弱小犯罪組織の終焉

ドルドル団最後のお仕事

第124話 ドルドル団最後のお仕事 その1

 クリスマスも何事もなく過ぎて、年末はそのまま何事もなく日程を消化していった。そうして大晦日も無事に終了し、新しい年がやってくる。

 シュウトは年末に一緒に初詣に行こうとみんなで約束したので、待ち合わせ場所の近所の神社に向かっていた。


 時間は午前8時。まだ朝も早いと言うのに元旦の神社は参拝客で賑わっている。彼が神社の鳥居の前で待っていると、程なく残りの2人もやって来た。元旦の挨拶のお約束の定型文を3人はペコリと頭を下げながら口にする。


「あけましておめでとうございま~す」

「おめでとうございま~す」

「おめでとさん」


 境内には着物姿のおねーさんもいたりするけど、由香は普通の冬のコート姿だ。ふかふかのマフラーと手袋で暖かそうにしている。シュウト、勇一の男子組は無難にダウンジャケット着込んでいた。量産店で売出し中のお馴染みのやつだ。暖かいからデザインが被ってもそれに文句は言わない。まだオシャレを気にする年齢でもないし。


 お互いに挨拶を済ませて、早速3人はそのまま初詣へと向かう。地元の神社は人手はそれなりだったものの、混雑すると言うほどの混み具合ではない。なのではぐれる事もなく、スムーズに参拝の手順を辿る事が出来た。

 両手と口を清めた後、石段を登りながらシュウトは話しかける。


「まさか3人で初詣をする事になるとはねぇ~」


「今年はいい年にしようぜ」


 彼の呼びかけに勇一がサムズアップで答える。その様子を横目で眺めながら由香がポツリとつぶやいた。


「これで全員が揃えばもっと良かったんだけど」


「全員って剣とかアリスとか?」


「うん」


 勇一の問いかけに彼女はこくりとうなずいた。独自の行動をしている元ランラン融合体の2人とは未だに連絡が取れていない。ただ、人間の方の成績や出席日数の件もあって、新学期には学校に出てくるのではないかと思われた。

 淋しそうな顔を見せる由香を見たシュウトは、少しでも元気付けようと明るく振る舞う。


「風は呼んでも来てくれなさそう」


「その代わり、いつも物陰に潜んでそう」


「この神社にも来てたりして」


 彼の冗談に由香が付き合い、その流れで勇一がオチを口にする。その後、3人はお互いに笑いあった。石段を登りきってそのまま本殿に着いた一行は、人の流れに合わせて自分達の順番が来たところでお賽銭を入れ、それぞれの願いを神様にお祈りする。


 青春ドラマとかならここでお互いに何を願ったのか聞く流れになるのだけれど、3人は何となく空気を読み合って、その質問は誰の口からも出なかった。

 参拝が終わった後、すぐに帰ろうとしていた男子2人組を紅一点が明るい声で呼び止める。


「ねぇ、おみくじひこうよ!」


「いいね!」


 勇一が乗り気だったのでそのままシュウトも付き合う事になった。この神社のおみくじは屋台とかの三角くじのように、箱の中に手を入れて自分で選ぶタイプ。なので自動販売機タイプと違って、自分で掴み取った運勢感がかなり高い。

 サクッと選び取った男子2人組はすぐにその結果を確認した。まずはシュウトが自分の運勢を申告する。


「中吉だった」


「何だよ普通だなぁ。俺なんて末吉だぜ?」


 運の良さから言えば中吉の方が運勢がいいのに、何故か末吉の勇一の方が威張っている。多分、運の善し悪しよりよりレアな方がかっこいいとか思っているんだろう。そこら辺は中学男子。かっこいい方が得意げになるのだ。

