第123話 巨大過ぎる組織とクリスマスパーティ その5
「2人が弱すぎるんだよ、ハンデいる?」
ゲームを初めて3時間ちょい、ずっとゲームに集中していたシュウトは彼女のこの言葉に白旗を上げる。
「いやまずはちょっと休ませて……」
そうして時間の方を確認した勇一がポツリとつぶやいた。
「あ、もうこんな時間だ」
「そろそろ終わる?」
いくらクリスマスパーティーと言ったってやっぱり全員まだ中学生、あんまり遅くまで騒ぐ訳にも行かない。冬は日が落ちるのも早いし、真っ暗な中、女子を1人で帰らせる訳にも行かないと言う事で、シュウトもパーティーの終わりを意識した。
そろそろお開きと言う雰囲気が高まってきたところで、またしても由香の目が輝き始める。
「じゃあ最後にアレやって終わろう」
「アレ?」
意味ありげなその発言にシュウトは首をかしげる。その無神経な態度に彼女は思わず声を荒げた。
「鈍いなぁ。プレゼント交換だよっ!」
「「ああ~っ」」
催促されるまですっかりその事を忘れていた男子2人は揃って声を合わせる。この残念な反応に由香はじろりと男子共をにらみつけた。
「何?もしかして忘れてたとか?」
「だ、大丈夫、用意してあるからっ!」
シュウトはすぐにそこら編に無造作に床に転がしていた自分のデイバックの中をガサゴソと探し、該当する袋をわざとらしく見せびらかすように取り出した。勇一も同じようにどこからかそれっぽい袋を見つけ出して分かりやすくテーブルの上に置く。
2人のプレゼントを確認した彼女も、にっこり笑顔で自分の用意したクリスマスっぽい飾り付けのされたプレゼントをバッグの中から取り出すと、みんなの前に披露した。
「私達報酬で沢山お金あるんだから、いいもの用意したんでしょうね?」
「え?えーと……」
「まぁ、それなりのものは、な?」
由香に念押しをされた男子2人は戸惑っていた。同意を得ようとしたシュウトに対し、勇一は素の対応をする。
「いや俺お前が何用意したのかとか知らんし」
「そこは合わせろや!」
その歯車の噛み合っていない反応がコントっぽくて面白かったので、やり取りを見ていた彼女は思わずクスクスと笑い声を上げる。
「あはは、冗談だって。プレゼントなんて何でもいいから。じゃあ、くじ引こうか」
プレゼント交換、対象が2人ならお互いに渡し合えば終了だけど、この場には3人いるので組み合わせは恨みっこなしのくじで決める事になっていた。
そのくじの方法だけど、王様ゲームみたいな当たりを選んで一瞬で結果が分かる決め方も味気ないと言う事で、オーソドックスにあみだくじを採用する。
まず紙に縦棒を3本引いて横棒は各自が好きなように付け加えていった。全員が満足するまで引き終わったら一旦紙を折り曲げてくじの内容が分からないようにすると、じゃんけんで順番を決めて買った順に好きな場所に名前を書き込む。
入り口とゴールにそれぞれ名前の記入が終わったところで、おまちかねのあみだくじタイムが始まった。
「あみだっくじー、あみだっくじー」
楽しそうに歌いながら1番手の由香があみだを辿っていく。くねくねと道を辿る内に途中で引き返したりと中々複雑な旅路の末に、彼女がもらうプレゼントが決まった。
「お、陣内君のゲット!」
次に二番手のシュウトがくじに挑み、その結果に分かりやすく落胆する。
「俺は勇一のか。悪い予感しかしないな」
「人聞きの悪い事言うな!」
こうして全員の貰い先が決まったところで、その指示通りにプレゼントは交換された。3人がそれぞれプレゼントを手にしたところで、由香の用意したプレゼントが当たった勇一が早速その中身を確認する。
クリスマスっぽい包装の中身はこの季節の必須アイテムだった。
「マフラー?」
「定番でしょ。まぁ、買ったやつなんだけど」
「い、いや、有難う……」
女子からプレゼントをもらう事自体が初めてだった勇一は満更でもない表情を浮かべる。それを見たシュウトはニンマリといやらしい笑みを浮かべると分かりやすく彼をからかった。
「いい物貰ったじゃん」
「う、うっせーよ。それよりシュウトも開けてみたらどうだ」
からかわれて顔を真赤にしながら、勇一は自分の選んだプレゼントをプッシュする。シュウトは勇一の用意した袋を触って中身を想像し、軽口を叩きながらガサゴソと袋を開ける。
「どーせしょーもないも……DVD?」
「それ、今俺が一番気に入ってる作品なんだ。見て欲しくてさ」
「へぇ、面白そうじゃん、ありがと」
「よせやい、照れるぜ」
それは勇一の好きな映画のDVDだった。日本では映画館で上映されていないと言う結構マニアックな作品で、かなりB級臭の濃度が濃かったものの、だからこそ逆にすごく面白そうな雰囲気が漂っている。内容はと言えば、どこにでもいる普通の青年が色々あってヒーローになると言うありがちなもの。
筋書きはありがちなものの、中々奇想天外な展開が待ち構えているらしく、上映国ではカルトな人気があるらしい。そう言う作品を選ぶとか、流石勇一のセンスは尖っていると言える。自分では絶対に選ばないものを手に入れたシュウトはこの時点で期待で胸が一杯になっていた。
最後に残ったのが由香が当てたプレゼント。彼女は丁寧にその梱包の封を外して大事そうに中身を取り出した。
「で、陣内君のは……お菓子の詰め合わせ?」
「いや、こう言うのって、ほら、普通食べないし、面白いかなーって……マズかった?」
あんまり嬉しそうな反応じゃなかったのもあって、そのプレゼントを選んだ彼はお菓子の詰め合わせを選んだ理由を一方的に早口で一気にまくしたてると、その流れで彼女の顔色をうかがった。
このお菓子の詰め合わせは大人がお歳暮とかに貰うような結構本格的なアレ。センス的にはどうかと言う感じではあるけれど、中身がお菓子なので本来嫌な顔をする人はいないはずだ。彼女も別にそれが嫌と言う訳ではなく、ほんの些細な理由から納得がいっていないだけだった。
「いや、いいけど……もっとクリスマスっぽいのが良かったな」
「あ、なんかごめん」
確かにその理由には一理あるとシュウトは反射的に謝る。プレゼント交換が無事に済んだところでいい時間になっていたので、ここで3人のクリスマスパーティはお開きとなった。
家の外まで見送りに出た勇一は暗くなった空を見上げながらつぶやく。
「結局雪は降らなかったなー」
「雪国でもなきゃ降らないよ。じゃあまた!」
「またね~」
こうして勇一に見送られながら、2人は交換したプレゼントを手にして解散する。
シュウトは一応彼女の家まで贈ろうとするものの、時間で言えばそこまで遅くないからと軽く拒否されて、結局それぞれバラバラで帰宅する事に。
1人になった彼は、初めての友人宅での手作りパーティーを思い返してはニヤニヤしながら帰宅したのだった。
「こっちは何も問題なしと。のんきでイイ事だわ……」
このパーティーの様子を見守る影がひとつ。彼女は帰宅メンバーが全員無事に帰宅したのを見届けて自分の古巣へと戻る。その後、クリスマスの夜は更け、雪こそ降らなかったものの、静かで厳かな時間が何事もなく過ぎていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます