寮
制服からジャージに着替え、荷物を整理して棚に並べる。もともとそんなに多くはなかったから、それほど時間はかからなかった。
ああ、カレンダーとかも貼らなきゃ。さすがに画鋲で穴をあけるのはよくないだろうしマスキングテープとかで貼ろうかな。何か可愛い柄のやつあったっけ。
今ちょうど切らしてて、枇々木くんからもらったヴィジュアル系バンドのロゴのやつしかなかった気がする。あれはあれでかっこいいから好きだけれど、この寮の雰囲気には合いそうにない。『PHENIX』のテーマとは正反対に見えるが、意外と枇々木くんはそういうのが好きらしい。音楽プレイヤーにもデスメタルとかがいっぱい入っている。
そういえば火蛹くんにもらった花柄のやつがあった。
火蛹くんは不思議ちゃんに見える――というか不思議ちゃんなのだけど、こういうセンスは結構まともだ。『PHENIX』の中では一番じゃないだろうか。ちなみに、七基くんは無地かやたらリアルな動物、仁科くんはいわゆるキモカワのをくれる。
うん、いい感じかな。
部屋をぐるりと見まわす。なかなかくつろげる空間になっただろう。
疲れたので床に寝転がる。
天井高いなここ。
開放感があって好きだ。
ぶら下がっているおしゃれな照明を見つめながら、私はなんとなく物思いに耽った。
明日から授業だ。
そういえば先生、特待生は一般生と時間割が違うって言ってたな。どんな風に違うんだろう。練習の量が多いとかかな。ざっくりしたものは先日配られたプリントに乗っていたのだけれど、細かい内容までは書かれていなかった。
といっても、私はプロデューサーだから厳しいレッスンは受けないだろう。やるにしても、衣装づくりとかイベント企画のスキルアップとかだ。ほかにあるとしても、練習の合間に差し入れを持っていくとかだろう。今までとさほど変わらない。
仕事は言うまでもなく多いけどね。
まあ、授業のことはいいとして。
明日は多分、授業後『サンライザー』と、さっき決まった5月のイベントの話をすると思う。それが決まらないことには『サンライザー』も練習できないし、とにかくイベントまで時間がない。何より初日は5月のイベントの打ち合わせ、というのがプロデュース科での常識だ。
どんなのがいいだろう。『春フェス』以来最初のイベントであり、『サンライザー』の復活が知れ渡る機会になるから、今までの『サンライザー』の定番のようなものをやるのがいいかもしれない。となると、ヒーローショーだろうか。それならば衣装を改めて作る必要はなさそうだ。
『サンライザー』の基本的な衣装は革っぽい素材のかっこいいツナギだ。赤昏先輩は赤、三和先輩は青、黄瀬くんは黄色のものをそれぞれ着ている。これは先代の『サンライザー』の衣装に少しアレンジを加えたものだ。
イベントはこの衣装でいける。『サンライザー』の伝統を受け継ぎ、且つ自分たちの『サンライザー』を創っていく、というメッセージにもなるから。
こういうことができるのは、引継ぎ型のユニットの特権だろう。
それに、ヒーローものはそんなにバリエーションがない。新しいものを作りすぎるのは後代のためによくない。
…せっかくの休みなのに、仕事のことしか考えてないな。
実は仕事人間なのかもしれない、私。
漫画読もう、漫画。
私は頭を切り替えると、ごろごろ転がって本棚までたどり着いた。
触り心地のいい絨毯のおかげで体は痛くない。
他人様には絶対に見せられない姿だが。
まあ、今日はこれくらい緩んでいてもいいだろう。
明日からは多分、仕事の溢れかえる日々になるのだから。
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