第14話 新入部員 後編
「そこを何とか!これ、これあげますから!」
「いや、これは学校の方針だから……って何これ?お酒?学校にこんなもの……」
「そのお酒も河童からもらったんです」
「君ら河童に何したの?」
私は何とか先生に便宜を図ってもらおうと、さっきお土産袋から出したばかりのお酒を先生に押し付けた。
先生は困惑しながらも、それが妖怪からの品だと知ると興味深くそれを眺めていた。
よし、後ひと押しで何とかなるか……っ!
「そんな事より部の件ですよ!条件的に後何が足りないんですか!」
「あ……うん、部の承認は部員3人以上なんだ」
「3人?3人いれば部として承認されるんですね!」
「そう、部員さえ揃えば後は僕の方で……」
結局、新しい部の創設に必要なのは顧問と部員数だった。多分猶予期間もあるんだろうけど、ぼっちの私と転校してきたばかりのキリトじゃあ……。
それにこの話を受け入れて協力してくれるって条件もあるし……。これは――中々に難しいミッションじゃないの――。
「どうする?誰か誘う?」
先生の話を聞いてキリトが私に聞いて来た。そんな事言われたって私にも当てなんかないよ。
誰か一人……誰か一人……そうだ!
「ちょっと待って!」
「何っ?」
私の反応に驚くキリト。突然の大声に先生もちょっとびっくりしている。
ふふん♪いーい事、考えちゃったもんね。
「ここに3人目がいるじゃない!」
私はそう言ってこの部屋にいるもうひとりの女の子を指差した。
「あの……私……ですか?」
そう、3人目の部員はこの雨降らしちゃん!どうよ、我ながらいいアイディアじゃないの(自画自賛)。
先生は私の提案を聞いて考え込んでしまった。
「うーん、妖怪が部員って言うのも……」
「ダメですか?」
私は先生に向けて目いっぱいの媚び媚びぶりっ子お願いビームを発した。これはかつてこれで親に臨時お小遣いを出させた事もある私の必殺技のひとつだ。
これで叶えられなかったお願いは――ないとはいえないけど――それでも何もしないよりはマシだよね。
しかしその様子をキリトは冷めた目で眺めていた。こいつ……ちょっとは私に協力しろってんだ。自分の問題でもある事をもう少し自覚して欲しいよ。
先生はしばらく考えた後、このある意味ふざけた企みに乗ってくれた。
「いや、面白いよ!僕そう言うの好きだな……。ただ名前は考えないと……それ以外は何とか動いてみるから」
「よし!じゃあ今から雨降らしちゃんの名前を考えよう!」
「えっと……いいんですか?」
私達のノリに戸惑う雨降らしちゃん。私は何としても手に入れたこの場所を逃したくない思いもあって、強引にでも話を進めようとした。
「いいのいいの!こう言うのはノリだから!」
さて、それじゃあ雨降らしちゃんの名前を今から考えなくちゃ。一応まずは本人に思いつく名前がないか聞いてみるかな?
そう思って私が声をかけようとしたら、彼女の方から声をかけて来た。
「だったら、あの……前から考えていた名前があるんです」
「本当?じゃあそれで行こう!決定!」
「即決だなおい……」
またキリトが私の反応に突っ込みを入れる。こいつ、さっきから突っ込みしか入れてないな……。
そんなキリトの反応をよそに先生は書類作成のために話を進めていく。さっすが先生、有能過ぎて輝いて見えるよ!
「じゃあ名前を聞かせて。それで書類作っちゃうから」
「あの……それじゃあ……天野 鈴で」
「雨降らしだから雨野なんだね!かわいい!」
私が雨降らしちゃんのネーミングセンスに感動していたら彼女、何だか表情がすぐれない御様子。あれ?私何かまずい事言ったっけかな?
「いえその……漢字は雨のあまじゃなくて天のあまで……出来ればですけど」
「分かった、じゃあ……りんは」
「りんはすずの鈴で……」
雨降らしちゃんも前から温めていた名前だけあって色々こだわりがあったんだね。私もあんまり直感で反応しないようにしなくちゃ(反省)。
それにしても天野 鈴かぁ……うん、かわいい雨降らしちゃんに似合っていていい名前だよ。
「OK!それじゃあ僕はこれで色々と動いてみるから」
「おお!先生頼もしい!」
「吉報期待してます」
「よ、よろしくお願いします!」
書類に必要事項を書き込んだ先生はウンウンと何か自分で納得して、それから部室を出て行った。これで古文書研究部は学校に正式に認めらるんだね!やった!
私は一仕事終えた気になって大きく一つため息を付いた。
さて、じゃあ取り敢えずこのお土産のおせんべいでもひとつ頂きますか。おせんべい、とてもいい色合いでいかにも美味しそう。
バリッ!
うん、いい塩梅。さすが河童の親父さんがお土産に持たすだけあって間違いのない品だね!
じゃあ今からこの新しく入部してくれた新入部員の歓迎会にしようか。ちょうどお菓子もここにたくさんある事だし♪
私は鈴ちゃんにおせんべいを勧めながら話しかけた。
「じゃあ、これからは鈴ちゃんって事で」
「あ、どうも……」
鈴ちゃんは私からおせんべいを受け取って、小さく割って小さな欠片を口に含んだ。くぅ~、見た目も仕草も声も全部かわいいー♪
それにしてもあの御札にこんな効果があるなんてねぇ。見つけてすぐに貼って大成功だったよ、うん。まぁ、これは怪我の功名ってやつだけど。
「この御札って妖怪が目に見えるようにする効果があったんだ」
「実はそうなんです。これ、霊界と同じ気配にする御札なんです」
この御札って妖怪の仲間内では有名なのかな?河童の親父さんも素晴らしいものをお土産に入れてくれたもんだよ、本当。
しかし見れば見るほど鈴ちゃんは可愛いなぁ。背が低くて制服がダボダボで、子供が無理して大人の服を着ているみたい。
「鈴ちゃんの制服姿もかわいいよ」
「あ、有難うございます」
私に可愛いって言われて、顔を赤らめて恥ずかしがっている鈴ちゃんも可愛い。え~い、つんつんしちゃうぞ、つんつん♪
しかしこう見ていると、目の前の少女が妖怪だなんて全然見えないね。普段見えない人まで見えているんだからどこからどう見ても人間だよ。
私はさっき袋から出した河童の親父さんからのお土産をじいっと眺めていた。出したお土産は全部机に広げて並べてある。
いくら大事な息子を見つけて来たとは言え、よくもまぁこれだけの物を持たせてくれもんだよ。
「しかし河童の親父さんも色々と持ってるもんだねぇ」
「あの人、昔は結構すごい地位と実力を持っていたんですよ」
私のつぶやきに鈴ちゃんはそう言って河童の親父さんの過去を話してくれた。流石昔からの知り合いだけあって詳しそう。
「ああ、だから天狗の事も知っていたんだ」
私が鈴ちゃんと話していると突然キリトが話に割り込んで来た。こいつ、やっと興味のある話になって動き始めたか。
しかし今の河童の親父さんしか知らない私には、すごい権力者の河童のイメージが頭に上手く思い描けなかった。
「あんな溜池に住んでいるのにねぇ」
「元からじゃないんです。昔色々あって……」
私の軽口に鈴ちゃんは寂しい顔になってポツリとそう呟いた。妖怪って寿命が長いし、生きていればそりゃあ色々あるんだろうな。
そう言えば河童の親父さん、気になる事も言ってたっけ。
「そう言えば親父さん、鈴ちゃんを裏切り者だって」
「はい……その……色々あった時に最後まで味方でいる事が出来なくて……」
うーん、鈴ちゃんと河童の親父さんとの間には、私達が決して立ち入れられない深い事情があるんだろうな。
こう言う話は深く聞いちゃうの、良くないよね。
ここはうまく話を終わらせて、鈴ちゃんの気分がこれ以上気落ちないようにしないと。
「そうなんだ……いつかまた仲良く出来たらいいね」
「……はい」
私の言葉に鈴ちゃんは心配させまいと明るく返事してくれた。守りたい!この笑顔!
突然始まったこの新入生歓迎会はやがて徐々に盛り上がって行き、最終的に部室に笑い声が響くほどになった。
あのお土産がこんなに役に立つだなんて、本当これ部室に持って来て良かったよ。
気が付くとおせんべいもお饅頭もすっかり姿を消していた。親父さん、お土産本当に有難う。みんな美味しかったよ♪
食べ物以外のお土産も部室に保管して大事に大切にするからねっ!
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