女子高生ハゲ照山さん!
久永道也
第1話 ボーイ ミーツ ハゲ
とある休日の昼下がり、漫画喫茶で暇を潰した帰り道に近所の公園で同じクラスの
思わず足を止める。
同じクラスといっても話したことはないし、去年こっちに戻ってきたからうわべのことしか知らないんだけど、俺は足を止めざるをえなかった。
あの照山さんが、泣いていたからだ。
春風に長い黒髪を揺らしながら、公園の中心にある大きな桜の木の下で涙を流しながら、一人佇んでいる。
少し病弱だが学年トップの成績を誇り、お嬢様っぽい気品の漂う知的な顔立ち。そして貧乳何それ美味しいのって具合のボンキュッボンなスタイルで去年のミス京陵に輝くなど、美少女ここに極まりって感じの人。
性格は上品でおしとやか。老若男女に慕われ、彼女が公認するファンクラブまであるからびっくり。で、ついたあだ名は『学園の女王』。
スクールカーストの頂点。まさに雲の上の存在であり、浮かない学生生活を送っている俺とは真逆の存在。月とスッポン。いや、俺みたいな陰キャラを照らす太陽のような存在か。
そんな彼女は現在、白のワンピースという学園では見られない貴重な私服姿で、――恐らく誰も見たことない貴重な泣き顔で、満開の桜を眺めている。
……まさか、誰かに振られたりでもしたのか?
公園を見回す。
小さいけど遊具もあるこの公園には、どうやら照山さん以外、誰もいないようだ。
ホッとする反面、なんとなく寂しい気持ちになる。
花見シーズン真っ只中の日曜日で天気もいいっていうのに、大人はおろか子供一人いないとか……引っ越す前は近所の奴らや妹と一緒にケイドロや正義の味方ごっことかをして賑わってたんだけどなあ、この公園。まあ去年、起きた震災の影響もあるんだろうな――。
考えごとをしていると照山さんと目が合った。
パッチリとした黒い瞳に目が釘付けになる。泣いていてもやっぱり綺麗だ。
シルクのように滑らかな黒い髪が日光に煌き、宙を舞う桜の花びらと相成って、……それこそ太陽のように輝いていると思った。
まるで映画のワンシーン。心惹かれていく中、照山さんが涙をぬぐいニコッと笑う。
笑った? あの照山さんが、俺を見て笑ってくれた?
ゴクリとつばを飲む。
今までは芸能人のような手の届かない存在として、恋愛対象に入れることすらおこがましいと思っていた。
けどそれは全部俺の勘違いで、今この瞬間から漫画やドラマみたいに恋が始まったりするのだろうか?
帰り道に手を繋いだり、花火大会でチューしたり、クリスマスにラブホテルへ泊まってイチャイチャしたり、ピー音おんが入りそうなあんなことやこんなことも出来たりしちゃうのだろうか?
彼女いない歴=年齢という童貞街道まっしぐらな俺が妄想をパンパンに膨らませていたところで、強い突風が吹いた。
それは春一番と呼ぶにふさわしく、桜の花びらを空高く舞い上げていく。
……が、なぜかそこには黒い髪の毛も混じっていた。
「え?」
「あっ」
俺と照山さんが同時に声を出す。
なぜなら、風に乗って照山さんの髪の毛が――カツラが取れたからだ。
目を合わせたまま、俺と照山さんは時が止まったかのように動きを止める。
髪の毛が一本も残っていない、それはそれはもう立派なスキンヘッド。鏡のように日光を反射してるせいか、後光のようなものが差している。……いやいや、なにこれ? なんで、照山さんハゲてんの?
仏とまでは言わないが、見た目は徳の高そうなお坊さん。いや、女性だから尼さんか。
……まあ照山さんは女子高生だから、アマさんじゃなくてハゲさんなんだけどね。
あは、あはは………………。
乾いた笑顔を浮かべる俺と照山さんの間に、ヒューっと温かい風が吹く。
恋に落ちたと思ったら、カツラが落ちた。
悪夢のようなオチというか現実に頭がくらくらとする中、照山さんの頭はさんさんと輝いていた。
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