第54話 のっぺらぼうの依頼 その2
この時、その問題に関してキリトが機転を働かせる。
「でも最低限、交通費と食事代くらいは欲しいかな」
「清美を探してくれるならそのくらい必要経費だど!」
流石ネット通販で儲けている斎藤さん、キリトの言葉にすぐに快い返事を返した。私はこの展開に嬉しくなって少し大きな声を上げてしまう。
「やった!交渉成立ね!」
「後、探して見つからなくても文句を言うなよ?」
しっかり者のキリトは失敗した時の為の備えも忘れない。斎藤さんはそんな弱腰にも聞こえる言葉に冷徹に反応する。
「その時はもっと使えそうな能力者を探すだけだど」
「い、一応は期待してて。私達も頑張るからさ」
「お願いするんだど。オラはそれまでここで待っているど」
と、言う訳で斎藤さんは清美ちゃんが見つかるまで部室で待機する事になった。私は早速出掛ける準備をする。
「ちょ、今から行く気か?」
「え?善は急げじゃん」
私の行動にキリトは焦っている。その理由にピンと来なかった私は首を傾げた。
「馬鹿、今からじゃ原宿に着いた時点で昼過ぎになるじゃないか。こう言うのは朝から探した方が……」
キリトの言い分にももっともな部分はあったけど、こうしている間に清美ちゃんが何かの事件に巻き込まれていたらって思うとのんきに明日まで待てないよ。
それに予算の心配もないならすぐに動いても何の問題もないしね。私は出掛ける準備をしながら斎藤さんに声をかける。
「ねぇ、お金は出してくれるんでしょ?」
「一日ひとりあたり1万あればいいか?」
流石斎藤さん、儲かっているだけに太っ腹だ。1万円あれば往復プラス食事代を差し引いても十分余裕がある。
けれど一言目から大台を口にする様子にもっと行けそうな雰囲気を感じた私は勝負に出た。
「もう一声!」
「じゃあ2万出すど!」
斎藤さんは妹さんを探す予算に糸目はつけないらしい。私の一言ですぐに金額は2倍になった。粘ればもっとお金を出してくれるかもだけど、流石にこれ以上は気が引けた私はその金額でOKする。
「毎度ありぃ!」
「おい……」
その様子を横から冷ややかな目で見ていたキリトの視線が痛かった。つぶやくようなツッコミに精神的なダメージを受ける。
「こ、これも人助けだよ」
「ったく、遊びじゃないんだからな」
「分かってるって」
と言う訳で斎藤さんから軍資金2万円をそれぞれ手にした私達は電車に乗って大都会東京へと向かう。夏休みに入っている為、車内は自分達と同世代の若者もまた多かった。みんな楽しそうな顔をしている。いいな、私達は遊びじゃないんだよ……トホホ。
移動中にお昼を過ぎる為に昼食は駅弁を食べる事になった。それぞれ好きな駅弁を広げながら、私達は束の間の行楽気分を味わった。
そうして何回か電車を乗り換えて、目的の場所、原宿に到着する。
「来てしまった」
「じゃ、早速探そっか」
「お、おい……」
戸惑うキリトを尻目に私は早速のっぺらぼうの清美ちゃん探しに突入する。夏休みの原宿は人が多くて、こう言うのに慣れていない私は人酔いしてしまう。
夏休みと言う事で暑い陽射しからくる熱気にも簡単に翻弄されてしまうし。うう、夏の原宿舐めてたよ~。
「人でいっぱいだぁ~」
「当然だろ……ん?」
熱中症対策に帽子を深くかぶり直していたキリトがクールにツッコミを入れる。
しかも、それ以外にも何かを感じていたようだ。実はその感覚、私も同じように感じていたんだよね。
「キリトも感じた?」
「妖怪反応がひとつじゃない……どうなってるんだ?」
そう、この人混みの中に間違いなく妖怪がいる。自分の中の妖怪センサーが正しければ、かなりの数の妖怪がこの場所に紛れ込んでいる事になる。キリトはその事について理解が追いつかないみたいだったけど、人間に憧れる妖怪は一定数はいるはずだから私はこの結果に納得はしていた。
「きっとこの人混みの中に変化系の妖怪が何人も紛れ込んでるんだよ。流石都会は違うね~」
「つまりこの中にのっぺら妹みたいなのが何人もいるのかよ……何だそれ」
多分だけどこの人混みの中にいる変化系の妖怪は女の子が多いんだと思う。男子妖怪はキリトみたいにこの街に魅力をそこまで感じないだろうからね。
状況が状況だけにすぐに目的の清美ちゃんには当たらないだろうけど、まずは行動あるのみだ。
「取り敢えずひとり捕まえて聞いてみよう。いきなり当たるかもだし」
「あ、おい……」
私はキリトが止めるのも聞かずに聞き込みを開始する。ハズレを引いても清美ちゃんの事を見かけているかも知れない。同じ妖怪どうしなら感じるものもあるだろうしね。
そんな訳で一番近くにいた人に化けた妖怪に偶然を装って声をかけてみた。
「あの~すみません」
「え?私?」
よし、立ち止まってくれた。ここからが私の話術の見せ所だね。さて、どう切り出せばいいかな……。まずは誤爆を防ぐ為にも正体の確認からな?
「あなた、妖怪ですよね?」
「お前……」
この一言に彼女の態度が豹変する。可愛らしい女子高生風の顔が一瞬の内に鬼の形相に変化した。あれ?この質問ってしちゃいけなかった?
次の瞬間、彼女は危険を感じたのか一目散に走り去ってしまった。
「あっ!」
「逃げられたな」
その一部始終を見ていたキリトが声をかける。多分冷静に見ていた彼の分析は概ね正しいのだろう。
けれどその行動理由に私は納得がいかなかった。
「なんで、どうして!まだ何も話してないのに!」
「大方俺達をハンターか何かだと思ったんだろ?」
妖怪は人に迷惑をかける種もいる為、中には退治人に狙われているようなものもいるらしい。私はまだそう言うのに会った事はないんだけど、普段の妖怪相談ではたまにハンター関係の相談も受けていた為、その存在自体、知識としては知っている。
じゃあ、さっきの妖怪女子はハンターから逃げてこんな人混みの中に混じっていたのか……。ま、彼の推測が正しければ、って話だけど。
それはそうだとしても、やっぱり私には納得の行かないものがあった。
「えー。むしろ仲間なのに。それに妖怪の仲間内じゃ私達有名になっていたんじゃなかったの?」
「そりゃさ、地元で有名でも都会じゃ無名ってのはよくある話だろ?」
私の自信をキリトが冷酷にぶっ壊してくれた。そりゃその言葉の通りかも知れないけど、言い方ってものがあるじゃないの……。ショック大きいよ。
この一件で分かった事はこの声掛け作戦はうまく行きそうにないと言う事だった。
「簡単に逃げられるんじゃ別の作戦を考えるしかないね」
「俺にいい考えがあるぞ」
珍しくキリトに名案があるらしい。対案が思い浮かばなかった私はその作戦に乗っかる事にした。どうか成功しそうないいアイディアでありますように。
反対意見が出なかった事で自分の話が受け入れられたと判断したらしい彼は、それからずんずんと歩き始めた。私も黙ってそれに付いていく。ずんずんと振り返らずに力強く歩く姿はどこか頼りがいがあるようにも見えた。普段は方向音痴なのに。
それにしても一体キリトはどこに向かっているのだろう?どんどん人混みから離れていっているような感じなんだけど――。
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