第42話 現れた火の玉 後編

 彼のこの要望に対して何て答えていいのか適切な言葉を脳内で検討していると、更に火の玉は話を続ける。


「勿論タダでなんて言いません!」


 どうやらこの火の玉、願いを聞いてもらう為に何かおみやげを持って来ているようだった。うん、このパターン、久しぶりだな。


「そのお願い、俺達に解決出来そうなものなのか?そうでなければ……」


 この言葉を聞いたキリトが早速自分達は万能じゃないって説明をする――うん、このやりとも何だか懐かしいよ。もしかしてこの展開って……私は急に期待に胸を膨らませる。

 キリトの忠告を聞いた火の玉は落ち着いた口調になって話を続ける。その喋り方に私は彼の誠意を感じていた。


「私、数々の貴方様方の話は聞いております。それを聞いた上で必ずや貴方様方なら私の願いを叶えてくださると、そう信じているのです!」


「ひ、火の玉にまで信頼されるって私達も出世したね……」


 どうも火の玉は過去の私達の業績(?)を知った上で依頼に来たらしい。妖怪達の間で私達の事が知られているのは知っていたけど、一体どう言う伝わり方をしているんだろう?噂って大抵は広がっていく過程で話に尾ひれがついて大袈裟になっていくのが常だけど、過大評価されていないといいなぁ。


 私が火の玉の言葉に驚きながらも素直な感想を口にすると、この言葉を聞いたキリトがすかさずツッコミを入れて来た。


「出世……なのかこれ?」


「聞けば貴方様方は天狗のお宝の情報を欲しておられるとお聞きしました」


 ここで天狗のお宝情報キター!最近はもう半ば諦めていたけど、ついに新規情報が来ましたよ!くぅぅ……しんどくても妖怪の人生相談にずっと付き合って来て良かった。やっぱり苦労は報われるね!

 嬉しくなった私ははやる気持ちを抑えながら、慎重にその事を聞く事にする。


「貴方は何か知ってるの?」


「私の願いをお聞き入れくだされば……っ!」


 ほほう、流石に火の玉もそう簡単にお宝の情報を話す気はないみたい。

 でもここまで自信たっぷりに話すって事はその情報を彼がちゃんと持っている事の証拠だよね。うん、そうに違いないよ。

 そう確証した私は火の玉の話に乗る事にした。善は急げだよね!


「よし!やろう!」


「即決かよ……。まだ何も話を聞いてないだろ……」


 この私の言葉にキリトはお約束のようにツッコミを入れる、うは、このやり取りもまた懐かしいなぁ。お馴染みのやり取りが復活して嬉しくなった私は、このパターンならきっとうまくいくと根拠のない勝利の方程式を脳内で展開させた。

 そうして私の言葉に自分の願いが聞き入れられたと判断した火の玉は早速話を始め

る。


「私の望みはただひとつ……」


 一体火の玉はどんな依頼を私達にしに来たのだろう?私達の過去の実績を聞いてやって来たくらいだから多分そこまで難易度の高いものじゃないよね?

 私は彼の次の言葉を固唾を飲みながら待っていた。窓の外の雨は時間が経って更に激しさを増し、空の暗さもずっと変わらないままで、停電もまだ回復していない。


 そんな暗い教室に激しい雨音だけがザアザアと途切れる事なく鳴り響いているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る