止まっていた時間 4

雲が動いた。

空気が動いた。

だれもが動いた。


はるか遠くで、真っ赤な何かがこちらに近づいてくるのがわかる。

俺はそこを凝視したまま背中の剣を抜いた。

次々に聞こえてくる抜剣の音が気持ちを徐々に焦らせていった。


「みんな、準備はいいな!カウントダウンを始めるぞ。陣形を作れ!」


その一言により、今までまっすぐに並んでいた列がバラバラに崩れ一瞬で陣形へと並びなおす。

後ろに並んだ魂法使い、

その前に並ぶ剣士軍団、

さらにその前で魂法発動準備をしている盾使いがハバネロを迎え撃とうとしていた。


だんだんと大きくなっていく真っ赤ななにかは徐々にその形を明らかにしていく。

赤く輝くウロコに長い首、絶大な圧迫感を与える大きな翼、あれは間違いなくハバネイロドラゴン、

略してハバネロ・・・。


「カウントダウン・・・5・4・3・2・・!」


団長が最後までカウントし終わる寸前、ハバネロ谷を巨大な暗闇が包み込んだ。

一瞬にして真っ暗になった視界がだんだんと見え始めていく。

やっと目が慣れてきたようだ。

気が付けば斜め後ろにいるイブが俺の左手を握っていた。


「おいおい、イブ。絶対大丈夫だから安心してくれ」


返事は小さなうなずき一つ。

俺はそれを確認すると現実を見極めるべく顔を前に向かせた。

すると、全身をすさまじい突風がつかみ取る。


俺は左手でイブの手を握りなおし、何とか突風に耐えた。

遥か先ではまさしく今、地面に着地したハバネロがその大きすぎる翼を羽ばたかせている。


「グゥグォォォ!」


長い首を伸ばして吠えた様子にだれもが一歩退いた。

今自分が立っているのが信じられないほどに迫力がある。


次の瞬間めのまえの盾使いたちが一斉に魂法を発動させた。

そして襲い掛かる熱風。

どうやらハバネロから何かが発射されたらしい。


背後を見てみると次々に魂法を発動させて盾使いたちをフォローしている。

そして、目の前で燃え盛っていた炎が消滅した。


「行くぞ!」


右側から聞こえてきた声に俺は地面をける。

並走するイブをちらりと見てみればしっかりと両手の剣に魂法を発動させていた。

俺はいつも通り誰の目にも止まらない速さで走っているつもりなのだが周りがみんな早いせいかほとんど進んでいないように感じられる。俺は観買うだけを頼りに空高く飛びあかった。


下のほうはハバネロから放出された煙で前が見えなかったが上空は暗闇が続いているだけでしっかりと前を確認することができる。

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