第30話 木霊 後編

「それやばいじゃん!」


 この説明で真相がやっと分かった私は事態がとんでもない事になっている事に戦慄を覚えていた。これ、私達に何とか出来る事なんだろうか?

 話のスケールが大きくなり過ぎて、私はちょっと途方にくれてしまう。そんな私を前にして木霊は必死な顔で訴えるのだった。


「今は穢れが泉だけで済んでいます。今ならまだ何とかなるんです」


 ここまで黙って話を聞いていたキリトは、木霊の話の中で感じた疑問について口を開く。


「今雨降ってるけど大丈夫なのか?」


「そうです。雨が続いているから時間がないんです。泉の穢れが森に広がる前に手を打たないと」


 どうやら彼の質問は木霊にとっても重要事項だったらしい。木霊の話によると急がなきゃいけないのはこの天候のせいと言う事らしい。

 ここまで聞いた私はこの問題の規模が大き過ぎて、自分達ではとても手に負えない気がして、頭の中を聞いたばかりの情報がぐるぐると回っていた。


「何か話が大袈裟になって来たけど、私達に何をして欲しいの?大した事は出来ないよ?」


「はい、みなさんには穢れを清める聖水を用意して欲しいのです」


 木霊の話によると、この泉の穢れは聖水によって清められるらしい。ああ、何だ、解決策があるんじゃん。私はこの言葉を聞いてとりあえず胸を撫で下ろした。

 しかしそこでツッコミを入れたのがキリトだった。どうやら彼には何か引っかかる事があるらしい。


「ちょっと待った。そもそも穢れの原因は分かっているのか?それが改善されないと一度泉を浄化出来たところでまた同じ事に」


 あ、考えてみれば、キリトの言い分も最もだ。根本的な解決が出来ないと問題が収まったとは言えないもんね。それに対しては木霊の方も一応考えてはいるらしかった。


「分かっています。それも今調べているところです。でも今は一刻を争うんです」


 つまり優先順位の問題だと。確かに直近の被害を前にしたらまずそこをどうにかする方が先決だよね。

 木霊の訴えの全容が分かったところで私は改めてこの依頼を受けるかどうかキリトに聞いてみる。


「どうしよう?」


「どうしようも何も……そもそも聖水ってどこにあるんだって話じゃないか?」


 そうだった。聖水って言われても全くピンと来ないもんね。一体どんな水が聖水なんだろう?私達が手に入れられるようなものなんだろうか?

 私が聖水について困っていると鈴ちゃんがそっと助け舟を出してくれた。


「水の事なら河童の親分さんが何か知っているんじゃないでしょうか?」


 この彼女の言葉を聞いた私はつい素直な感想をつぶやいてしまう。


「え?鈴ちゃんも知らないんだ?」


「あっ、ごめんなさい……」


 ああ、私の何気ない一言が鈴ちゃんを傷つけてしまった。口は災いの元だなぁ。まずいと思った私はすぐにフォローを入れる。


「や、謝らなくていいよ。妖怪だって得意分野とかそう言うのあるもんね」


「もしかして……あなた方、聖水を知らないのですか?」


 このやり取りを聞いた木霊は聖水について私達がその知識のない事を知って落胆しているようだった。そんな態度取られても、知らないものは仕方ないよね。

 私は彼に向かって少し申し訳なさそうにその事実を認める。


「まぁ、悪いけど……」


「仕方ないですね。では、答えましょう。聖水とは――」


 私達が聖水について何も知らない事を知った木霊は深くため息を付いて話し始めた。一体彼の言う聖水とは何なのか。私達はゴクリとつばを飲み込んでその言葉の続きを待った。

 窓の外では朝から降り続く雨が一向に止む気配を見せずにこの辺りをずっと濡らし続けていた。

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