聖水と穢れの元凶
第31話 聖水と穢れの元凶 前編
「聖水とは、穢れを断ち切る聖なる水、即ち純水なのです!」
「え……っ?」
木霊の話す聖水の正体を知って私達は驚いた。純水……何処かで聞いた事のある言葉だ。聞いた事がある気はするけどよく思い出せない。ちょっと困った私は取り敢えずキリトに話を振ってみた。何だかそう言う言葉って男子が好きそうだし。
「純水って……何だっけ?」
「不純物を取り除いた水の事だよ。今の技術なら簡単に作る事が出来る。でも木霊の言う純水って俺達が認識している純水って事でいいのか?」
「はい、そうです。その純水です」
流石キリトは純水の事を知っていた。何も不純物がないから純水かー。何か理科の実験とかで作れるんだっけ?よく分からないや。ま、いっか。
で、私達の知っているその純水が木霊の言う純水と同じもののようで安心した。知られているものなら手に入れる事も出来るよね多分。
「なあんだ、聖水とか言うからもっと特殊なものかと思っちゃった。簡単に作れるって事は学校でも作れる?」
「って言うかホームセンターとかにも普通に売ってるんだけど……」
私の言葉にキリトは呆れたように返した。私は改めてホームセンターの万能感に感動する。
「おおう!それはまたお手軽な!」
売ってるなら作るより楽だし、それで手を打てばいいね。やった、これで問題も解決だよ!今回はあっさり済んだなぁ。良かった。後、残った問題は――。
「……でもお高いんでしょう?」
「ちょっと待った、確かそんなに高くなかったはず……えぇと……」
私が値段の話を出すとキリトはすぐにスマホを操作して確認する。こう言う時、この最新のガジェットは本当に便利だ。2,3の操作ですぐに答えは出たようで彼はちょっと得意顔で私に純水の相場を告げる。
「おっと、あった。2リットルで300円くらいだな」
「何それ!買えるじゃん!余裕で!」
キリトの弾き出したその価格を聞いて私は興奮した。安い!そりゃ元々水だからなんだろうけど、今回の依頼に払うコストがその程度で済むなんて何だかすごくお手軽な気がした。こう言うのってやたらとお金がかかるイメージがあったから……。
はしゃぐ私達を見ながら木霊は真剣な顔をして口を開く。
「我らの力では純水は得られないのです。ですから是非ともあなた方の力で純水を……」
「その純水は結構必要なの?」
「いえ、一時に降る雨の量程もあれば……」
泉の浄化に必要な純水の量を木霊は自然霊らしい例えで表現する。うーん、一時に降る雨の量ってどのくらいだろう?全然ピンと来なかった私はここでもキリトに助けを求めた。って言うか彼以外に聞ける相手がいないんだけどね。
「それって2リットルもあれば足りるかな?」
「多分大丈夫じゃないか?」
キリトのこの多少頼りない返事を受けて、私たちは行動を開始する事にした。事態は逼迫しているようだし、善は急げだよね!
「オッケー!じゃあ、純水を買いにホームセンターにゴー!」
学校から一番近いホームセンターまでは歩いて20分程度の場所にある。軽い散歩程度の距離だ。だからそんなに気負わずに行く事が出来る。
2人が準備をして部室を出ようとした時、降り続いていた雨の勢いはかなり弱まっていた。
「いやあ、出かける時に雨が止んで良かったねぇ」
「油断するなよ?きっとまた降ってくるから」
靴を履き替えて校庭に出ようとした頃には雨はすっかり止んでいた。空はまだ曇りのままだったのでキリトの心配も最もだったけど、私だってそこら辺はちゃんと考えている。注意を促す彼の顔を見ながら私はドヤ顔で口を開いた。
「折り畳み傘なら常備してまーす!」
そう言いながら私がカバンから折りたたみ傘を取り出すとキリトは黙りこくってしまった。少しは反応の欲しかった私はちょっと空しさを感じてしまう。
その後は何となく話が続けられない雰囲気になってしまって、目的のホームセンターに着くまで会話はないままだった。この道中、確認してもらう為に木霊もついて来てもらっていた。
ただ、店内に一緒に入って何か起こってもいけないと思い、念の為に彼は外で待ってもらう事に。
私たちはホームセンターに入店すると早速純水の置いてある売り場へと向かう。多少迷ったものの、やがてそれっぽい製品を棚から発見する。
「高純度精製水……これでいいんだよね?」
「まぁ、それでいいはずだけど……」
「何でそんなに自信なさげに……まぁいいや、じゃあこれを買うね」
製品名こそハッキリ純水とは書いていなかったものの、多分がこれが純水で間違いないようだった。キリトのはっきりしない言葉が多少不安だったけど、その後で店員さんにも確認したから自信を持ってその商品をレジに持っていった。後は、木霊がこれを純水と認めてくれるかどうかだよね。
「おお、それぞまさしく純水!有難うございます!では早速森に急ぎましょう!」
私が木霊に買って来た商品を見せると、彼は予想以上に喜んでくれた。分量も2リットルもあれば十分らしく、何の文句も言われなかった。そうしてかなり急いでいるのか、早く森に行こうと私達を急かすのだった。
そんな訳で私達は仕方なく純水を買ったその足で現場に向かう事になった。まだ明るい為空を飛んで一気に現地に行く事は出来ない。と言う訳でバスを乗り継いで木霊の言う北の天狗山へと向かった。結局バス代の方が純水代よりも高くついたよ、トホホ……。
バスを降りてしばらく歩くとやがて小高い山が見えて来た。そこがかつて北の天狗山と呼ばれていた山らしい。山を見上げながら私はポツリとつぶやいた。
「もしかして手遅れって事はないよね?」
「行ってみなくちゃ分からないだろそれは……」
いかにもキリトらしい返事を聞きながら私達は木霊の案内で山を登っていく。山自体は特に歩きにくい山ではなかったものの、木霊の言う通り何だか目に見えない謎の気持ち悪さが充満しているように感じた。きっとこれが穢れってやつなのだろう。それを最初に口に出したのはキリトだった。
「うっ、何だこれ……嫌な気配が充満している……」
山を登り始めたところから私達は酷い気持ち悪さに襲われていた。悪い気配と言うだけでここまで体調が悪くなるなんて……ハッキリ言って想定外。
山に着く前は普通に山歩きをするだけだと思っていたけど、これは流石にきつかった。油断したらすぐに吐いてしまいそうになる。きっとこれって指輪が体に馴染んで来た結果なんだろう……。呼吸を乱しながら私はつぶやく。
「私達、そう言うのに敏感になって来ちゃったね」
「それってきっとあんまり良くない傾向なんだろうな……」
この状況にキリトは自分達が普通の人間から離れていっている事を危惧していた。早く天狗化を止めないと、もっと変化は顕著になってしまうかも知れない。
ここに来て彼が焦る気持ちを私も少し分かる気がした。それにしても気分が悪い。一歩歩みを進める度に足取りは重くなっていった。
それでなくても雨続きでぬかるんだ山道は歩き辛くて体力を消耗すると言うのに。
「うう、もうこの先に行きたくない……気持ち悪くて吐きそう……」
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