お宝探しの日々

天狗のうちわ

第15話 天狗のうちわ 前編

「この土産の中に天狗のお宝も一緒に入っていれば楽だったのにな」


「そこは自分の足で探せって感じなのかなぁ」


 新入部員歓迎会が終わった次の日、私達は次の天狗のお宝について相談していた。天狗の親父さんからそれっぽい話はしっかり聞いていたんだよね。


「親父さん、何て言ってたんだっけ?」


「確か、どこかのお山に特別な樹が生えてるって」


「そうそう、それが目印になるんだって言ってたよね」


 天狗のお宝は天狗らしくやっぱりどこかの山にあるらしい。河童の親父さんからはその山の特徴と大体の場所を教えてもらったのだ。

 そう言う場所があるなら他の妖怪に狙われれてもおかしくないと思うんだけど、どうも天狗のお宝は天狗に縁のある人しか見つけられないような特別な仕組みになっているんだって。


 おや?じゃあどうして私はあの指輪を見つけられたんだろう?あの時キリトと一緒にいたからなのかな?

 それともそんな仕組みより私の予知夢の方が強かったのかな?

 私が色々と考えを巡らせていると、キリトの方から急に話を切り出して来た。


「そうだ!確かその樹って天狗文書にも絵が載っていたはず」


「大体の場所は分かりそう?」


「もう大体の目星はつけてる」


 おお、珍しい。キリトのくせに有能じゃないの。場所が分かったならこりゃ善は急げだね!


「じゃあ今夜行ってみようか」


「今夜?ああ……夜なら飛べるからか……」


 人間が空を飛ぶと言う夢を実現出来たのに、それを秘密にしなくてはいけないジレンマ。そりゃバレたらいけないのも分かるけど、ずっと夜の間しか飛べないとやっぱり物足りなくなってしまう訳で。


「ああ~いつか青空の下で自由に空を飛びたいなぁ~」


 夜空を背景に飛ぶのも気持ちが良いけど、やっぱり青空の下で空を飛びたい。いつかこの願いが叶ったらいいなぁ~。


「じゃ、まずは山の特定と行こうか」


 私の言葉を無視してキリトは目星をつけている場所をざっと地図で確認する。ちょっとくらい反応してくれてもいいのにな。

 それでその場所に絶対にお宝があるかと言えば、実際はそうとも言えない訳で――これは賭けだね!

 幸いキリトのチェックした場所はここからそんなに遠い訳でもなく、全部回ってもそんなに手間は掛かりそうにはなかった。


「鈴ちゃんはどう思う?」


「私は……ここが怪しいかなって……あ、でも全然自信ないです!」


「いいのいいの!どうせこのチェックしてる場所のどこかに確実にあるって保証もないんだから」


 私のこのフォローに対し、どうもキリトは少し気を悪くしたようだ。不機嫌な顔になって私を挑発して来た。


「お前の自慢の予知夢はどうしたんだよ」


 え……、何これ。軽い冗談も受け止められないなんて器の小さい男だね。それに私が予知夢を自由に見られると思っているみたい。最初に会った時に夢の事はちゃんと説明したはずなんだけど――。

 ここで喧嘩になってもいけないと思った私はこのキリトの質問を軽く流す事にした。


「や、あれから全然見てなくてね……」


「何だ。あんま当てに出来ないんだな」


 かちーん。こいつ、私の気も知らないで勝ち誇ってるよ。これは黙ってはいられないね!


「夢なんて自由に見られる訳ないでしょ!」


「お……おう……」


 私の気迫の反論にキリトはたじろいでいた。私だって思い通りに予知夢を見られたなら何も悩まずにその夢の通りに行動するって話だよ。これだから男子は……。


「あの……喧嘩はやめてください」


 私達の雰囲気を察して仲裁に入ってくれる鈴ちゃん。彼女は本当この部の一服の清涼剤だなぁ。


「大丈夫よ、こんなの喧嘩の内に入らないから」


「そうそう、ただの言葉の綾だから」


 キリトと2人でこのやりとりが喧嘩のような悪意の応酬でない事を鈴ちゃんに説明する。私達の言葉を聞いて彼女は安心した顔を見せていた。

 うん、鈴ちゃんはいつも笑顔でいてくれないと。今後も彼女を心配させないようにしないとだね。


「じゃあ今夜7時にあの指輪の祠の山に集合って事で」


「了解」


 何故あの祠の山に集合かと言うと、今日チェックした場所の大体中心にあの山があったから。あの山を起点に回れば効率よく探索が出来るって事なんだよね。

 私はいつもより早めに夕食を食べて、しっかりと準備をしてこっそりと家を出た。空を飛べるから玄関を経由する必要がないって言うのはいいね。

 取り敢えず部屋に鍵をかけておいて、遅くなり過ぎる前に戻って来られたらそれで大丈夫でしょ。


 その点キリトはいいな、一人暮らしだから時間の制限もなくて。ああ、一人暮らし……憧れるなぁ。

 でも考えてみたら掃除洗濯食事やゴミ出しとかも全部ひとりでやらなくちゃだから意外と面倒いのかも。一長一短だねぇ。


「しかし遅いなぁ……何やってんだろ?」


 待ち合わせ時間を決めたのは確かキリトの方だったはずなのに、その本人がまだ来ていないってどう言う事?私は確認の為にもう一度時間を確認しようとポケットのスマホを取り出してそこに表示された数字を見た。うん、間違いない、夜の7時をとっくに過ぎている。


 現在時刻は19時7分。夜中にこんなか弱い美少女を待たせるなんてどうかしてるよ。

 私は折角スマホを取り出したのでキリトが来るまで暇潰しにゲームをする事にした。連絡をしても良かったんだけど、こっちから急かすのも違う気がして。自分から言い出したんだから何かあれば向こうから連絡があるだろうし。


 そんな訳でプレイするゲームは今クラスで流行っているパズルゲームを選んだ。このゲーム、ものすごくハマるほど面白いと言う訳ではないんだけど、こんな時の暇潰しにはもってこいなのだ。


「おっしゃー24連鎖!」


 ゲームを始めてどれくらいの時間が経った事だろう。私はいつの間にかこのゲームに夢中になっていた。それはもうこの集まりの本来の目的を忘れるくらいに。そうして奇跡の24連鎖を成功させた頃、上空に何かの気配を感じた。

 けれどもっとゲームを続けていたい気持ちになっていた私は、この気配を敢えて無視してゲームを続ける。


「ごめん、色々あって……」


「あ、あー、うん」


 声をかけられた以上は無視する訳にも行かないので、仕方なく私はゲームを終了させる。この時ちらっと確認した時刻は20時2分だった。どれだけ遅れてるのよ!

 この時、私はこの遅れて来た間抜けに色々言いたい事がどんどん泉のようにふつふつと湧いて来ていた。

 でもここで私がその話をすればまたそれだけ帰るのが遅くなってしまう。そうなってしまうのは私としても色々都合が悪いので、ここは大人の対応をする事にした。

 でも後でしっかり理由を聞いて、それが納得出来ないものならばきっちりと反省してもらわなきゃだよ。


「じゃあ行こっか」


 遅れた来たのにさっきのつぶやくような一言で許されたと思っているのか、キリトは早速自分から私に指示して来た。私は喉元まで来ている感情の塊を何とか押さえつけて、彼にぎこちない笑顔を向ける。平常心、平常心――。


「えーと、まずはあっちの方?」


「樹を探して」


 真夜中の暗い中で私達は上空を飛びながら、そこが本当に昼間チェックした場所か自信の持てないまま探索を開始する。

 真っ暗になった街の景色は、目立つ建物でもない限り特定の場所を判断するのは難しい。しかも探すのは基本的に自然の山。当然のように明かりなんて便利なものはない。この暗闇の中で一本の樹を探すなんて、まるで目隠しをして落し物を探すようなものだった。


「みんな同じに見えるよ」


「多分その樹は見たらすぐに分かるものだと思うんだ、特別だから」


 キリトのこの言葉があてになるのかどうかも今は分からない。何故ってすぐに分かると言っても真夜中の暗い山でも分かるとは限らないから。

 そこで私はこの彼の出した条件を逆に利用する事にした。

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