止まっていた時間 1c

[お前は一体なにがしたい。この世界に来てたくさんのものを失ってきたんじゃないのか?

この世界に来て失う怖さを思い知ったんじゃないのか?

なのになぜ・・・もう一度なにかを守ろうとする。二度と何かを背負わずに今回もすべてをすてて逃げてしまえばもうこれ以上なにかを失うこともなにかで悲しむこともないんだぞ!」


高速で剣をぶつけてきながら俺に問いかけてきたブレッドの目は光を強く発して何かを忠告してくるようだった。


「そんなの知ったこっちゃない。

もう失いたくない。

それは確かに事実だ。でもな、俺が大好きになった人間がまた悲しむ可能性のあるこの時間軸はなにがあっても粉砕しなきゃいけないんだ!」


激しく剣がぶつかり合う中、互いの魂法がどんどん光を増していく。


[そんな考えがあるなら仕方ないな。ただ、ハバネロをたおしてもこの世界が正しい方向に進みだすとは限らないんだぞ。それでも、お前は後悔しないか」


一瞬剣を止めたブレッド。それにつられて俺も剣を下げた。


「あぁ、俺は彼女を守る。たとえ何があろうと彼女がつらい思いをすることだけは許せない」


喉から搾り出た声はひどくかすれきっていて自分のものとは思えないほどに低い声だった。

それを奴がどう受け取ったのかはわからないが一瞬光の口元をにやっとゆがめさらに光を強くした。


[なるほど。今の段階ではお前は俺よりもずっと弱い。さっきから斬撃が分裂する特殊攻撃を打っておきながら俺に一撃もあてることができていないなんて言うのは論外だしな]


俺は思わず苦笑いを漏らし右手の剣を鞘へと収めた。なんとなくこいつは俺のことをもう攻撃しないような気がしたのだ。


「そいつは悪かったな」

[別にいいさ。これから強くなればいいだけの話だしな。

俺はもうただの幽霊・・・正確に言えば魂の塊でしかない。

この服も、剣もみんな魂のイメージから作られたものだ」


あんまり難しいことを突然に言われたので思わずわかっているかのように首をあてに振る。


「それで、お前は何が言いたい」

「つまり、俺がお前の体の中に入り込む・・・というより俺がお前の体の中に戻るということだ。そうすることによって俺の体にしみ込んだありとあらゆる感覚がお前の体に流れ込むことになるからな。俺の持つ記憶や感情は本来お前が持っているものだ。思い出すきっかけが見つかればお前もすべてがわかる日も来るだろう]


奴は意味深なことを言い張ると唐突に俺に対して握手を求めてくる。

俺は一瞬相手の顔をうかがうも出された右手をそっと握った。


「なにが起こる・・んだ!」


最後まで言葉を言い終わったとき、俺の体には無数のリボンが絡みついていた。というより入り込んでいた。

気が付けば目の前にいたはずの男は紫色の光へと変化しもはや原型をとどめていない。


[お前が成し遂げたいことは正しいこととは限らない。だが、それでも・・・俺の相棒と俺の願いをかな

えてくれ]


すべてのリボンが入り込む寸前。頭の中ではそんなプレッシャーのかかる言葉が反響していた。


「いったい・・・なにがあったんだ」


思わずつぶやいた俺は右手を開いて閉じてを繰り返した後、自分の思考を整理するために石の床へと両足を伸ばして座った。

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