イシコロ君のおつかい

梨兎

第1話 おつかい

 ころころころ お買い物

 ころころころ どこへお買い物?

 ころころころ お肉屋さん


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「こんにちは」

 イシコロ君は店先であいさつしました。しかし、お店の人が出てきません。

「こんにちは」

 イシコロ君は、もう一度、先ほどよりも大きな声であいさつしました。すると、ブタのぶたろう君が出てきました。

「はい、こんにちは」

「ぎゅうにくをください」

「ぎゅうにくだね。ちょっと待ってておくれよ」

 ぶたろう君は手際よく牛肉を笹の葉で包みました。

「あれ、イシコロ君。一人で来たのかい?」

「今日はおつかいなんだ」

「それはすごい。はいよ、お待ち」

「ありがとう。はい、お金です」

 イシコロ君はぶたろう君にお金を払い、牛肉を手に入れました。

 持っていたカゴにイシコロ君は牛肉を入れます。ずしっと重くなりました。

「まいどあり!」

「ありがとう、ぶたろうくん。またね」

「またな、イシコロ君」



 ころころころ お買い物

 ころころころ どこへお買い物?

 ころころころ 八百屋さん


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「こんにちは」

 少し自信がついたイシコロ君は、大きな声であいさつしました。

「こんにちは」

 イシコロ君のあいさつに答えてくれたのは、うさぎのうさみちゃんです。

「あれ、イシコロ君ひとり?」

「今日はおつかいなんだ」

「ええ、すごいね」

 うさみちゃんは両手を広げておどろきました。

「うさみちゃん、ニンジンとたまねぎとジャガイモをください」

「ごめんね、イシコロ君。ニンジンはさっきうさぎのお姉さんが買っていってしまったの。ジャガイモももぐらさんが買っていってしまってね。たまねぎしか売ってあげられないの」

「そうなんだ。じゃあ、たまねぎを一つください」

「たまねぎ一つね」

 うさみちゃんはたまねぎを一つ、イシコロ君の持っているカゴに入れました。ずしっとカゴが重くなりました。

「はい、お金です」

「まいどあり!」

「ありがとう、うさみちゃん」

「またね、イシコロ君」



 ころころころ お買い物

 ころころころ どこへお買い物?


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「あれれれれ? イシコロ君、どうしたの?」

 イシコロ君に話しかけてきたのは、プレーリードッグのプドくんです。畑でなにやら作業をしています。

「プド君。おつかいをしていたんだけど、八百屋さんにニンジンとジャガイモが売っていなくて、困っているところなんだ」

「なーんだ。なら、うちのニンジンを持っていくといいよ」

 プド君はふさふさとしたニンジンの葉っぱをつかむと、引っこ抜きました。すると、オレンジ色のニンジンが現れました。

「うわ、すごいりっぱなニンジンだね」

「だろ? 大切に育てたからさ」

 えへへ、とプド君は照れました。

「これ、イシコロ君にやるよ」

「こんなりっぱなニンジンもらえないよ」

「んー、なら、売れないニンジンをやろう。商品にはならないけど、味は同じだから」

 プド君は次から次にニンジンを引っこ抜き、ねじれたニンジンをイシコロ君に渡しました。

「形は悪いけど、味は変わらないから」

「ねじれてるニンジンなんて、初めて見た。いいの、もらちゃって」

「ああ、売り物にならないものは、みんなにあげることにしてるんだ」

 イシコロ君はねじれたニンジンをカゴに入れました。ずっしりと重みを感じます。

「ありがとう、プドくん」

「いやいや、たいしたことしてないって」

 またね、とイシコロ君はプド君に言いました。

「またな」



 ころころころ お買い物

 ころころころ どこへお買い物?


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「あれれれ? イシコロ君? どうしたの、こんなところまで」

 イシコロ君に話しかけてきたのは、プレーリードッグのレグ君です。レグ君は畑で穴を掘っています。

「あ、レグ君。さっきプド君にニンジンをもらったんだ」

「兄さんにニンジンを? なら、オレもなにかあげよう。つっても、ジャガイモしかないけどな」

「え、ジャガイモ! ぼく、ジャガイモがほしいんだ」

「そうなのか? ならいくらでも持っていけよ。山ほどあるからさ」

 レグ君はほりほりと器用に前足を使って、ジャガイモを掘り始めました。一つ、二つ、三つ。

「この大きいのをイシコロ君にやろう」

「え、大きすぎるよ、レグ君。あ、その小さいのでいいよ」

 イシコロ君は、イシコロサイズのジャガイモを指さしました。

「こんな小さいのが欲しいのか? こんなの売り物にならないから、たくさん持っていきなよ」

 レグ君は小さなジャガイモをイシコロ君に渡しました。イシコロ君は受け取り、カゴへと入れていきます。ずっしりと重みが増しました。

「ありがとう、レグ君」

「こんなんでよければ、いつでも言えよな」

 またな、とレグ君は土で汚れた手をいっしょうけんめい振りました。

「またね、レグ君」



 ころころころ お買い物

 ころころころ どこへお買い物?

