第78話 こちら側の権力者 その5
過去の彼を知っている勇一は今の変わりように感心する。褒められてるのかそうでないのか反応に困ったシュウトは頭を掻きながら顔をそらした。
「そ、そうかな?」
「そうだぞ、前は何をするにも無気力だったじゃないか」
勇一はそう言って自分の知っているかつてのシュウトを思い出しながら笑う。中学時代の彼しか知らない由香はこの発言に興味を持って身を乗り出した。
「へぇ、そうなんだ」
「む、昔の話だよっ!」
勇一と由香のやり取りを耳にして何だか恥ずかしくなったシュウトは大声を上げて誤魔化そうとした。この原因を作った彼はイキイキしているシュウトを見て昔の印象と違う理由を彼なりに推測する。
「きっとお前の中のリーダーがいい影響を与えているんだな」
「かも知れない。ユーイチは頼れる相棒なんだ」
「俺に中に入ったのは女子だろ?だから時々対応に困るんだよ」
この発言から、勇一の中にいるミヤコは女の子だと判明する。名前が女子っぽいからってこっちの世界の常識は通じないと敢えて触れなかった問題を率先して話してくれてシュウトは胸をなでおろした。ま、考えたら後でユーイチに聞いても良かった訳だけど。
こっちの人間の性別と適合する異世界生物の性別が違うというのはシュウトをスカウトした平山がそうだった。と、言う事もあって彼はその時の事を思い出してひとりで思い出し笑いをする。
それからすぐにシュウトは勇一に質問を飛ばす。
「で、ミヤコ……?さんは何て?」
「ぜひ協力したいってさ」
どうやら由香の提案にミヤコは乗り気らしい。この勇一の言葉に彼女の目が爛々と輝いたのは言うまでもない。由香は勇一の両手を躊躇なく握ってブンブンと力任せに振った。
「じゃあやろうよ!怖くないよ!痛くもないよ!」
「近藤さん、表現おかしい」
彼女の勧誘の言葉のおかしさにシュウトは思わずツッコミを入れる。この怒涛の展開に勇一は戸惑うばかりだったものの、自分の知り合いがそれをしている事もあってか特に疑うと言う事もせず、すんなりとこの状況を受け入れていた。
「シュウトがやっていけるなら大丈夫だろうな。俺、野球部辞めて暇だから付き合うよ」
「え?野球部辞めてたんだ?」
彼の告白に今度はシュウトの方が驚いた。彼の知る勇一は野球少年であり、今でも野球部で活躍していると思い込んでいたからだ。驚くシュウトを前に勇一は野球部を辞めた理由を苦笑いを浮かべながら口にする。
「ちょっと人間関係でトラブってね」
「そっか、大変だったな」
「ま、ひとりも気楽でいいよな」
慰める彼を気遣うように勇一は強がった。その様子から特に野球部に未練はなさそうに見える。そう見えたのは演技なのか、それとも――。
このやり取りをずっと眺めていた由香は話が途切れた今がチャンスとばかりに会話に割って入る。
「これからはひとりじゃないから!」
「だな、よろしく頼むよ」
こうしてシュウト達に新しい仲間が加入する。依頼はただの調査だったのでこの展開も何も問題はないはず。その後、由香の時と同じようにちひろに連絡を取ると、2人の予想通りこの要請はあっさりと上に通り、正式に彼もメンバーに採用される。数日後、例の喫茶店で顔合わせをしてカードを手渡される。
この時、まだ実践の経験がない勇一はこれから降り掛かってくる出来事をまだ実感出来ていない為、新しいクエストに臨むゲームの主人公のような、そんな期待に胸を膨らませた顔をしていた。
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