第101話 待ち伏せは近所の公園で その4
日課になっているユーイチとの一日最後の雑談を終えて彼は眠りについた。その夜は熟睡して悪夢で起きる事もなく朝までぐっすり眠り続けた。
次の日の昼休み、いつものように図書室に集まったメンバーは昨日の打ち合わせに参加していなかった勇一に資料を渡しながら、今回の仕事の詳細を身振り手振りを加えながら説明する。
「カツアゲ?」
「そ、人気のない所にターゲットを追い込んでさ、金を出せって脅すアレ」
「街の不良かよ」
シュウトの説明を聞いた勇一はその時感じた事を素直に口に出す。その言葉を聞いた由香はくすっと思い出し笑いをした。
「あはは、陣内君と同じ事言ってる」
「いや、みんなそう思うだろ普通」
「だよねー」
みんな考える事は同じと言う事で、ここでみんなでしばしの間笑い合う。で、笑い済んだ後にシュウトは早速由香に頼んでいた件についての話をする。
「で、大体のアテは掴めた?」
「まっかせんしゃーい!ほら、資料の最後の方にある事件発生地点を見て」
仕事の早い彼女は、すでに次の事件発生場所に目星をつけてしまったらしい。その説明をするために2人に資料の該当ページを見るよう促した。そのページを見た勇一は今から由香が説明する内容を予想する。
「今までの発生場所に印が付いてる。ここから予測したんだよな」
「そそそ。でね?」
早速彼女が得意気に説明を始めようとしたその時、この説明を遮って何か思いついたらしい勇一が質問を飛ばした。
「なぁ、過去の事件はどうやってそのドルドル団の仕業だって分かったんだ?」
彼はこの資料は誰が作っているのか、信憑性はどうなのかと言う事に興味を持ったようだ。過去に同じ疑問に辿り着いた2人は、その当時の事を思い出してそれぞれに勇一に説明する。
「それは……今までにも聞いた事はあるんだけど」
「上手くはぐらかされてるんだよ。多分風が関わっている部署が関係しているんだと思う」
シュウトのこの言葉を聞いた勇一は、納得してうなずきながら言葉を漏らした。
「ああ、あいつかぁ。それは面倒臭そうだなあ」
「とは言っても、これは飽くまでも俺の勝手な予想だから。それに今はそれを知る必要もないし。データの正確さは過去の実績から言っても保証するよ」
「ま、それもそっかな」
こうして新人の疑問がひとつ解消したところで話を戻して、改めて今回の作戦について由香が説明を始める。
「カツアゲは3日に一回発生してる。で、おそらく次はこの場所で行われるはず」
「お、この公園」
「知ってるの?」
資料の地図をずうっと眺めていた勇一が、彼女の指した場所に興味を覚える。どうやら身に覚えのある場所のようだ。
「ウチの近所だよ。治安、いいはずなんだけどなぁ」
「ドルドル団はない知恵を絞って各地を遠征しながら悪事を働いているから、地元の治安は関係ないよ」
この由香の説明を聞いた彼はワナワナと身を震わせる。
「く、許せん!絶対に捕まえようぜ!」
「おお!」
こうして3人の息が揃ったところで、作戦は実行に移される事となった。今回は全員のモチベーションが高いからきっと成功する事だろう。
次にドルドル団が動くと彼女が読んだのが二日後の夕方。当日の放課後に3人は揃って現場に向かって歩いていく。
その道中で、勇一が一緒に歩く2人に向かって声をかけた。
「カツアゲだから平日の昼間に発生しなくて良かった」
「学校サボらずに済むもんな」
以前の会話を思い出してシュウトが軽く返事を返す。それからも雑談しながら歩いていると、目的の公園にはすぐに着いた。
ここから先の作戦はと言うと、まず3人は公園の遊具の影に隠れて、ドルドル団がカツアゲ対象の人物をつれてやってくるのを待つ。ターゲットが現れたところで現行犯逮捕、と言うか確保して終了。そう言う流れだ。
こっそり隠れながら心配そうに勇一はつぶやいた。
「でも、本当に現れるかな」
「ここは気長に待ちましょ。何なら牛乳とアンパン買ってくる?」
「何でそのチョイス?」
この由香の言葉の意味が分からなかった彼は首を傾げる。そこでシュウトが、勇一にも分かるようにさり気なくヒントを出した。
「近藤さん、形から入るんだよ」
「ああ……」
そのヒントで大体の事を察した彼はポンと手を叩いた。この仕草が何だか馬鹿にされているように感じた彼女は、憤慨して声を荒げる。
「何よ!アンパンと牛乳は鉄板じゃない!」
「ご、ごめん……」
自分の発言が機嫌を損ねたと察した勇一は、この場を取り繕うために取り敢えず謝った。それで何とか場は収まって、待機時間の雰囲気はリセットされる。
怪しげな人物が近付いてこないかじいっと公園の様子を眺めていた由香は、少し淋しそうに言葉を漏らした。
「しかし人がいないね」
「最近は子供の数が減って、逆にリストラされた大人がベンチに座ってたりするんだ」
彼女の言葉に近所に住んでいる勇一がこの公園の事情を説明する。その説明を聞いたシュウトは、自分の将来を重ね合わせて虚しい気持ちになった。
「未来は暗いなあ……」
こうしてどうしても話が暗い方向に暗い方向にと下がって、段々みんなの口数は少なくなる。そうして無言で公園の入口を眺めていると、公園に面した歩道を歩く人影が見えてきた。
そのシルエットはどうやらシュウト達より年上の、背の高い学生服の集団だった。
「お、部活帰りの男子高校生かな?」
その人影の正体がはっきりしたところで由香がつぶやく。男子高校生達は楽しそうに雑談しながら公園を横切っていく。彼らは公園には興味がないようだった。
賑やかな声が通り過ぎると、また公園の周りに静けさが返ってくる。とは言え、夕方の帰宅ラッシュの時間帯に入ったので、結構車が行き交ってはいたのだけれど。
人通りが多い内は犯罪は行われないだろうと言う事で、ここで由香が現状認識を確認するような感じでつぶやいた。
「今のところなにもなしっと」
「なぁ、カツアゲってターゲットはどんな奴が狙われてるんだ?」
待ち時間があまりに暇だったので、勇一が今回の作戦について何でも知っていそうな彼女に質問する。公園前を注視しながら、由香は振り返らずにこの質問に答えた。
「色々だけど、基本ひとりで行動していて、トロ臭そうで地味なタイプかな。後はお金を持ってそうな人とか」
「じゃあ部活帰り組は最初から狙われないな」
「だねー」
夕方の帰宅ラッシュが一段落ついて、気がつけばすっかり空は暗くなっていた。見上げればいつの間にか一番星が光っている。今のところドルドル団がやってくる気配は見られない。
ずっと代わり映えのしない景色を眺めるのにも飽きてきた勇一が、つまらなさそうに声をかける。
「なあ、いつまで張り込むつもりだ?そろそろ帰りたいんだけど」
「あ、門限とかあるタイプ?」
「いや、特にはないけど。親を心配させるのは良くないだろ?」
由香に突っ込まれた彼は眉をひそめながら正論を口にした。この勇一の言葉に彼女はあっけらかんとした顔で返事を返す。
「じゃあ、連絡しとく?家が近いなら今から直接言いに帰ってもいいよ」
「んじゃあ、ちょっと待っててくれよ」
作戦立案者の許可が出た事で、彼は遊具の影から身体を出した。そのまま数歩歩いたところで何かを思い出したのか、おもむろに振り返る。
「あ、何時までここにいるつもりだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます