第49話 曖昧模糊
人であって、人でなし。
戦いは何も生まない。
心に悲しみを残すだけ。
写真はいくらあっても、抱きしめるに値しない。
思い出も、そう。
悲しさを増やすだけだ。
枯れた花は水を与えれば、また美しく咲くのか否か。
否。
退屈を覚えたガキと同じ。
何も変わらない。
憎悪を増やし、毒を吐く。
世界は何ひとつ変わらなく、美しい。
夜が明け、朝日が昇る。
花は咲き、鳥が囀り、人々は笑う。
何も何も、変わらない。
「ねえ、どうしてシモンちゃんじゃなきゃいけないの! どうして……変だよ、こんなの変だよ」
「ティノ様……」
「こんなことってあるの? ガブリエルさんが知ってることを全部教えて……頭どうにかなっちゃうよ! こんなことって……こんなことって……」
所々に茶色いシミのついた古びた空色の封筒。その中に入っていた角の削れた写真。それを見たティノは真っ青になり、テーブルに両手を力なくつく。そして、その隣でティノを困った顔で見つめるガブリエルがいた。
小さな家の小さな庭に座った、笑顔の少年の一枚の写真。後ろに記入された名前と日付と、ひとことのメッセージ。色の褪せた角の擦れ破れた古い写真。
それは、百数十年前の日付。無邪気に笑う少年は、紛れもなくシモンだった。似ているなんて言葉じゃ説明がつかない。あの写真立ての顔と変わらない。何も変わらないのだ。屈託のない笑顔に嘘偽りはない。あのアコーディオンを大事そうに抱く、シモンの笑顔だった。
――シモン、いつまでも変わらない永遠の愛を君に
このメッセージは、誰の書いたものなのだろうか。
なぜこの事務所にあったのだろうか。
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