第136話 インチキ教祖に忍術でお仕置きを その7

 飲み込みの早い異世界生物達はすぐにニンジャマスターレベルの熟練レベルに達し、今回の作戦では使わない他の術まで極めてしまっていくのだった。



 そうしてその週の週末、いよいよ裏でユードルが暗躍するエセ宗教の客寄せ一大イベントの当日となる。イベント会場は地元の多目的ホールを貸し切って行われるため、3人はまずその場所に現地集合で集まった。

 全員が集まったところで、緊張したシュウトがホールを見上げながらぽつりとつぶやく。


「ついにこの日が来てしまった」


「じゃあ、行こうか」


 逆にやる気満々の由香は目をランランと輝かせていた。この作戦は隠密作戦が肝なので、事前に決めた作戦通りに集まったところですぐに人格を入れ替える。3人は同時にうなずき合うと声を揃えた。


「「「シンクロッ!」」」


 入れ替わった3人は偽装パスを首にかけてスタッフの体で会場に乗り込んだ。そうしてちょっと使えない新人を装って施設での人の流れを探っていく。どこで誰が何をするかの情報をそこで集め、効率よくお目当ての悪の組織を一網打尽にするのだ。

 元ランランの3人はこう言った危険な仕事を現役時代に何度もこなしているため、全く緊張する事なく平常心で淡々と作戦をこなしていた。


 その頃、余裕をぶっこいているユードルのメンバーは、集まってくる信者達を会場を映すモニターで確認して笑いが止められない。


「ぐへへ、今日も金蔓かねづるがいっぱいだああ」


「その態度、決してステージでは出すなよ」


「分かってるぜ兄貴」


 このインチキ教団、リーダーが教祖で残り2人が彼をサポートする副教祖と言う体になっている。イベントは順調に進み、教団の歩みや今後の展開についての映像が流れ終わると、暗かった会場が段々と明るくなっていった。

 そうして会場の信者達がざわつく中、イベントの司会者が原稿を読む。


「えー、では今から宗主様がお見えになられます。どうか盛大な拍手を」


 この司会のアナウンスで会場に集まった千人規模の信者のみなさんが一斉に盛大な拍手をする。会場にその音が響き渡る中、作業からこっそりと抜け出したユーイチ達はユードルメンバーを目視で確認するために会場に向かっていた。

 3人がドアを開けて中に入ったのは、ちょうど宗主様からの有り難い講話が始まりを告げたところだった。


 舞台上にいたのは荘厳さを感じさせるようなキラキラ衣装を着たユードルのメンバー達。彼らは大勢集まった信者達を前にして、偉そうにそれっぽい意識高い系の心のこもっていない演説を続けている。本人達が思ってもいない言葉を喋っているんだから、その言葉が心に響かないのも当然だ。

 3人は確保対象の悪党3人組の姿を目に焼き付けながら、この演説の感想を述べ合う。


「すごい衣装だな」


「彼奴等、何か偉そうな事言ってる」


「でもみんなどこかで聞いた事があるような……?」


 最初から正体を知っている事もあって、彼らの訴える愛だとか平和だとか誠実さだとかの内容がそれ系の本からの丸パクリにしか聞こえない。多分その感覚は正常なものなのだろう。

 演説の内容に疑問を抱くミヤコに、ユーイチが相槌を打った。


「最初からインチキだから台本があるんじゃないかな」


「何かムカつくね、今から殴りに行っていい?」


 確保対象が目の前にいるこの状況にユウキが気をはやらせる。今すぐにでも実行に移そうとウズウズしている彼女の肩を、元リーダーはやんわりと押さえた。


「いや、止めてくれ。動くのは今じゃない」


「分かってる。暴走はしないよ。それにここで心を乱したらステルスが解けてしまうし」


 3人は偽装スタッフとして会場の様子を大体把握した後、そのまま気配を消して行動していたのだ。風も認めるほどの精度な事もあって、会場にいる誰も演説中に入ってきた3人に気付いていない。当然、舞台上のコスプレ3人組にもユーイチ達の存在は見えていないのだ。この気配を消す技は術者の心の動きが乱れると途端に解けてしまうので、実行中は常に平常心が求められる。


 毒にも薬にもならない、似たような意味の言葉を繰り返し繰り返し喋る続けるだけの中身のない演説を聞き続けて、痺れを切らしたミヤコが限界を訴えた。


「聞き続けていると苦痛を感じますう~」


「もう少しの辛坊だ」


 ユーイチが彼女をなだめる中、ムカつく気持ちを中和するために客席の方に意識を向けていたユウキは、その様子に軽い戦慄を覚える。


「それにしても本当、信者って怖いね。こんな言葉を素直に信じて。あ、あそこの人なんて涙まで流してる」


「私達のこの術も基本はその信じる力の応用だぞ」


「本当、人間って面白いよね」


 異世界生物達の元いた世界にも宗教はあって、似たような光景は彼らも目にした事はあったものの、心のこもっていない嘘の演説は彼らには通じない。こちらの世界よりもみんな直感力が優れているからだ。

 そう言う感覚の持ち主から見て、嘘でも簡単に騙されてしまうこの世界の人間達が憐れにも映っていた。


 演説は3人が代わる代わる代わり映えのない内容を喋り続け、イベント開始から約2時間後、ようやく講演は終了する。さんざん喋り倒した3人は、荘厳な音楽と共にしずしずと舞台から捌けていった。


「あ、帰ってく……」


「よし、作戦第2段階に移行だ!」


 ユーイチ達は奴らが舞台からいなくなったのを確認して気配を消したまま最終作戦を決行する。こっそりと会場を抜けると、ユードルメンバーが休む控室に向かって走り出した。


 自分達を確保する組織が動いている事も知らず、油断しきっている悪党共は今日一番の仕事を無事演じ終え、控室で休憩していた。


「ふ~。喋った喋った」


「これで今月は安泰だな」


 副教祖と言う体のマーヴォとレンジが、そう言いながら冷蔵庫から取り出した冷えた缶ビールで乾杯。今日の会場の様子から、今後の展望を調子良く喋り始める。


「あの様子だとグッズを増やしても買ってくれそうだぜ」


「業者に増産頼んどくか」


 この宗教活動もただのビジネスでしかないため、3人が口を開けると出てくるのはどうやって信者から搾り取るのかの算段ばかり。その後も信者にはとても聞かせられないような内容の会話は続き、控室はゲスな笑い声が響き合う。


「なるほど、悪意しかないなここは」


「だ、誰だ!」


 声はするのに姿が見えないその状況に、悪党3人組の間に動揺が走る。ユーイチ達は、ゲスな笑い声が聞こえ始めた頃には控室に入り込んでいたのだ。このまま暗殺者のように有無を言わせずに悪党共を仕留めても良かったものの、一応礼儀としてここで律儀に術を解いて姿を現した。

 急に出現した3人に驚いて声も出せないユードルメンバーに、ユーイチはにっこり笑って爽やかに挨拶をする。

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