タイムマシン及びタイムトラベルの不在証明

益田米村

タイムマシン及びタイムトラベルの不在証明

一章


〜ドラえもん、セワシの矛盾〜

『タイムマシン』と聞いたとき、日本人である皆さんは恐らく『ドラえもん』を思い浮かべるでしょう。 この作品は日本に『タイムマシン』を広めた代表的な作品であると共に『タイムマシン』における様々な設定を作り出している。 それは作品の第一話、のび太の質問に対するセワシの返答から繰り出された。

セワシ曰く

『東京から大阪に行く上で、どの交通機関を使い、どの道を通るにしても、最終的に大阪に着くという結果は変わらない。故にどんなに過去を変えようとも、未来におけるセワシの存在は保証されている』

とのこと。

要約すれば、

『どんなに過去に影響を及ぼそうと人間の出生に変化は無い』

と言いたいようである。


確かに、貧乏な現在の生活の機転を先祖ののび太に見出だし、彼にドラえもんを派遣して人生を成功へと導く。そうすることでセワシは自らを幸せにしようとした。 その結果自分が存在しなくなるのでは意味が無い。 なるほど、上手い設定である。


だが、これでは都合が良すぎる。 物事を人間中心に考えたエゴイズムな発想ではないか。 F先生は何を思ってこんな理論を挙げてきたのか?


過去が未来に影響を与えないのであれば、それは小さな小石一つにさえ関する物でなければならない。 森羅万象は一体であり、切り離して考えてはならないのだ。 そうなると話は変わってくる。 小石一つ、もしくは空気中の分子一つの未来が変わらないとするならば、誰も過去には戻れない。 分子単位で動かすことが出来なくなるからだ。 空気を吸えないだけでは無い。自分の身動きも取れない。いや、過去に侵入する事すら阻まれることになる。


それに期間の問題もある。 のび太の孫(だっけ?)の世代に影響が無いにしても、息子はどうなる? いくら出生に影響が無いといっても、ジャイ子と結婚の予定をしずかちゃんに変えたのであれば、外見的な特徴は大きく変わってくるだろう。 それも影響が無いのだろうか? 息子は駄目でも孫は良い。

ではどのくらいの期間を経て未来は変更されることになるのか? もしかしたらセワシの世代ではまだ変化が無いかもしれない。そこら辺もご都合主義と言える。


そこを一番理に適えるとするならば、即座に変更されるべきであろう。そしてそれは変更されたままになる。それならば納得も行く。つまりセワシは存在しなくなるのである。



二章


〜自分殺しの矛盾〜


よく『タイムトラベル』を扱った作品で出て来る話として、『過去の世界で自分の親を殺したら、未来の世界で自分も消えてしまう』というものがある。


確かに、『過去での行為は未来に影響し、都合良くは変更されない』という前項での結論にも当て嵌まる。だが、これにも矛盾が存在する。


よく考えてみて欲しい。『自分』が『自分の親』、もしくはもっと解りやすく『自分』を殺すものとして考えてみよう。『未来の自分』が『過去の自分』を殺す。すると『未来の自分』が消えてしまう。『過去』が無くなれば『未来』は無い。

では、『未来の自分』が消えてしまうのなら、『過去の自分』を殺すのは誰か? 『未来の自分』が存在しないのであれば『過去の自分』は殺されずに済む。いっその事どちらも消えてしまう、つまりは元から存在しない、というのも有りなのか?

いや、無しだ。『過去』で殺される以前の『過去の過去』では確実に存在しており、その痕跡は至る所に在る。 その全てが消えるとなると、世界に多大なる矛盾が存在してしまう。 例えば、セワシがのび太を殺したとしよう。その結果二人は元から存在しなかった事になる。とすると、野比家には、子供がいないのに子供部屋が存在し、のび太の通っていた学校では席が一つ余ることになる。

このような矛盾は解決できない。 強いて解決しようとするなら、『タイムマシン』と『タイムトラベル』の存在を否定するしかない。



三章


〜ギガゾンビ的発想の発生〜


前二項では『そもそもタイムトラベル自体出来ない』という結論に向けて論じてきたが、本項では『もし存在するなら、こう成っているべき』という結論に向けてみたい。

ドラえもん劇場版の中に『日本誕生』という作品がある。この物語の中で主人公達は旧石器時代の日本で大冒険をする。その際の悪役として登場するのが23世紀から来たと言う『ギガゾンビ』なる人物である。彼は文明発生以前の時代を科学力を用いて支配し、未来を自分に都合の良い世界に作り替えようとした。これは実に人間的な考え方である。もし『未来』に『タイムマシン』が発明されたとしたら、このような目的で使用する人間が100%出て来るだろう。 今までの人間の発明が全て人間の為に使われてはいない。核然り、PC然り。便利を履き違えて悪用するのが人である。

