修学旅行の一夜
とが きみえ
生徒の部屋
十二畳の和室に布団が六組、隙間なく敷かれている。
時間は午前二時過ぎ、しんと静まり返った部屋の中はクラスメイトらの寝息しか聞こえてこない。
普段ならとっくに眠りについている時間だ。
なのに、いくら目を閉じても眠りにつくことができなくて、優斗は掛布団から目元だけを出すと、隣で横になっている慎二の背中をこっそりと盗み見た。
パジャマがわりに着ているTシャツ越しでもわかる、慎二の逞しい背中。
バスケット部で鍛えているだけあって、背中だけではなく肩や二の腕にバランスよくついた筋肉はまるで彫刻のように美しくて、同じ男である優斗でさえうっとりと見とれてしまいそうになる。
勉強以外はまるでダメで、引っ込み思案な優斗。
反対に慎二は入学当初から目立つ存在で、凄いなあと目で追っているうちに、いつしか優斗は慎二に特別な想いを抱くようになった。
(遠藤くん)
心の中で慎二のことをそっと呼んでみる。
眠れないのは隣に慎二が眠っているから、だけではない。
昼間、優斗は慎二から「好きだ」と告白されたのだ。あまりにも突然のことで、その時はただ頷くしかできなかった。
だけど今なら……。
規則正しく聞こえてくる呼吸が、慎二が今深い眠りについていることを教えてくれている。
優斗は慎二の掛け布団の端っこを少しだけ摘まんだ。
「遠藤くん……えっと、昼間は……ありがとう。僕も、あの……前から、好き……でした。嬉しかった、です」
掛け布団の端っこを摘まむ優斗の指先が微かに震えている。
慎二を前にしたら緊張して絶対に無理だけれど、眠っている今だから思っていることを素直に言えた。
それでも思いの丈を告げた優斗の心臓は驚くほどの勢いで早鐘を打っていて、優斗はそれを少しでも落ち着かせようとゆっくりと深呼吸すると、自分の布団の中へ頭まで潜り込んだ。
(い、言ってしまった……)
顔が熱い。絶対に真っ赤になっているはずだ。
今夜は朝まで眠れそうにないなあ、などと優斗が布団の中で丸くなっていると、突然、背後から抱きしめられた。
「………………!?」
「武田、ありがとう。すげぇ嬉しい」
聞き覚えのある声。
少し硬い髪が、優斗の頬をくすぐる。
「え……あ、遠藤くん?」
「驚かせてごめん。武田から好きって言ってくれて、嬉しくて我慢できなかった」
「すき……うれしいって……」
突然背後から抱きしめられたことで、一瞬、優斗の頭の中は真っ白になってしまった。
だが、すぐに我に返ると、今度は慎二から言われた言葉で頭の中が半ばパニック状態になる。
「あの……遠藤くん、もっ、もしかして……起きて、た?」
「うん。だって、好きなやつが隣で寝てるっていうのに、眠れるわけがないだろ」
「へっ? す、すっ、すき……っ!? えっ?」
「昼間、びっくりさせちゃったから、今夜は何もしないって決めてたのに。武田のせいだからな」
「――え?」
慎二の腕の中で身動きが取れず、固まってしまった優斗の頬に柔らかな感触があった。
「ひゃっ!」
「………………どうしよう。武田、かわいすぎ」
「遠藤くん、今、キ、キ……」
「うん。だって武田がかわいいから」
そう言うと、慎二は優斗の体をさらに強く抱きしめた。
(あ……遠藤くん、すごくドキドキしてる)
背中越しに伝わる慎二の心臓の動きは優斗のそれよりも早くて、緊張しているのが自分だけではないのだとわかると、優斗はなぜだか慎二のことがとても愛おしくなってしまった。
(――――ぼ、僕も……)
慎二の腕の中で、もぞもぞと優斗が体の向きを変える。
「武田?」
「僕も……ぎゅってしてもいい?」
「…………っ! た、武田っ」
優斗は慎二の体にきゅっと抱きつくと、そのまま胸元へ顔を埋めてゆっくりと目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます