日が沈んだ世界 19

 「全員揃いましたか?」


マナの声が星の光る町に響き渡った。今日は俺たちの初レイド型依頼の日、そして、マナの初依頼のひだ。討伐対象はロストチャイルドというモンスターで、意味は群れからはぐれてしまったという意味らしい。


「作戦会議で話した通り、ここら辺一帯のミノタウロスの中でも最強クラスです。無事に戻ってくることを約束しましょう」

「ウォー!」


噴水を揺らす大声。俺も空高くこぶしを突き上げた。

と、そのとき、俺の体軽く浮いた。どうやら

フィルが俺にぶつかってきたらしい。


「おい、フィル。お前ただでさえでかいのに

ぶつかるな!」

「おっ?すまんすまん。用がなしにぶつかったわけじゃないんだァ。ただこのレイドの奴ら、ほとんど木の武器しかもって異なけど大丈夫なのか?と、思ってな」


そのことに対しては俺も同感とうなずく。


「まぁ、仕方ないんじゃない?この辺の剣士はみんな強くないしね」


あっさりとひどいことを言うパルム。


「そんなこと言わないの」


マナから当然の突っ込みが飛んだ。


「それではみなさん。出発しましょう」


いつの間にか先頭へと移動していたマナはどこで身に着けたのかリーダーシップを発揮。

それに続いてたくさんの剣士たちがバラバラと前進し始めた。


「それじゃ、俺たちも行きますかァ」


フィルの一言に俺たちも前進し始める。

それから数分後、俺は息を切らして膝に手を置いていた。


「っつうかお前ら、いい加減戦えよ!」


これまで出現したモンスターの数はざっと三十体。それすべてを俺一人で倒してきたのだ。


「いやぁ~。どうせ、インパクターさんなら一人でたおせちゃうんだようなぁ~、なんて思ったから、ハァハァハァ!」


知らないところから聞こえてきた知らない声。

俺はとっさにこぶしを握る。


「それでも、働きやがれ!」


怒鳴り声が草原全体を揺らした。


 暗闇の中、視界に入ってきたのは真っ赤な二つの目。


「おいおい、なんかあれ、やたらと高い位置にないかァ」


こいつは馬鹿か!あれは間違いなく人のものではない。一体なんだまたモンスターだろうか。しかし、それにしてはあまりに大きすぎはしないか・・・・。


「グゥァー」


脳裏で何かがはじけ飛ぶのがわかった。本能が騒ぐ。逃げろ、そう訴えてくる。しかし、俺は奥歯を噛んでよわよわしい衝動を無理やり抑えつけた。


「前衛、盾部隊前進しろ!」


背中に腕を運んだと同時に声が飛び出る。

遅れて並んだ盾兵は飛んできた奴の剣を受け止めた。舞い散る火花。そして、並ぶ盾の一角に徐々にめり込んでく右手の剣。今更ながらに気が付いたがどうやらあいつが持っている剣は二本あるらしく左手の剣が月明かりに照らされて鈍く光り始めていた。とっさに動いた足に合わせて、俺は全力で盾兵の前へと移動する。衝撃・・・。何とか横腹に飛んできた奴の二げきめを俺が守り切ることで盾兵は後退することができたようだが・・・・。

即座に落ちてくる三げきめ。俺はそれを髪の毛一本分の薄さでさばいた。この状態で今、何とかできるのは、レイドメンバーで唯一魂法使いのパルムと奴に唯一近づくことのできる俺だけ、つまり、この勝負は俺とパルムの二人だけの戦闘になるということだ。それが分かったとき俺は後ろから飛んできた大量の光線に気が付いた。すさまじい突風を巻き起こしながら突っ込んでいくそれらはロストチャイルドのいたるところから黒煙を出させる。


「グァ!」


咆哮。そして真横から風を切る奴の剣。俺はそれを空中にジャンプしてなんとかかわす。

そして次も来るであろう衝撃に魂法剣技を

発動させた。怪しく光る刀身を不規則な光のなみが包み込む。俺はそれを目の前まで迫って胸元につきこんだ。瞬間的に引き抜く。手首に伝わった手ごたえは相当によかったはずなのだが、あまり聞いていない。と、次の瞬間、眼前まで奴の剣が迫っていた。とっさに剣で防御するも明らかな速度で吹き飛ばされる。

