第25話 天狗の笛 その2
そうしたら彼、私の言葉を受けて変にへそを曲げてしまった。
「じゃあ無理に探さなくていいよ、俺は続けるから」
「うー」
この反応に私は何て言っていいのか困ってしまった。真意が伝わってないみたいだし。うーん、これ以上蒸し返してまでこの話を広げる事もないか。
私が次の言葉を出せずに黙っていると、今度はキリトの方から話しかけて来た。
「大体、もう夢は見ないのか?夢のお告げは間違いないんだろ?」
「だから、前にも言ったけど、見ようと思って見られるものじゃないんだってば」
「不便なもんだな」
私だって見られるものなら夢を見たいんだよ。
でも自分でもどうにもならないものは最初から計算に入れる事は出来ないんだよ。この話は前もしたなあって思っていると、ふと自分の頭に中にナイスアイディが閃いた。
「そうだ!前にうちわを見つけた時みたいに何かトリガーが必要なんだよきっと」
「例えば?」
私の言葉に彼は少し面倒臭そうに聞き返して来た。確かうちわを見つけた時は天狗文書を読んだ時にお宝発見の道が開いたんだっけ。
つまり今回もその方法が使えるかも知れない。うん、何もしないよりは試してみるべきだよね。思考の末、そう結論を出した私はドヤ顔で彼に伝える。
「それは、ほら……天狗文書だよ。今はまだ昼間だから光らないかもだけど」
「今日は持って来てない」
てっきりナイスアイディアって反応が返って来るかと思っていたら、キリトの奴、何故か今回に限って天狗文書を持参して来ていないらしい。あのいつでもどんな時でも懐に文書を忍ばしているはずの彼が何故?
理由が何ひとつ思い浮かばない私は思わず口に出していた。
「え?何で?」
「雨が降るかも知れないだろ?家宝を濡らしたくないんだ」
キリトが文書を持参して来ていないのは、この現在の不安定な天候を危惧しての事だった。私はそれを聞いて、最初に天候の話をした時の事を思い出していた。
「何だやっぱりキリトも今日の天気の心配してるんじゃん」
このツッコミにキリトは何も答えなかった。きっと返す言葉が見つからなかったんだろうな。
ひとときの休息を終えて、お宝探しを再開した。それからも随分と草をかき分けたものの、お宝のヒントになるようなものは全然見つけられなかった。
手も足も腰も体中のあちこちが痛みと言う声で限界を訴えている。私は黙々と作業を続けている彼に声をかける。
「あーもう限界。今日はここで止めにしない?」
「だらしないなぁ。まだ今日探し始めたばかりだろ……」
今日探し始めたばかり――キリトはこの不毛な作業をお宝のヒントが見つかるまでずっと続けるつもりのようだ。私はその姿を想像して、ちょっと気が遠くなっていた。
作業の手を止めてぼうっと空を見上げる。見上げた空は雲が大部分を覆っていたものの、その雲から来る重苦しさよりも空のその果てしない空間に無限の自由を感じていた。
「空……飛びたいなぁ」
「まだ昼間だぞ」
今回は休日を利用した探索だったので、2時間位作業をしたところでまだまだ昼間の時間だ。興味の持てないキツい単純作業なんて2時間も続ければ飽きが来てしまう。ここが人の目につきやすい場所ならそれでも理性で抑えられたんだけど、もう我慢の限界だった。
「でもここ人里離れてるし!きっと誰も気付かないよ!」
「だからって……おい!」
キリトは必死で私を止めようとする。その手が肩に触れようとしたところを私はひらりと交わした。私が飛ぼうとするのを彼が止めようとして同じ繰り返しを何度も繰り返す。傍から見たらそれは滑稽なダンスに見えたかも知れない。
静かな野原はその攻防で発生する草を踏む音だけが元気に響いていた。
「我慢出来ーん!」
「あーもう……知らないぞ」
何度目かの繰り返しの後、テンションだけが異様に高まった私はついにキリトの静止を振り切り、翼を出して空へと舞い上がった。
ああ、やっぱり空を飛ぶって言うのは素晴らしい。とても気分がいい。ここから見下ろす景色は最高だ――うん?私が野原を俯瞰で見下ろした時、見慣れないものが突然視界に飛び込んで来た。
「ねー、何か光ってる!」
「何だって?まさか……」
私の報告にキリトが動揺している。その光の正体が何かは上空からじゃ分からないけど、もしかしたらずっと探していたお宝に関する何かなのかも知れない。
やっぱり地上で雑草をかき分けていたんじゃ気付かない事も多いよね。これってずっと地上にいたら分からなかったんじゃないかと思う。
早速私はそこに向かう事にして彼に声をかけた。
「ちょっと行ってみるねー」
「嘘だろ……」
ずっと探していたものがこんなにあっさり見つかったかも知れないという事に関して、キリトは何だか空しいものを感じているようだった。そんな彼の落胆した様子を横目に私はその光の下へと向かう。この場所にいるのも飽きて来たので、どうにかこの光が正解でありますようにと願いながら……。
私が現場に辿り着いてその光の正体を拾い上げて確認していたその頃、彼が急いで同じ場所に駆けつけて来ていた。
「残念、ガラス球だったよ」
「そう言う落ちかよ……でも何でこんな山奥にガラス球が……」
そう、この光の正体はガラス球だった。陽の光に当たって光が反射していたのだ。ガラス球はテニスボールほどの大きさで、占い師が持っている水晶球をひと回り小さくしたようなそんなシロモノだった。
どうしてこんな物がここにあるのか2人で頭を捻って考えていると、その持ち主らしき存在が空から急降下して襲って来た。
「コラー!儂のお宝をどうする気だ!」
「え?誰?」
突然どこからともなく聞こえてきた怒号にプチパニックになった私はは周りをきょろきょろ見回した。この時はその声が上空から聞こえて来たって認識が全然なくて、首を左右に振っただけでは音の正体が確認出来ずに私はただ混乱するばかりだった。
「うおっ!カラスッ!」
先に声の正体に気付いたのはキリトだった。その声を聞いて私もすぐに空を見上げる。するとそこにはカラスにしては少し大きい立派な黒い影が舞っていた。
全身真っ黒で表情が全然読めないものの、その声からしてこのカラスが相当怒っているのは間違いなさそうだった。私はガラス球を握ったまま、その本来の持ち主に謝罪する。
「ごめん、あなたのだとは知らなくて……」
「儂はそれをどうするのかと聞いておる!」
「大事なものなんでしょう?戻すね。これでいい?」
謝罪をしても尚怒りの治まらないカラスに対し、私は持っていたガラス球をそっと元あった場所に戻した。この行為によって目の前の2人が自分のお宝を奪いに来た訳じゃないと理解したカラスはようやく落ち着いて話を聞いて来た。
「お主達、お宝が目当てではないのか……?」
「お宝はお宝でも俺達が探しているのは天狗のお宝だからな」
カラスの質問には私より先にキリトが答えていた。天狗の指輪の能力でカラスの声が聴こえるようになった私達は、カラスが天狗ととても縁の深い鳥だと言う事を知っている。このカラスが何か知っているかも知れないと踏んで彼はすぐに声をかけたのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます