第97話 小さなお客様 その2
確か琵琶が歩いていたり、他にも色んな妖怪達が昔の街の中を練り歩いていた――。その行列の名前を思い出せないまま話を続けていると、流石妖怪博士は一発で正解を口にする。
「百鬼夜行?」
「そうそれ!あんなのが見られるかなって。渋谷の仮装パーティみたいなさ」
「普通の人間の仮装が既に妖怪じみてるよなアレ」
「確かに」
私達はテレビで見た都会のハロウィンの狂騒を思い出し、お互いに笑いあった。まぁ、たまに意見が合えばね。いつも喧嘩している訳じゃないよ、うん。
それからグイーッと背伸びした私は改めてキリトに話しかけた。
「ねぇ、どんな妖怪が印籠の情報を持っていると思う?」
「うーん、一反木綿とか?」
「おお……」
彼の言葉に私は感心する。一反木綿なら知ってるよ。有名妖怪アニメのレギュラーキャラだもんね。ひょろっとしていて空を飛んで仲間を乗せて飛ぶ妖怪だよね、確か。それで、えーと、そう、方言がキュートなんだっけ。
私がその妖怪のキャラを頭の中でイメージしていると、ここで鈴ちゃんが目を輝かせながら話に入ってきた。
「空を飛ぶし、天狗やカラスと縁が深いかも知れないですね」
ここで本物の妖怪が話し始めると強いな。なんか一気に信憑性がありそうな感じになってきたよ。よーし、この流れに乗っかっちゃうよー!
キリトと鈴ちゃんで話が盛り上がる中、私も手を上げて勢い良く自分の希望を口にする。
「私は猫娘がいいと思う!」
「いいと思うって何だよ」
私の意見を彼はまた冷たく却下する。うわ、何その反抗的な態度。私はすぐに気を悪くしたね。おかしくない?普通そこはさっきの私みたいに感心するのが礼儀じゃないの?どうして波風立てようとするかなぁ。猫娘がお宝情報持ってたっていいじゃないの。一反木綿と同じく妖怪アニメのレギュラーキャラなんだし!
「別に願望だからいいじゃない!」
「じゃあ何で猫娘なんだよ」
私の反論にキリトは真面目な顔で追求してきた。自分は一反木綿って言った時に理由を口にしなかった癖に。ここでそれを争点に言い争っても良かったんだけど、また鈴ちゃんに迷惑をかけそうな気がした私は、燃えたぎる想いを一旦飲み込んでポーカーフェイスを浮かべながら彼の言葉に従う。
「私、猫が好きなんだよね」
「猫又は前に来ただろ」
理由を聞いた彼はしれっと自説を口にする。同系統の妖怪は二度と出ちゃ駄目って法則はないのに。
私はその理由が納得出来なくて抗議する。
「アレと猫娘は別だよ!」
「じゃあ人面犬でもいいんじゃないか?」
「えぇ……あれはちょっと怖いじゃん……」
人面犬と言う言葉を聞いた私の頭に、昔ネットの動画かなんかで見た人面犬の姿が再生される。その姿はお世辞にも可愛らしいと言うものとは全く違っていた。はっきり言ってホラーの領域だ。
この妖怪相談所に現れる妖怪は基本的に可愛らしいものがメインで、怖い系が訪れた事はない。それは多分たまたまだとは思うけど、考えてみればラッキーだったと思う。
いくら妖怪化して妖怪と縁が深くなっても、怖い妖怪はやっぱり苦手だ。出来れば今後も会いたくない。
私が怖い妖怪のイメージを頭を振って消していると、今度はキリトから話を切り出してきた。
「怖いと言えば、都市伝説系の妖怪ってあんま見ないな」
「新しい妖怪だから天狗のお宝とは縁がないのかも?」
私はお宝情報を持つ妖怪が昔ながらのものが多い理由について、すぐに思いつく理由を口にした。するとキリトは腕を組みながら更に話を続ける。
「いや、別にお宝関係なくてもだよ。相談に来るヤツもいなかったろ?」
「そう言えば……そうだったかも」
