宴の準備

男は奇妙な島に漂流していた。辺りに生える木は膝よりも低く、海を泳いでいる魚は金魚よりも小さい。どうやら、この島にあるものは全てが数十分の一程度の大きさのようだ。男はまるで自身が、ジオラマの中にいる怪獣であると感じた。

砂浜で呆然としていると、森からガサゴソという音と共に親指ほどの大きさの人間が現れて言った。

「神の使いよ。ようこそおいでくださいました。」


小人に案内され、実際には小人を手のひらに乗せながら、島の中央に数分歩くと、集落らしきものがあった。男にはミニチュアの小屋が乱雑に並んでいるように見えたが、わらわらと出てくるの小人の数を見ると、そこそこ繁栄しているらしい。


小人達が言うことには

神の使い、つまり男のような巨人は数十年に一度の単位でこの島に現れる。そして、神の使いは《社》作りに協力し、その完成の後に島総出の大きな宴が開かれる。

というのがこの島の伝承らしい。


「今の社を壊して、建て替えてくれませぬか。」

小人の長老に言われ、男は集落の外れにある、犬小屋ほど、犬小屋といってもこの島の人間からすると公民館や体育館ほどのサイズはゆうにあるだろう社に触れた。


白い柱で支えられていた社は、いったい何年前に作られたのだろうか、触れただけで崩れるくらいには風化していた。

男は周りから木を何十本か引き抜き、砂浜から取って来た砂と石を使って新たな社の土台を作った。


やがて、日も落ちかけた頃に小人達は大量の食料を抱えて男のもとにやって来た。

「流石は巨人様は仕事が早い。お疲れでしょう。ご飯を持ってきました。」

どうやら、彼らは村の食糧庫を解放し、そのほとんどの食材を男に分けてくれるようだ。そんなことをしてお前達は大丈夫なのかと聞くと、私達の心配は不要です。どうかこれもお食事が済んだらお飲みくださいと、荷車にのせて酒がなみなみとつがれた杯まで運んできた。


やはり一仕事した後の酒はうまい。男は満足しながら、食後の文字通り一杯を楽しんでいた。その時、手元の杯を見てふとあることに気がつく、まるでこの杯は人間の頭蓋骨のような。

そう思った瞬間、強烈な眠気に襲われ男は瞼を閉じた。


男が眠りにつくと、小人達がわらわらとやって来て彼の肉体を丁寧に切り分けていく。やがて男だったものは骨だけが残る。骨はロープによって引き上げられ、社へと運ばれていく。男の脊柱は小人達にとっては立派な大黒柱になる。


数日後、そこには白い柱が並ぶ社が完成していた。社の真ん中には大きな杯になみなみと継がれた酒が、食糧庫にはたっぷりの肉がある。さあ宴の始まりだ。

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