密猟する孤児融合体達は幸せな夢を見るか

第145話 密猟する孤児融合体達は幸せな夢を見るか その1

 とあるアパートの一室。そこが異世界融合生物犯罪組織、パルマが今本拠地として使っている場所だ。10名いた仲間も今ではその数を半分に減らしている。

 残ったメンバーの内、リーダーのカルフが今後の方針に頭を悩ませているところで玄関のドアが景気よく開いた。


「兄貴! いい話を持ってきたぜ!」

「おい、ご近所迷惑になるだろ! 静かにしろ!」

「あ、はい。すみません」


 元気な声で入ってきたのはパルマの副リーダーのセキン。基本的に、彼が新しい仕事を取ってくる担当となっている。セキンは部屋の中でダラーっと過ごしている他のメンバーに向かって、1枚の紙を差し出した。

 それを受け取ったメンバーのゼーラが首をひねる。


「何だい、これ?」

「儲け話に決まってんだろ! 魚を獲って売りさばくんだよ!」

「俺達に出来るのか?」


 話を聞いたカルフが身を乗り出す。確かに高級魚を大量に捕獲出来たなら大儲けする事も不可能ではない。ただし、それを売りさばくルートがなければ話はスムーズには進まない。そうでなくても、異世界から来た異世界生物融合体はこちらの世界の仕組みについては疎いのだ。

 悩み多きリーダーのその声に、セキンは誇らしげに胸を張る。


「大丈夫、その他諸々の事にはもう話が付いてるんだ」

「藤原さん経由の話か」

「ああ、あの人の話なら間違いはないだろ?」


 藤原さんとは、パルマがこちらの世界で仕事をするようになってから知り合った非合法な組織の1人だ。この人の世話になる事で今パルマは何とか生活をしていると言える。

 話の出どころが分かったところで、リーダはようやく安堵の表情を見せた。


「よし、じゃあその話に乗るか! みんな、行くぞ!」

「「「おーっ!」」」


 こうして、パルマのメンバーは全員漁に出る事となったのだった。とは言え、パルマのメンバーは全員漁に関しては未経験。一度海に出たからと言って確実な成果が得られるとは限らないだろう。ただ、そこは超人的な能力のある異世界生物融合体。その人間離れした能力を駆使すれば、意外といい成果も得られるのかも知れない。

 5人のメンバーはそれぞれ大金持ちになった時の自分をイメージしながら、待ち合わせの場所である港へと向かったのだった。



 パルマのメンバーが漁で一攫千金を狙っていたその頃、シュウト達は3学期の期末テストの結果が戻ってきていた。仕事仲間でもある3人はそれぞれの答案用紙をかばんに入れて、いつもの図書室のいつもの場所で雑談をする。

 雑談のネタが途切れたところで、由香が目をキラキラと輝かせた。


「ところでさ、みんなもテスト戻ってきてるよね?」

「おっ? 誰が一番かってやつ?」

「いや、別にいいじゃん。それぞれが頑張ってるって事でさ」


 テスト結果に自信のある勇一が乗り気なのに対して、シュウトは面倒臭そうな顔をして話題自体を終わらせようとする。その態度を見た由香はニンマリと口角を上げた。


「見せ合いっこしよ! 拒否は禁止!」

「いいぜ」

「やめようよ、そんなの」

「陣内君も参加! 多数決で決まりね!」


 こうして強引に話は決まり、3人はそれぞれの結果を発表する事に。1人クラスの違う勇一がいたので、全教科の発表は出来ず、戻ってきた教科だけの比べ合いになる。


「私ね、国語が98点に数学が66点に英語が94点!」

「じゃあ次俺ね、俺は国語88点に数学90点に英語88点!」

「俺は……国語78点に数学80点に英語76点……」


 文系の由香は国語と英語の点数が高く、いい高校に進学しようとしている勇一はその言葉の通りの結果を見せ、シュウトはとにかく全教科が平均的だった。

 それぞれの結果を知って、点数まで性格を反映しているとみんなで笑い合う。


「陣内君すごい! 全部点数が同じくらいじゃない!」

「いや、別にそんなの……それより勇一だよ、本当に頭がいいんだな」

「まぁ俺は頑張ってるからな。って言うか流石は由香ちゃん。国語と英語は負けたわ~」


 3人共クラスの平均点以上の結果は出せているので、まだ今の時期で成績で悩むほどのものではない。けれど、それぞれが自分の予想よりは悪い点ではあったらしく、全員の点数のお披露目の後は少し場が暗い雰囲気になってしまう。精神的なダメージは傷の舐め合いで緩和する事もなく、3人はそれぞれのタイミングで溜息を吐き出すのだった。

 落ち込んだ雰囲気の中、この空気を変えようとシュウトが動く。

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