その言葉に私も今までの事を思い出しながら返事を返した。確かに相談に来る妖怪って昔話なんかに出てくる妖怪が多かったかな。考えてみたら不思議。妖怪って都市伝説みたいなものなら今も生まれ続けているのにね。
と、ここで鈴ちゃんが興味深い話をし始める。
「新しい妖怪は特に悩みもないのかもですね」
「おお、なるほどお……」
私はその鈴ちゃん説にポンと手を叩く。伝説妖怪は長く生きているからこそ悩みを多く抱えているのかあ、納得。流石現役妖怪だね。そこに目をつけるとは流石だわ。これは実際に妖怪として生きていないと出てこない意見だようん。
「別に悩みがない訳じゃないわよ」
「うわあっ!」
私達の雑談に突然部外者が割り込んできたので驚いた私は必要以上に大きな声を上げてしまった。驚いたのは同席していた彼も同じだったらしく、その突然現れた小さな可愛らしい妖怪に向かって声をかける。
「だ、誰だ?」
「まあ!失礼しちゃう!私って結構メジャーだと思ってたけど」
よく見るとその妖怪、見た目は10歳くらいで黒髪、おかっぱな髪型、三白眼、服装はおしゃれとは無縁のどこか古めかしい小学生が着るような服――。
そんな容姿に該当する妖怪が、私の頭の中のデータベースにひとりだけ存在していた。
「もしかして、花子さん?」
「そよ。よろしくね妖怪モドキさん達」
「モドキって……私達は人間!」
突然現れた花子さんは私達を軽く馬鹿にしていた。確かに今の私達は人間でも妖怪でもない半端な存在だけど、心はまだ人間なんだから。どうせ呼ぶなら人間モドキって呼んで欲しいよ!
あれ?人間モドキでもあんまり嬉しくないぞ……。
私が自分の呼ばれ方について葛藤していると、花子さんはにやりと冷笑しながら上から目線で話を続ける。
「今は、でしょ。それもいつまで人の形でいられるのやら」
「これからもずっと人だよ!」
「そうかしら?妖怪ってね、結構元人間って多いのよ」
花子さんの言葉は重い。人間から妖怪に変わる話は私もいくつか知っている。そんなに詳しくはないけど。確か強い念を残していると妖怪になっちゃうんだよね。おばけになるのもいるみたいだけど。
でもそんな話を意味ありげに話すって事はもしかして――。私は目の前の現代妖怪にそれの確認をしようと声をかける。
「あなたも含めて?」
「さあ、どうかしら?」
花子さんは私の質問を意味ありげに笑いながらはぐらかした。ここはあまり詮索しない方がいいのだろう。私はすぐに話を切り替えて、部室にやってきた要件を改めて彼女に質問した。
「で、花子さんも相談?」
「私があなた達に相談したい悩みがあるように見える?」
「ええと……」
質問に質問を返されて私は困惑する。何だろう?ここまで挑戦的な妖怪が部室に現れたのは花子さんが初めてかも知れない。
私が返答に困っていると、彼女はずいっと近付いてきて、しかもすごい圧で私の顔をじいっと見つめてきた。
「見える?」
「ち、近い近い」
お互いの顔の距離が数センチ単位にまでになったので、私は思わず両手で花子さんを押し離した。この態度から見て彼女にそんな悩みがあるようにはとても思えない。
適度な距離まで花子さんを戻した後、改めて私は要件を聞いた。
「悩みがないなら何しに来たの」
「あら?そんな簡単に決めつけていいのん?」
「いやさっきからどう見ても……」
さっきからの彼女の言動は私から見たらからかっているようにしか感じられない。私がそう言い終わる前に花子さんは言葉をかぶせてきた。
「私に悩みがないように見える?」
「……うん」
私がこくりとうなずくと、その反応を見た彼女は突然大声で笑い出した。この豹変に当然ながら私は困惑する。
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