 そんなよく分からない勝負をしている隣では、入念に自分の運勢を掴み取ったはずの由香が顔を青ざめさせていた。


「えぇと……私、凶だったんだけど……なんで?」


 この結果を知って、すぐに勇一が目を輝かせて覗き込む。


「うわ、凶とか初めて見た」


「凹むわ~」


 おみくじをちょっと面白いイベント程度に考えている勇一は終始軽いノリなものの、悪い運勢を引いてしまった由香の事を考えたシュウトはうかつに言葉をかけられないでいた。何とか元気付けなくちゃと焦った彼は、参拝客がおみくじを木の枝とかに結びつけている光景を目にして、あるジンクスを思い出す。


「ほ、ほら、凶のおみくじは利き手と違う手で結べば運勢が逆転するって言うし、さっさと結んじゃおう」


「そうなの?やるやる!」


 シュウトの言葉を聞いた由香は表情を明るくさせる。すぐにおみくじを結びに行く彼女について言った男子2人組も、見よう見まねでおみくじを枝に結びつけた。

 全員がおみくじを結び終えて手持ち無沙汰になった瞬間、参道を気まぐれな風が吹き抜ける。寒がりな由香がこの風に小さな悲鳴を上げた。


「うわっ、寒っ!」


「取り敢えず、どっか開いてるお店に行こっか」


 勇一の呼びかけに3人はそそくさと神社を後にした。元旦に空いているお店で落ち着いて休めそうなところと言うその条件を探した一行は、無難に地元のショッピングモールに辿り着く。大型商業施設で元旦セールを開催している事もあって、その混雑ぶりは神社の比ではない。この人の多さに由香は思わず口を開く。


「結構賑わってるね」


「お正月だからかなぁ~」


 シュウトがそんな当たり障りのない返事を返して、3人はここでも人の流れに沿ってモール内をうろついていた。しばらくウィンドウショッピングを楽しんでいたところ、フードコートにあったあるメーニューに由香の目が釘付けになる。


「あ、年明けうどんだって。食べる?」


「んまぁ、いいんじゃない?」


「あったまりそうじゃん」


 こうして全員の意見が一致したと言う事で、まずはこの年明けうどんを食べる流れに。うどん待機列も結構長かったものの、そこは流石セルフサービス、流れ作業で割と早めにうどんを注文する事が出来た。

 何とか空いている席を探し出した3人は、早速注文したうどんを口にする。


「うんまうんま」


「こう言うの、縁起物って感じがするね」


 由香が夢中ですすっている横で、シュウトはうどんについての感想を口にした。まるでうどんを特別視しているようなその態度に、勇一がすかさずツッコミを入れる。


「おま、さては香川県民だな?」


「別にそこまでうどん好きでもないわ」


 それから男子2人も黙ってうどんを食べていると、ひと足先に落ち着いた由香がごくりと汁を一口飲んで話を切り出した。


「そう言えばさー」


「うん?」


 突然話しかけられて、シュウトは思わず彼女の顔を見る。


「最近あいつら静かだよね」


「え?」


 そのあいつらと言う言葉にピンと来なかった彼は、思わず素で聞き返していた。その隣で同じ言葉を聞いていた勇一は、すぐに察しがついたようだ。


「お正月休みなんじゃないの?」


「あいつらって?」


 この話の流れになってもまだ全然ピンと来なかったシュウトは思わず友達の顔を見つめる。勇一はそのあまりの鈍感さに目を丸くした。


「お前マジで言ってんの?仕事のアレに決まってるだろ」


「ああーっ!最近電話がないからすっかり忘れてた!」


 話が具体的になって、やっとシュウトも由香の言葉の意味に気付く。12月は結局上旬に一回仕事の依頼があっただけで終わってしまった。そのために仕事についての意識がかなり低くなっていたのだ。

 ずっと仕事から遠ざかっていた事と、今がお正月と言う事もあって、彼は軽い願望を口にする。


「折角だから後3日はこのままでいて欲しい」


「確かに」


 シュウトのその望みに勇一も秒で同意した。

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