第145話 鬼の角を探せ! その4
この日の夜は気持ちが落ちていたのもあって中々寝付けなかった。まずいな、寝不足はお肌の大敵なのに。
次の日の朝、私がお約束のようにキリトをからかいながら起こしていると、上機嫌のハルさんがそこに現れる。
「喜べ!今日は仕事があるぞ!」
「ハルさん……退治仕事じゃあないですよね?」
前回の事もあったので、私は少し訝しぶりながら返事を返した。司令官天狗は困った顔をしながら頭を掻く。
「仕事内容はまず長から聞くしきたりじゃから、今は何も言えん」
「でもさっき喜べって言ったじゃないですか!退治仕事なら喜べません!」
「ま、それはそうじゃのう……」
私はハルさんを問い詰める。大天狗から話を聞くのはただの儀式だから目の前の天狗おじさんもバッチリ仕事の内容は知っているのだ。知っているのだから先に教えてくれてもいいのに、どうしてそうしてくれないんだろう。
私が憤慨していると、すっかり目覚めたキリトがこの会話に口を挟む。
「とにかく、話だけは聞こうぜ」
「……」
私は何となく気分が乗らなかったので、彼の話を無視してそのまま自分の部屋に戻って着替えを始める。準備が整ったところで私達は大天狗の間へと向かった。
この間、雰囲気は最悪な感じになっていて、いつもなら雑談しながらあっと言う間に最上階に着くのに、今日に限っては最後まで誰も口を開かなかった。私は単にムカついているから話さなかったんだけど、残りの2人はそんな私にどう接していいか戸惑っている感じ。
無言でいるといつもより時間を長く感じる。いつもこんなに長い距離を移動していたのかって、逆に不思議な感覚を覚えていた。
そうしてそのまま大天狗の間に入り、天狗の長に接見する。大天狗は何故か上機嫌で、私達が目の前に座るといきなり話を始めた。
「おう、よく来たな!今日お前達にしてもらいたいのは、鬼の角の回収じゃ」
「鬼、ですか……」
私は長の言葉に少し戸惑う。確かに退治仕事じゃなかったけど、鬼の角ってどうやって回収するの?あの頭の上に生えているやつ。まさか、寝ている鬼に近付いてのこで角を切るとか、そんな難易度の高いミッションなのだろうか?
私が今回の仕事内容について頭を悩ませていると、大天狗はまたしても豪快に笑う。
「はは、気にするな。別に鬼と戦って取って来いとか、そう言う言う話じゃない。鬼の角は生え変わるからな」
「鹿みたいなものなんですか?」
「鬼が鹿か!それは面白い!」
私の言葉がツボに入ったのか、天狗の長は更に豪快に笑う。私、別にギャグをかまそうとした訳じゃないんだけど……。
そんな上機嫌な大天狗を前にして、私は調子が狂ってしまった。
「え、えーと……」
「後の詳しい事はハルから聞くがいい!」
こうして、仕事内容を聞き終えた私達は大天狗の間を後にする。またしても肝心な事は後で詳しく聞く流れだ。いや別にいいんだけど、それが簡単か難しいかくらいはその場で分かるようになっていて欲しいよ。まぁどうせ拒否権はないんだろうけど。
不満が限界値を超えていたため、食堂に向かう途中で私はそれを思いっきりぶちまけた。
「本当、このシステム謎!」
「まあまあ……。こう言う儀式も必要なんだって」
「分かってはいるけどさあ……」
私はその後もグチグチと愚痴を言い続け、キリトは黙ってそれを聞いていてくれた。今日の食事も和食ではあったけれど、卵がスクランブルエッグになっていた。
テーブルには醤油の他にもケチャップっぽいものあったし、少しずつ変化しているのかな。その内カレーとかも出てきそう。出たらいいのになあ。
食事を終えて作戦司令室に向かうと、ハルさんが私達を待っていた。椅子に座って暇そうにしていたけれど、すぐに立ち上がって仕事モードに変わるの、客観的に見たらちょっと面白い。私は椅子に座ると、すぐに質問を開始する。
「それで、今日こそ楽な内容なんですよね?」
「何じゃ今日はいきなり喧嘩腰じゃのう。退治仕事じゃなかっただけでもいいじゃろうが」
私の言葉の勢いに司令官天狗は若干引き気味になっている。まぁでも前回は騙されたみたいな感じになっちゃったからね。追及の手は緩めないよ。
「でも、いつも面倒な仕事ばかりじゃないですか」
「仕事を頼む以上はそれなりの試練になってしまうのは仕方なかろう……」
ハルさんは少し呆れ気味な表情を浮かべ、仕事の不満を論点ずらしでごまかそうとする。仕事が試練と連動しているのは当然の事らしい。私は今までの仕事の事を思い出しながら、少し上目がちに司令官天狗の顔を見つめる。
「じゃあ今回の仕事も……?」
「ああ、悪いが……」
ハルさんは少し申し訳なさそうに私達の顔を見る。試練って一体私達に何をやらせようとしているんだろう?人間に戻るためには何でもしなくちゃだけど、出来ればあんまり嫌な事はしたくないなぁ……。
と言う訳で、私は改めて今回の仕事について質問する。
「一体今回は何が問題なんですか」
「まぁそう突っかかるな。角を手に入れる事自体は造作もない。生え変わった角を鬼から譲ってもらうだけじゃしな」
その説明によれば、角を入手する手段はそこまで難しいものではないらしい。落ちているものを拾って帰るだけなら難易度も低いし、楽勝だけど、今更そんな簡単な仕事を私達に依頼する訳はないよね。ハルさんもその表情は何か隠している風な感じだし……。
その気配を敏感に感じ取った私は、独り言のようにポツリとつぶやく。
「じゃあ何が……」
「うむ……。簡単に言うと、鬼そのものに出会うのが難題なんじゃ」
「鬼って定住していないんですか?」
「まず天狗の里に鬼はあんまりおらん。基本的に鬼は鬼で鬼の里で暮らしておるからのう」
司令官天狗の放ったその一言に私は目を丸くする。妖怪の里って天狗の里だけじゃないんだ!もしかしたら他にも有力妖怪の里とかが点在しているのかも。人間の世界で言う国みたいに。
それにしても鬼の里かぁ……すごい荒くれ者達が集まっていそうな感じのする名前の里だなぁ。ただ、鬼の里に行けば鬼がゴロゴロいると言う事はつまり、今回はそう言う試練と言う事なのかな。分かりやすいな。
そこまで想像した私は、ハルさんの言いたい事を先読みする。
「じゃあその鬼の里に行って……」
「鬼の里に行くには鬼の試練を受けねばならん。今のお主達には無理じゃよ」
あれれー?てっきり首を縦に振ってくれるかと思ったら横に振られちゃった。今回は鬼の試練の突破が試練じゃない?それとも出来ないと言っておいて出来ますとこっちから言わせるための振りなのかな?うーん、これは判断が難しいところだぞ。
私が腕を組んでこの無理発言の真意を探っていると、ここでキリトが何か閃いたのか突然口を開く。
「さっきあんまりおらんって言ってましたけど、つまり、この里にも鬼はいるって事ですよね?」
「ああ、じゃが数は少ないのう。しかも隠れるように暮らしておるから中々見つからん」
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