俺は無様に穴を作った。何とか起き上がるも

全身のしびれが抜けない。

俺は歪んだ視界のまま暴れ来るうロストチャイルドを眺めた。

突撃する連中も入ればおびえて小さくなる連中もいるが突っ込んだ瞬間に吹き飛ばされていく哀れな姿にされもが繊維をなくしていっている。俺は迷った・・・・このままでは仲間が、いつかは全滅してしまう。それは・・・それだけは・・・


「絶対に嫌だ!」


とにかく走った。そして、ロストチャイルドの眼前に躍り出た俺。一瞬だがその真っ赤なまなざしが俺に向けられた。震えだつ足を抑え「セァー!」といういつも雄たけびを振りまく。振った剣は奴の腹を深く裂き、尋常じゃない黒煙で俺の視界をきょくげんまで狭くする。この黒煙の中、眼球からの情報は使い物にならない。ならば、聴覚に頼るだけだ。

研ぎ澄ませ。きっとできる。お前になら。

なんの根拠もない思い込み、しかし、今だけは音だけで世界が見えるかのようだった。そろそろやつが振り上げた剣が落ちてくる。それまであと二秒くらいだろう。俺はカウントした。


「一、二!」


たった二回のカウントを終えた俺は右側に思いっきりさばいた。「ゴォ~ン」・・・


耳に入る轟音。どうやら予想通り剣は地面をたたいたらしい。大きくさばいたおかげで俺は黒煙を脱することができた。そして、いつものにやけを漏らす。俺は地面をけった。舞い上がる土を無視し全力で接近した。そして、剣を振るう。もうとっくになくなってしまった魂法剣技を復活させて・・・。脳内で光がはじけた。一撃一撃敵に打ち込むたび、起こるスパークは快くすらあった。加速する四足に加速していく思考。まるで時が止まっているようだった。ゆっくりと接近する(ように見える)剣を俺は的確にさばき、見事なタイミングで自分の一手を加える。俺の周りを黒煙が再び包み込む。しかし、今回のこれは俺にピンチをもたらすものではなかった。耳に届いた「ドサ」という短い音は俺の気持ちを高まらせていく。そして、遅れて思った、俺は勝ったのだ・・・と。うれしさのあまり、

俺は「やったぞ!」などと間抜けなことを叫びながら後ろを向いた。たくさんの歓声に包まれるという未来を予想して・・・・。しかし、残念ながら俺の未来余地は大きく外れることになった。


「あぁあぁ~。俺の・・・・俺のペンダントがぁ」


祖先はそう叫びながら大泣きする誰かに注がれている。それだけならまだよかった。次の瞬間、俺の拳は強く硬く握られるようになる。


「おい!、あんたのせいだ!あんたが・・・あんたが新人ものなのに調子に乗って、リーダーなんかになるからだ!」


マナに向けられたその言葉は彼女にとって心に突き刺さるものだったようでずっと下を向いたまま何かをつぶやいている。


次の瞬間、俺の視界に火花がはじけた。男がマナを殴ったのだ。そっと殴られた頬に手を置くマナ。その瞳は一切の光を反射させていなかった。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


俺の耳に入ってくるマナの声はいたいたしいほどに震えていた。そして、男が腕を振り上げる。また殴る気なのだろう。俺は走った。しかし、、間に合わなかった。彼女にぶつかった拳は彼女を吹き飛ばす。地面に転がるマナ。今度は男の足が抱え込まれる。まずい・・・

何とかして止めなくちゃ。しかし、じょじょに出されていくけりはさいごまでのび切ることはなかった。俺よりも先に走ったフィルがその男を盾で吹き飛ばしたからだ。


「楽しいかァ?弱り切ったこの子を、お前の勝手な思いでいじめて・・・・楽しいかァ」


フィルはそれだけ言って後ろでぐったりと横になるマナを抱きかかえた。


「いくぞォ」


フィルの一言に俺たちもつづく。気持ちの悪い空気が俺の全身を振動させた。

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