウンを脱ごうとした奈良の右前腕に刺青がありました」

「確か、蛇だったな」 

「ええ。遠目だったので、蛇とは断定できませんが、細い縦長の彫り物でした」

「それだけでは何とも言えないな。蛇の彫り物をしている奴は他にもいるだろうし……」

「でも、奈良龍明が真犯人のような気がします」

 都倉の目には迷いが無かった。

「他に何か有るのか?」

「奈良の取調べのときはわからなかったのですが、刺青を見たとき、十六年前トイレでぶつかった男だと直感したのです」

「たしかに、その感覚は君しか響かないものだろうな」

 そう言った中筋自身も、違和感の正体がわかった気がした。ルネッサンス・東京ホテルでの奈良龍明の声の変化である。奈良が都倉刑事殺害の真犯人であれば、時効寸前での警察の来訪には、肝を潰したに違いない。それが、堀尾貴仁殺害の件と聞いて安堵した声に変わった。そう仮定すれば、得心できたのである。

「よし。森野係長に相談してみよう」

 中筋は、都倉の肩を叩きながら言った。

 森野は、まず奈良龍明の入出国記録を調べさせた。出国期間が十四ヶ月未満であれば、時効成立となり、刑事事件として扱えないのである。

 コンピューターの入手国記録から、奈良は事件発生時から今日までに、回数で十八回、合計日数は四百五十二日、つまり約十五ヶ月の期間出国していた。時効まで一ヶ月と余日残す計算となった。

 続いて、奈良龍明のDNA鑑定が必要だと森野は考えた。十六年前の事件では、殺害現場から数種類の毛髪を採取していたと記憶していた。その中に奈良のDNAと一致する物があれば、犯行の蓋然性が高くなる。再捜査のためには最低限の条件であった。

 幸い、奈良龍明のDNAは判明していた。先の事情聴取の際に、彼が口に付けた湯飲み茶碗から唾液を採取し、分析済みだったのである。

 急遽、鑑識課に比較鑑定を依頼した結果、見込み通りに、殺害現場から採取されていた十二種類のDNAの中に、奈良のそれと一致する物があった。森野を始め、石塚、中筋、都倉の意気が上がったのは言うまでもない。

 通常、このような手法で採取された場合は、公判における証拠能力を失う。裁判所の令状による家宅捜査か、本人の同意の下に提出されたもの場合でなければならないのである。だが、捜査の進展、あるいは本人の自供を引き出すのには有効な物証であることに間違いはない。

 森野は、竹中捜査本部長に報告した。

 竹中は、即断で特命捜査対策室に再捜査を命じた。未解決事件の継続捜査を担当する部署である。一般の事件ではない、警察官殺害事件である。社会秩序への挑戦であり、十六年前の汚名返上の意味でも、犯人検挙は竹中にとっても悲願なのである。

 本来であれば、いかに容疑者が浮上しても、継続捜査員に与えられた一ヶ月余りの時間というのは、あまりに短いといえた。この限りある時間の中で、十六年の時を超えて、風化しつつある事件を解決することは至難の業だからである。

 だが、今回のケースは、奈良龍明が堀尾貴仁殺害事件の捜査対象になっていたため、彼に関する詳細な情報を掴んでいることが追い風となる。

 竹中捜査本部長は継続捜査員に、森野、石塚、中筋、都倉を加えて捜査会議を開いた。

 継続捜査班側からは、殺害現場のトイレは事件当日の午後五時に、区の清掃員によって掃除されていたので、採取された十二種類の毛髪や陰毛はその後に利用した人物の遺留物であり、真犯人の物が含まれている可能性は高い、との報告がなされた。刑事という職柄、都倉の父が犯人と揉み合っていればなおさらである。

 これに対して森野は、

 都倉が目撃したという『蛇』の刺青の確認。

 奈良に対しての脱税での刑事告訴を東京国税局に要請。

 の二点が必要と応じた。

 蛇の刺青に関しては、肌を合わせている宮崎綾香の証言で確認することとした。その上で、東京国税局の告訴を受理次第、逮捕に踏み切るという方針が固まった。竹中捜査本部長は刑事部長に上申し、東京地方検察庁と公判維持についての協議に入った。

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