『ドラえもん』ではこのような『ギガゾンビ的人間』ヘの対処として『タイムパトロール』を設けて対応に能っている。劇中でも『ギガゾンビ』は『タイムパトロール』に襲撃され、その後逮捕されている。


しかし、この『タイムパトロール』の存在にも矛盾が孕まれる。どんな警察機構も犯罪が発生しなければ身動きは取れず、事後処理しか出来ないはずである。『過去』で行われる『時間犯罪』は行われなければ犯罪ではなく、行ってしまえば取り返しの着かないことになる。そもそも『過去』に戻って『タイムパトロール』創設を『無かった事』にしてしまえば、怖いものは無くなってしまう。故に『ギガゾンビ』は確実に世界を支配できる。もしタイムマシンが存在するならば。

我々が生きる『今』が暮らしやすいのであれば、それこそが最大の『タイムマシン不在証明』になるのである。


四章


〜化学的視点から〜


次は屁理屈ではなく、化学的な部分から否定していこう。

まぁ、私は根っからの文系人間なもんで、うろ覚えでしかないのだが、確か世の中には『質量保存の法則』とやらがあったはず。内容は『物質の体積は変化しても質量に変化は無い』だった気がする。つまりこの世界全体における質量は一定でなければならない。

もしこの法則が未来永劫壊れないのだとしたら、時間移動は不可能と言える。もし『未来』から『過去』に人が一人移動したとすると、『未来』では一人分の質量が減り、逆にその分だけ『過去』で増えることになってしまう。

こうなると『質量保存の法則』が機能しなくなる。タイムマシンを造りたければ、まずこの矛盾から破壊するべきである。


五章


〜巨匠の理〜


今回様々な点で引用と批判・否定をさせていただいた『ドラえもん』。やたらと時間を移動しまくるこの作品ではあるが、かつて作者自身が『タイムマシン』を否定したことがある。

『藤子F不二雄異色短編集』に収録されている『タイムマシンは絶対に』。

話のあらすじは、


タイムマシンを研究していたために学会を追放された博士のもとを、かつての部下が訪ね、元いた研究所に戻って来てほしいと頼み込む。

そうすれば地位も名誉も保証される。何より奥さんが可哀相だ。

しかし博士はその申し出を拒否し、見せたいものがあると言い出した。

実はタイムテレビは既に作り上げることに成功した。タイムマシンの完成も時間の問題である、と。

博士は実演して見せると言い、機械のダイヤルを回し始める。

さしずめ、昨晩我がワイフは私が研究室に閉じこもっている間、何をしていたのかな?

しかし画面が映った直後、部下が博士を射殺した。

画面には、博士の妻と抱き合う部下の姿が……。

知られたくない秘密は誰にでもあるんだ。

個人の情事から、それこそ国家機密にいたるまで。

それがあるうちはタイムマシンは実用化されないんだよ。永久に。


このような感じの話である。言いたいことは大体『ギガゾンビ』の内容と同一と見ていいだろう。開発者やその関係者同士で知られたくない秘密が存在する場合、お互いに開発を断念するか、先に使用して過去を変えるかをするだろう。その過去が変えたくないものであるのなら、タイムマシンなど無い方が良い。作られる前に作れないようにしてしまえば良い。実に自然な考え方である。(この場合博士に知られたくない秘密がなかったのかは疑問が残るが)藤子F不二雄はこのような事を言いたかったのだろうと思う。

このような理屈を述べて起きながら、この偉大なる巨匠はタイムマシンを世に広げた第一人者なのである。 実に面白い。


考察結果


以上の観点から、タイムマシン及びタイムトラベルの実現、存在は不可能であると結論づけることとなった。但し、今回取り上げた以外の方法=精神のみの時間回帰(プロポーズ大作戦など)はタイムトラベルと言えるのかどうかが微妙となってくるので敢えて触れていないが、実は否定しがたい。『自分殺しの矛盾』や『ギガゾンビ的発想の発生』では否定が効くが、『質量保存の法則』には引っ掛からない。目的によっては『セワシの矛盾』も回避できる。

行動が制限される分、実現しうるのかもしれない。

それでも『巨匠の理』は避けれない。タイムマシンの実現は間違いなく人類に不幸を齎す。それだけで十分タイムマシンの存在は否定されなければならない。


以上、証明終わり。

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