第73話 転売屋はオタクの怒りを買う その5
「ははっ!オタクな異世界生物かよ!こいつは面白い!」
このあからさまなオタク軽視の発言に彼女の怒りは更にヒートアップする。
「何ですってぇ!」
「あんなもの欲しがるなんて馬鹿だろ?おまけにどれだけ高額にしても買っていきやがる!これほど楽な商売はねぇ!」
転売屋らしいそのオタクをカモ扱いにしかしないふざけた発言に、とうとうユウキの堪忍袋の緒が切れる。
「ゆ、許せない……」
「ちょ、待て!ユウキ!」
無言で震えるその静かな怒りに悪い予感を感じたユーイチは、すぐに彼女を止めようとした。
しかしその行為は何もかもが遅かった。一度導火線に火がついてしまえば、もはや誰にも彼女は止められない。
「オタクを食いものにする奴は……空の彼方に飛んでいけーっ!」
ユウキは怒りの力を全て風の力に変換し、目の前の悪党共に暴風を御見舞する。マーヴォ達はこの桁違いの破壊力を有する風に何ひとつ抗う事が出来ず、なすがままにうめき声ひとつ上げる時間も許されないまま、空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「ああ……またこれか……」
その光景を見てユーイチはうなだれる。力を出し切って我に返った彼女もまた自分の行った行為を改めて自覚して途方に暮れた。
「あ、つい……」
「やってしまったものは仕方ない。今日はこれで解散だ」
こうしてユードルの悪の計画をユーイチ達は取り敢えず阻止する事に成功する。ユウキの暴走のせいで、またしてもひとりも異世界生物を確保する事は出来なかったのだけれど……。
後日、報告の為に喫茶店で待っていると、にこにこ顔のちひろがご機嫌で喫茶店に入ってきた。
「すごいすごーい!またしてもお手柄ね」
「そう……なんですか?」
いつもながらシュウトは異世界生物を確保出来なくても褒められると言う事に、どこか違和感を感じていた。苦笑いで冷や汗を流す2人を前に、ちひろはいつものようにマシンガントークを続ける。
「ま、公衆の面前でシンクロしちゃったのは色々とアレだったけど、あれから異世界生物絡みの転売行為はなくなったからね」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「いいのいいの成果さえ上がれば。どんどん迷惑をかけちゃって!その為の私達なんだから!」
政府の寛大な処置に2人が頭を下げると、すぐに彼女はそれを止める。お礼を言うべきは自分達だと何度も口にして、報酬は振り込んだよと言うとちひろはまた風のように喫茶店を後にした。
残された2人は呆気に取られてぽかんと口を開けたまま、しばらくの間固まる。その後の2人はいつものようにコーヒーを全部飲み干して喫茶店を出た。
帰り道、由香はニコニコ満面の笑みを浮かべ、調子良く話し出す。
「あの延期になったグッズ販売、来月に再開だって」
「ふーん。次こそは買えるといいな」
「うん、絶対買うんだ。軍資金も貯めてるし」
その貯めていると言う言葉にシュウトは軽く疑念を覚える。何故なら今の仕事の報酬は結構な高額で、あのアニメグッズ程度の物ならどれを選んだとしても、そんなに値段を気にしなくても苦もなく買えるはずだからだ。
「貯めてるって、一体いくつ買うつもりだよ?」
「えーとね、全種類のグッズをまず観賞用と資料用と保存用と布教用と……それから……」
やばい、これは聞いてはいけないタイプの質問だったと直感した彼は、話が濃くなる前にとすぐに話題の矛先を変える。
「でもユウキさんもファンだったなんて知らなかったよ」
「でしょでしょ。私が布教したんだ。趣味が合うのかすぐに意気投合したんだよ」
「そ、そうなんだ。あはは……」
変えたはずのこの話もまた地雷だった。それからシュウトは由香の好きなアニメの話を分かれ道ギリギリまで延々と聞かされる羽目となる。ぎこちない笑顔を崩せないまま彼はその話を全て聞き入れていた。
それはシュウトにとってここ最近の中で一番精神力を消費するイベントとなったのだった。
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