止まっていた時間 -2

 全身を貫く視線に俺は耳を研ぎ澄ませた。


「おいおい、あれって、もしかしてこのあいだ洞窟を粉砕したというインパクターじゃないか」


俺は誇らしげに胸を張った。

イブの肘が俺のわき腹をどつく。


「ブレッド、あのねぇ、確かに有名になったけど、相手もみんな有名人なんだから」

「そうだぞォ」「そうだね」


二方から飛んできた声に俺は両肩をがっくりと落とす。


「わかってるよ、それくらい」


「それで、入団許可書はあるのかね」


目の前で机を挟んで書類を握る爺さんにフィルは3つの紙をその老人に渡した。

高い天井に床一面張り巡らされた純白の大理石。その上をぶ厚いよろいを全身に着込んだ盾使いや、俺のように背中に剣をつるした剣士。

さらにはパルムのような魂法使いが笑いながら歩いていく。

俺は周りの服装を見ながら自分のレザーコートを見た。


「なんか俺の服って汚くないか」

「今頃気が付いたかァ」


横からあわれむ声が聞こえる。


「えっ、それ好んできてたんじゃないの?」


一瞬唾をのむ俺。


よく考えたらお金がないわけじゃないんだしくら服くらい買えたじゃないか。


「ご安心を、あなたにはハバネロ討伐団制服を着てもらいますので」


どこからか聞こえた女性の声に俺は一瞬ひ汗がわく。


「おっ、おい!おまえだれだよ!」

「ブレッド、気が付いてなかったのかァ?さっきからずっとそこにいたじゃねぇかァ」


久しぶりに場の空気を「沈黙」という二文字が包み込んだ。


「自己紹介が遅れて大変申し訳ございません。わたくしはみなさんにお使いするメイドでございます。ハバネロ討伐まであと1週間精一杯お世話させてもらおうと思います」

「おっ、おう」


人とまず会釈を入れておく。

もとおかねもちだけあってかイブだけは平然としているようだ。


「それでは、お部屋へと案内いたしますのでついてきてくださいませ」


さすがは神都ということもあり、このホテルは全部で12階建てという

だいぶハイスペックなホテルだ。

廊下一面に惹かれた大理石が無駄に高級感を引き出している。

5メートル間隔でぶら下げられたシャンデリアが純白の壁と大理石をオレンジ色に反射させる。


「ここでございます」


メイドが止まったのは「602」と書かれた部屋の前。メイドはそこのへやのドアノブを引くと身をずらして先に中に通してくれた。


「明日はすでに入団している方々と練習試合がありますので今日はできるだけながく寝ておいてください」


「えっ!」


思わず飛び出た声が無限に続くとさえ思える部屋に反響した。


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