異世界勇者、これより帰還せり
五十嵐鷹翔
序章 異世界より帰還せり
最終決戦
第1話 終極し帰還せり
「私が時間を稼ぐ、シュウ! 行くぞ!!」
「ああ、ファル!! 死ぬときは一緒だ!」
「ふふっ、縁起でもないことを。……だがお前となら――」
数瞬の間。
「唸れバルムンク、
ファルと呼ばれた彼女――ファリシア・アン・ジークフリートの持つ魔剣バルムンクに魔力が充填される。
怪しげな魔力の流れの旋律と共にバルムンクの
「
「我の剣とて、魔の真髄に打ち勝つことは出来ぬ……!! 最終火炎魔法、“魔炎”!!」
杖を地面に打ち付けた瞬間、地面が黒に染まった。黒が世界にゾクリとする振動を伝える。
なのにどうだろう。ファルの瞳にはまだ勝算に満ちた輝きを持ち続けていた。
「この戦い、私一人であればお前を倒すことは叶わなかっただろう」
「貴様、もう勝ったつもりか!!!」
それでも怯まず、ファルは魔王に問う。
「魔王よ、お前と私の違いは分かるか?」
「フンッ! 目の前の状況を見て尚分からないと申すのか!! 我と貴様の違い――それは力の差だ!! 見よ! “魔炎”による崩壊し始めた世界を――っっっ!?」
当り前の様に傲慢に語る魔王から余裕の表情が消え去り、立ち代るように
「魔王と私の違い。――それは出会えた友の数だよ」
大地の震撼。地球内部にまで届くその炎はやがて地を焦がし空に立ち込めていただろう。
――それはエルフ史上、最強と呼ばれるフレイ・アル・アルフヘイムと天界の番人ロキ・ニーベルング・アースガルズがその場にいなければの話だが。
「良かったです、間に合ったようで!! シュウちゃん、ファルさん! お怪我はありませんか!?」
「ふっふっふ~。私とアルアルの合作で止まらない魔法なんてないのだ~! ブイ!」
オパールグリーンの髪をなびかせながら、アルはシュウたちの心配をしてくれている。
ショートヘアーのシルバーブロンドの髪を手でくねらせ、こんな状況なのに元気いっぱいの声を張り上げるロキ。
「天の知と大地の理が合わされば全ての魔法に対処できる!!」
恒久天地凍結魔法 “大地の寝音”。
魔王の放った炎が地球最深部に到達した瞬間、彼女たちは地球ごと活動を停止させたのだ。
「シュウ! この一手で決める……!! 合わせろ!!」
「ファルと俺なら勝手に息も合うだろーがよ!!」
シュウは右手に持つ刀を左手の前に重ねた。
「呪印付与解放!
シュウの持つ刀にはアルとロキに凍結させられてなお、轟々と燃え続けている地獄の炎を纏わせた。どす黒い青の炎は地獄夜を照らす死の明かりだ。
「刀の名は
「
「行くぞ、ファル!!」
「あぁ!!」
二人は互いの剣を重ね合わせ新たな炎を創った。
「地獄の豪炎を味わえ!!!」
横一閃――もはや一心同体の彼らの振る剣筋は魔王を滅ぼすのに十分すぎるほどの攻撃力を有していた。
「おのれ、人間……!!! 人間どもがァァァァァァァァァァァ!!!」
魔王の体は糸が切れたかのように崩れ落ちた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「やった……のか?」
シュウたちの荒い呼吸音以外は何も聞こえない。
シュウたちも今になって襲ってきた感覚が胸を打つ。
「そんなフラグ立てても何も起こらないってことは……俺たちは魔王を
「やっっったわよーーー!!!」
「やりましたね、皆さん!!」
「私たちにかかれば魔王なんて一発なのよ~! ブイ!」
彼女たちからも歓声が上がる。
「――魔王を倒せ。そう言われ、この世界に転移させられた俺は条件をクリアしちまった」
「やっぱり……
ファルの寂し気に濡れる瞳に胸が痛くなる。俺がこの世界に来て最初に出会ったのがこいつだった。身の回りの世話やこっちでの文字の読み方。今、俺がここにいるのはファルと一番最初に出会えていたからだ。
「……でも、やっぱり俺は元の世界に戻りたい。お前たちと別れることになろうともな」
「悲しいが、仕方ない。シュウの住んでいた世界はここではいのだろう?」
「まぁな」
また寂し気に言うファルの姿に心が揺れかける。でも俺はあの家に戻りたい。
日本に、戻りたい。
「シュウ様と離れるのは嫌です~~!!」
「おいおい、泣くなって。お前にも随分迷惑かけたな」
「全然そんなこと、ありませんでした! むしろ私がいつも助けてもらってて!!」
フランの目には大粒の涙がぽろぽろ滴り落ちていた。
「もう、シュウは帰ってこれないのかい?」
「ロキ。……正直、分からん。こっちに来るときも突然だったしな」
「遠くに出かけてるって思ったら、シュウがいなくても我慢できる。でも、ずっといなくなんないでよ。……さみしいじゃん」
「……ロキ」
普段の天真爛漫さとは違い、しおらしく俺のために涙をこらているロキにシュウの目にまで涙が出てくる。
「お前たちといた日は一生忘れない。ファルにはこの世界に来た日から。フランやロキには天界に乗り込んだ日からずっと俺のこと気にかけてくれていた。お前ら全員、俺の家族だと思ってる」
「シュウ……!!」
もはや俺達は全員、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。お互いに対する思いが決壊して涙がとめどなく流れてくる。
しかし、時は残酷。魔王の体が光転移のゲートへと形を変えた。
「例え、今後お前らに会えなくなったとしても俺はお前らのこと絶対に忘れない! 大好きだお前ら! だからお前らも俺のこと忘れないで――」
そこでシュウの意識は沼の底に沈んだ。
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