即興小説群

佳原雪

白兵戦と黒魔術(お題:彼女とゲーム)

走りながら肉体の制御権コントローラーを投げ渡す。体の中、二人いるうちの、片方が彼女だ。

白と黒の魔女。二人はガチリガチリと交代しながら強制横スクロールの迷宮を駆け抜ける。


「全く、無茶をする」

「黙って殺して。ここから早く抜けるのよ」

「……」


多重人格というわけではない。死にかけていた彼女は、後天的に他者へ体を乗っ取られた。

乗っ取った精神を飲み込み、彼女はよみがえってきた。と、いうことになっている。


二人は平地に出た。かしゃり、と装いが白に変わる。

「そんな格好して魔法の一つも使えないのか」

彼女は白基調のパールカラーふりふりドレスを着ていた。二人目が話すときだけ、ほのかに黒が混じる。

「当たり前でしょ。私はプリーストでもマジシャンでもないのよ」

彼女は飛び蹴りで頭を砕いた。ジャンプし、転がり、黒に変わって杖を振るう。ブロックの上にいる敵が多数落ち、黒はそれを始末した。マップ系を二回。三発目はカシュンと軽い音が鳴って不発。白が始末。


そうして迫る目前の扉。残る敵は三体。脅威、中程度。


「あれね」

「飛び道具は。サンダーとかでないのか」

純然たる魔法使いである黒は制約が多い。詠唱の分行動が遅れる。そして有限のリソース。白い方は『MP』の切れた黒いのからコントローラーを奪い返した。殺せない鈍足の黒に、攻撃を回避する方法はないからだ。

「雷? あるわ」

腕をしならせ、白い彼女は手のひら大の金属隗を放った。飛んでいったそれは、敵の目の前に落ち、爆ぜた。

「命中した」

「なんだあれ」

ボム手榴弾よ」

「持ち歩いているのか!?」

「当然でしょ。銃とボムがなくて私に何ができるっていうのよ」

白い彼女はそう言いながらその腕と足で、敵の頭を刈り取っていく。


最後の首を飛ばして、彼女は扉をくぐった。星のワイプが扉の周りをまわって弾ける。



「さて、ここのステージはクリアね。リザルト見てから次に行くわよ」

《コレクション》に小さなイヤリングが追加された。

「やった。これ欲しかったの」

「よかったな。なあ、いつになったらここから出られるんだ」

「コレクションの埋まり具合からして……あと、3ステージくらいかしらね。それが終わればエンディング。がんばりましょ」



「そういやなんで魔法使えないのに杖持ってるんだ?」

「攻撃力アップ系の打撃武器・防具なの。こう見えて剣とも渡り合えるのよ」

「そうか」

「ボーナスポイントあるけどMP支援つけとく?」

「任せる」

「つけた。次行きましょ。さらなるあなたの働きに期待してるわ」


2016-06-08

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