 ころころころ スーパーへお買い物


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ


 きょろきょろ

 きょろきょろ

「おかしいな、このへんにあるはずなのに」

 イシコロ君はカレーのルウをいっしょうけんめい探します。しかし、見つかりません。

「あの、すみません」

 イシコロ君は店員さんに聞くことにしました。

「なんですか? あら、イシコロ君、どうしたの?」

「カレーのルウってどこにありますか?」

「カレーのルウ? ああ、ごめんね、イシコロ君。カレーのルウ、さっきオオカミさんが全部買っていっちゃったの。なんでも、大人数でカレーパーティーをするって言って」

「え! そんな......」

「困ったわね、在庫もないし......そうだわ、近くにある便利屋さんに行ってみたらどうかしら。あそこならなんでもそろっているから」

「便利屋さんだね、わかった。行ってみる」

 イシコロ君はスーパーを出て、近くの便利屋さんに行くことにしました。



 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ


「こんにちは」

 イシコロ君は店先で、大きな声で言いました。

「はい、こんにちは」

 棚の間からフクロウのクロウさんが現れました。

「クロウさん、カレーのルウありますか?」

「カレーの、ルウかい? んーどうだったかいねー」

 クロウさんはあっちの棚を調べたり、こっちの棚を調べたり、色々な棚を調べました。

「んー、どうやらないようだねー。前にたぬきさんが買っていったっきり、仕入れるのを忘れていたらしい。すまないね」

「そんな......どうしよう......」

「すまない。おわびに、友人がくれたエビをあげよう」

「エビ? いいの?」

「たくさんくれたからのう。一人じゃ食べきれないんじゃ」

 クロウさんは袋にエビを二匹入れて、イシコロ君が持っているカゴに入れてくれました。ずっしりとカゴが重くなりました。

「ありがとう、クロウさん」

「すまなかったね。気をつけてな」

「うん、またね」



 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「あら、イシコロ君、どうしたの?」

 イシコロ君に声をかけてきたのは、うさぎのお姉さんです。うさぎのお姉さんは庭の手入れをしています。

「うさぎのお姉ちゃん。実はね、カレーのルウが売ってなくて、こまっているんだ」

「カレーのルウ? なら、うちに少しあまっているから持っていくといいわ」

「いいの?」

「いいわよ。少し待っててね」

 うさぎのお姉さんはスコップを置いて、キッチンへと走っていきました。

「お待たせ、イシコロ君」

 うさぎのお姉さんは笹の葉に包んだカレーのルウをイシコロ君に渡しました。

「おつかい頑張っているみたいだから、おまけにトマトも入れておいたわ」

「ありがとう」

 イシコロ君は笹の葉で包まれたカレーのルウとトマトをカゴに入れました。ずしっと重みを感じます。

「重いから、気を付けて歩くのよ」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん」



 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「あれー、イシコロ君だ。こんなところでなにをしているの?」

 イシコロ君に声をかけてきたのは、オウムさんです。オウムさんは歌を歌っていました。

「オウムさん。実はカレーのルウが売っていなくて、こまっているんだ。さっき、うさぎのお姉ちゃんにわけてもらったけど、まだたりそうになくて」

「なら、おいらもわけてあげよう」

 オウムさんはビューンと飛んで、家に入っていきました。がさごそと、なにかを探す音が聞こえます。

「あった、あったぞ、イシコロ君」

 オウムさんはビー玉サイズのカレーのルウを手に持っていました。

「これをあげよう。ついでにほうれん草も入れるとおいしいカレーになるから、持っていくといい」

「え、いいの?」

「たくさん育てているから、山のようにあるのさ」

「ありがとう、オウムさん」

「いやいや。おいしいカレーができるといいね」



 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ



「おやおやー、イシコロ君? なにをしているんだい?」

 イシコロ君に声をかけてきたのは、パンダくんです。むしゃむしゃと笹の葉を食べています。

「パンダくん。実はカレーのルウが売っていなくて、こまっているんだ。さっき、うさぎのお姉ちゃんとオウムさんにわけてもらったけど、あと少したりないんだ」

「なーんだ。なら、ぼくがわけてあげるよ。ついでにー、タケノコもあげちゃう」

「え、タケノコも?」

「たーくさんとってきたんだ。ちょっと待っててねー」

 パンダくんはのそりと歩き出すと、家に入っていきました。しばらくすると笹の包みを抱えて戻ってきました。

「はーい。おいしくたべてあげてー」

 パンダくんはイシコロ君が持っているカゴに笹の包みを入れました。ずしっとカゴが重くなりました。

「ありがとう、ぱんだくん」

「カレーには、タケノコだよねー」

「そうなの?」

「シャキシャキしておいしんだよー。試してみてー」

 イシコロ君は大きくうなずきました。

「じゃーねー。気を付けてねー」



 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ


「これだけあれば、カレーが作れるぞ」

 イシコロ君はうれしくなりました。


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ころころころ


「あ、家が見えた!」

 イシコロ君は走りだしました。


 ころころころ ころころころ

 ころころころ ずざーん


 イシコロ君はイシコロにつまづいて、持っていたカゴをひっくり返してしまいました。

「いたい......」

 イシコロ君はしばらくうつ伏せのまま動けません。

 うつ伏せのまま前を向くと、買ったお肉やもらった野菜が転がっていました。

 イシコロ君は痛いのをがまんして、立ち上がりました。

 イシコロ君は一つ一つ拾って、カゴの中に入れました。

「玉ねぎさん。ぎゅうにくさん。ニンジンさん。エビさん。じゃがいもさん。ほうれん草さん。トマトさん。タケノコさん。カレーのルウさん......これで全部」

 イシコロ君は目元をこすり、前を向いて歩き始めました。

「あれ?」

 家に近づくと、人影が見えました。

「お母さん?」

 家の前には、お母さんの姿が見えます。イシコロ君に気がついたのか、お母さんが手を振っています。

「おかーさーん」

 イシコロ君も手を振ります。


 ころころ ころころ

 ころころ ころころ


「ただいま!」

「おかえり」

「ちゃんとおつかいできたよ」

「えらいわね」

 えへへ、とイシコロ君は照れました。

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イシコロ君のおつかい 梨兎 @nasiusagi

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