グリムノーツ きかいな想区

けろよん

第1話 やって来たら森の中

 ごく普通の少年エクスは空白の書を持って生まれてきた。

 モブだと馬鹿にされ何の役目も与えられていなかった彼だったが、ヴィランに襲われていた少女レイナを助けたのを機会に、彼女の仲間のシェインやタオとも仲間になって一緒に旅をすることになった。

 四人は物語を乱すヴィランやカオステラーを倒し、正しい物語へと調律する旅をしている。

 今回の想区ではどんな物語が彼らを待っているのだろうか。




 その世界は入ってすぐに森が続いていた。木漏れ日の差し込む薄暗い木立の間を四人は進んでいた。

 と、先頭を歩いていた兄貴分のタオが不意に足を止めて言った。


「俺の予想ではそろそろ出ると思うんだよな」

「ヴィランがですか?」


 エクスは警戒を強めつつ訊く。ヴィランとは敵だ。奴らは世界で暴れまわるモンスター達だ。

 エクスは気を引き締めるが、タオが言ったのはヴィランの事では無かった。彼は陽気に白い歯を見せつつ気楽な調子で言った。


「森の泉で水浴びをしている美少女だよ。物語の出だしとしてはよくあることだろう」

「知りませんよ」


 エクスとしてはタオの言っている物語など知ったことでは無かった。そんな普通など知らない。

 レイナはやれやれとため息を吐いた。


「くだらないこと言ってると置いていくわよ」

「姉御はサービスには興味が無いんですか?」


 タオの妹分であるちっこい少女シェインが訊く。彼女はなかなかマニアックな趣味の持ち主だ。エクスはそう認識している。

 そんな少女にレイナは訊き返した。


「サービス?」

「エクス君に押し倒されて胸を揉ませるサービスです」

「あんたがやればいいじゃない」

「それは嫌味ですか? 何ですか。姉御のばっきゃろー」


 ちっこいシェインはふてくされてしまった。兄貴分のタオは言う。


「エクス、お前のせいだぞ」

「いや、僕何も悪くないよね?」

「押し倒したらぶん殴るわよ」

「だから何もしてないよね」

「頑張ってください」

「何をだよ」


 このパーティーにはどうも馴染めない物をたまに感じたりもする。三人はエクスよりもずっと仲良し同士だ。

 エクスは後で仲間になった新入りだから仕方ないのかもしれないが。


「ほら、無駄口を叩いてないでさっさと行くわよ」


 真面目なレイナがさっさと行こうとするので、エクス達も慌てて追いかけた。




 しばらく行くと、水の流れる音が聞こえてきた。

 耳ざといシェインがいち早く反応した。


「タオ兄の意見もあながち的外れでも無いようですね」

「では、この先に美少女が。どれどれー」


 タオがさっさと草を掻き分け行ってしまう。

 エクスが黙って見送っていると、シェインがにやりとした笑みとジト目を送ってきた。


「エクスさんもさっさと行ったらどうですか? いいとこ取られちゃいますよー」

「僕はこういうのよくないと思うけど、一人で行かせるわけにはいかないよね」

「調和を乱す奴は敵よ。退治しなければ」

「姉御が意外と乗り気だ……」


 というわけで四人で草場の陰から覗くことにした。その先の水場ではヴィラン達が楽しそうにキャッキャウフフと水浴びをしていた。


「……って、お前らかい!」

「なぜこんなところにヴィランが。美少女はどこにいるんです?」

「こんなサービスは求めていませんでした」

「正気に戻りなさい。物語を乱すところにいる奴はやっぱりヴィランなのよ」

「おのれ、ヴィランめー」


 相手もこちらに気づいたようだ。水場からバシャバシャと上がって武器を構えた。

 エクス達も木陰から飛び出して戦闘の体勢を取った。


 戦いが始まる。エクス達、空白の書の持ち主は様々な物語のヒーローの力を借りて戦うことが出来る。

 その能力で剣を振り、魔法を唱え、防御し、飛び道具を放つ。

 ザコのヴィランなど4人の敵では無かった。


「なんて強い奴らだ」

「ボスに報告だー」


 敗れた奴らはさっさと逃げ出していった。

 シェインはヴィランの気配の無くなった水場を指さして言った。


「では、姉御。サービスシーンをどうぞ」


 ガチコン。小気味のいい音がして、水場には頭にたんこぶを作ったシェインの体が浮かんでいた。

 タオはそこから目をそらすように言った。


「それはそうと先を急がないといけないな」

「そうね。ここのボスにもうわたし達の存在を知られたようだしね」

「ほら、シェイン。いつまでも浮かんでると置いていくよ」

「くっ、エクスさんにのろま扱いされるとは何という屈辱」


 というわけで先を急ぐことにした一行だった。

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