第44話 火の玉の依頼 その2
「ばっ、平気に決まってるだろっ!そっちこそ大丈夫かよっ!」
私の予想通り、彼は無駄に強がって返事を返す。その分り易い反応が微笑ましい。で、折角質問を返されたので私もちゃんと答える事にした。
「私は別に。それにもうこんな体質だしねえ。夜の墓場ってアレかな?お化け達が運動会とかしてるかな?」
「墓場のどこにそんなスペースがあるんだよ」
おお、この突っ込み。ビビっても突っ込む精神は変わらないんだね。感心したよ。
「じゃあ、今晩は夜の墓場に集合だ!」
「何であんなに楽しそうなんだ?」
「さあ?」
私が嬉しそうにしている理由をキリトが鈴ちゃんに聞いている。ま、分からないでしょうね。私が楽しければそれでいいのだ。
それから私達は夜の墓場に集まる為の簡単な打ち合わせをする。あんまり遅いのもまたアレなので暗くなってすぐに待ち合わせして、それから2人で指定の霊園に行く事になった。霊園で待ち合わせしなかったのはキリトがまだこちらの地理に詳しくない為だ。ここは私が先導しなくちゃね。
そうして夜の8時、少し早めに来た私が待っていると時間通りに彼は現れた。最近の彼は遅刻しないので有り難い。キリトの姿が目に入った私は手を振って声をかける。
「お、来たね!おーい!こっちこっち!」
「イチイチ大声出すなって!」
私がキリトに声をかけると彼はすごく恥ずかしそうにする。今、待ち合わせのコンビニ駐車場には私達しかいないのに。ま、それは置いといて、合流も出来た訳だし、早速出発だ。私は恥ずかしがる彼に軽く声をかけた。
「じゃ、行こっか」
霊園に向かう途中で何となく会話が始まる。黙って歩くのも淋しいしね、もうすっかり夜だし。で、最初に口を開いたのはキリトの方からだった。
「時期が時期だけにまるで肝試しだな」
「私達、見えるんだから肝試しにはならないじゃん」
「見えたって突然現れたらびっくりするだろ」
「ま、大丈夫でしょ」
そんな感じで脳天気な会話は続き、やがて目的の霊園が目の前に迫って来た。もうここまで着たら後戻りは出来ないね、うん。
「ここで合ってるのか?」
「そうだよ、この山の上」
霊園のある山に着いた私達はそのまま山を登っていく。夜の墓地は昼間とは違いかなり雰囲気的にも不穏な感じがした。見える体質の私達はこんな場所に来たらウジャウジャと亡者を見てしまうのでは?なんて危惧もしていたけれど、実際はここまで来てもお化け一体も目にはしなかった。
おばけが隠れているのか最初からいないのかは分からなかったけれど、少し気構えていた身からすればそれは拍子抜けするような風景だ。
そのまま何の障害もなく書き置きにあった場所まで私達は辿り着く。おばけがいないのはいいとして、肝心の火の玉すら見当たらなくて困った私は仕方なくここに呼び出した張本人に向けて声を張り上げる。
「火の玉さん?来たんですけどー!おーい!」
暗い夜の霊園でのこの行為、事情を知らない誰かが見たら誤解されそう。私の呼びかけは、けれど何の反応も戻っては来なかった。この結果について私は腕を組んで首を傾げる。
「おかしいな?もっと別の場所かな?」
「いや、多分近くにいるぞ。あ、電気を消して!」
「お、そっか」
そう、ここまで来るのに私は懐中電灯をつけて足元を照らしながら歩いて来たんだった。明かりのある場所では火の玉が現れない事をすっかり忘れていたよ。雰囲気を察したキリトに声をかけられて、やっとその事に気付いた私は慌ててライトを消した。
すると突然ぼわっと青白い光が空中で燃え始める。彼の言葉通り、最初から火の玉は目の前にいたんだ。
「こんなところまでお呼び立てして本当に申し訳ありません……」
「うひょあっ!」
自分からアドバイスを出した癖にその通りに火の玉が出現した瞬間、わざとか!って言うくらい大袈裟にキリトは驚いていた。
「何て声出してんのよ……火の玉さんに失礼でしょ」
「何で平気なんだ……」
「全く、初めて見たならともかく、前に教室で会ってるじゃない」
何故だかキリトに特殊扱いされて私は気を悪くする。この体質になってから結構な数の妖怪と触れあって来て、今更火の玉が怖いとかありえなくない?
私としては彼の方が妖怪に慣れてなさ過ぎな気がするよ。もっと堂々として貰いたいね。
「えぇと、話を?」
「ああごめんなさい、続けてください」
私達が不毛な会話を続けていたので話に入れなかった火の玉が申し訳なさそうに声をかけて来た。私はすぐに彼の話を聞こうと聞く体制を整える。
ようやく話が出来る状況になって、火の玉はぼそりぼそりと依頼の話を語り始めた。
「私はここで墓守をしている火の玉なのですが……」
「火の玉って墓守の仕事なんてしてたの?」
話の初っ端から聞き慣れない言葉が飛び出して来て、静かに聞こうと思っていた私もついそこで口を出してしまう。
「火の玉だからじゃなくて、生前から墓守をしていたんです……」
「あ、ああー、そう言う……」
火の玉の説明を聞いて私は何となく事情を察した。つまり生前からの仕事を死んでからも続けているって事みたい。そう言う幽霊って多いのかな?
火の玉の説明はその後、墓守の仕事について語ってたんだけど、つまりそれは墓を荒らす悪霊を排除する仕事のようだった。私達はその話をうんうんとうなずきながら聞いていた。
「……それで近年状況がおかしくなって来たんです……。どうやらどこかで魔界の花が咲いているみたいで、その瘴気の影響らしいのですが……邪気を纏う悪霊の数が増えてしまって……」
「それってヤバイんじゃないの?」
「はい、彼らは墓に染み付いた霊気を貪り食うんです。私が触るとすぐに消えるんですが……」
つまり、私達にこの状況を何とかして貰いたい、と言うのが依頼の内容らしかった。それについては私より先にキリトが口を開く。
「で、俺達に何をさせるつもりだ?その花を摘めば良いのか?」
「はい、お願いします。こればかりは生身の体を持つ者でないと出来ません」
そう、火の玉は魔界の花の駆除を私達に頼みたかったんだ。その言葉を聞いた私は安堵して言葉を漏らす。
「あ~良かった。悪霊を退治してって言われたら断らなきゃいけないところだったよ」
「それは私がやります、そのための墓守なんで……それであの……お願い……出来ますか?」
「任せといて!花を摘むだけなら簡単だよ!」
今回のミッションは花を摘む事、こんな楽な仕事はないよ。私は火の玉のお願いを二つ返事で引き受けた。すると、案の定キリトが私の決断に口を挟む。
「ちょま、お前、花は花でも魔界の花なんだぞ?一体どんな花なのか聞いてからにしないと……」
「いえ、そんな危険なものではありません。ただ……」
キリトの言葉に火の玉は魔界の花について説明を始める。話の途中で思わせぶりに言葉を区切った為、私達はゴクリと唾を飲み込んだ。きっとその言葉の続きに何か良くない言葉が続くんだと思った私は様々なパターンの負のイメージを思い浮かべる。
「花は香りの代わりに瘴気を発していますので、気分が悪くなるかも知れません」
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