異世界のケダモノが俺の体に住み着いて困ってるんだが
にゃべ♪
異世界生物との邂逅
不思議な出会い
第1話 シュウト、ケダモノの住処になる
日本のどこにでもある小さな地方都市、向陽市。この街のある地域で再開発工事が始まっていた。
ある日、街の再開発で工事関係者がその場所に以前からあった古い遺跡を壊してしまう。遺跡と言っても見た目には大きな石が不規則に並んでいるだけのようにも見えた為、それを即工事関係者のミスと断言してしまうのも酷な気はする。
惜しむらくはその遺跡の研究者がこの世界にまだ存在していなかった事だろう。もし研究が進んでいればこんな不幸は起こらなかったに違いない。
遺跡を破壊した事で何が起こったか。
実はこの遺跡、異世界と通じる空間を封印していたのだ。この遺跡が破壊された事によって異世界とこちらの世界との次元が繋がってしまう。
これにより異世界からのお客さんがこちらの世界にやって来る事になってしまった。
これから始まる物語はそんな異世界からのお客さんと交流する事になってしまった少年の物語。
陣内シュウトは14歳の中学二年生。どこにでもいる普通の中学生だ。
以前はサッカー部に所属していたが中退、今は帰宅部。身長155cm……どっちかって言うとチビの部類。趣味はアニメとゲームとお笑いと……漫画。特に秀でた特技もなく部活をやめてからは日々のほほんと過ごしている。
そんなシュウトは今日も学校の帰りに普通に家に向かって下校していた。好きな雑誌の発売日でもなかったので、最寄りのコンビニは素通りしてどこに寄るでもなくまっすぐひとりで下校していた。
ブロロロロロロ……。
帰る途中で工事関係者のダンプとすれ違う。シュウトはその光景を見ながらつぶやいた。
「景色もどんどん変わっていくなぁ……」
シュウトの家と学校は徒歩で30分位の距離にある。だからそれなりの運動量も自然と確保出来ていた。
その道中の途中に再開発をしている区域があり、シュウトは登下校の時、いつもその側を通っていた。
工事中の景色を見るのは結構面白くて、時間があればシュウトはよく工事現場を覗いている。ずっと眺めている訳でもないが2、3分位は興味深く眺める事が多かった。
シュウトは今日もそんな時間を過ごそうと工事現場に寄ろうとしていた。
まっすぐ家に帰るなら寄らない工事現場に続く道にシュウトが入りこんだその時だった。
タタタタタッ!
シュウト目掛けて向かってくるひとつの影があった。彼は最初その影を猫だと思っていた。だから全然警戒もしていなかったのだけど――その影が近付いて来るとそれが猫ではない事がハッキリして来た。
「え?猫……じゃない……何だあれ!」
シュウトに迫ってくる猫のようで猫じゃないその生き物はシュウトに接近して来てもなおそのスピードを緩める事はしなかった。
「うああああ!」
シュウトは動けなかった。それはその生き物の気迫に押されていたからなのかも知れない。このままでは彼とその生き物は間違いなくぶつかる!
シュウトは怖くなって手で顔をガードして思わず目をつぶった。
その生き物はシュウトとの距離が至近距離になっても勢いを止めないまま――それどころか何とシュウトの胸に向かってジャンプしていた。
ダッ!
謎の生き物のタックルを受けてシュウトは思わず後ろに吹っ飛ぶ……と、彼は覚悟していた。
けれど現実はそうはならなかった。シュウトが目を開けるとそこには何もいなかった。まるで最初からそこには何もなかったかのように。
「え……?」
目の前に広がる見慣れた景色……彼は思わず周りを見回した。
しかしおかしいところは何ひとつ見当たらなかった。謎の生き物がぶつかって来た自分の胸の辺りを手で触ってみても――そこにも違和感は何ひとつ感じられなかった。
シュウトはこの体験がちょっと怖くなって今日は工事現場を見るのもやめてまっすぐ家に帰る事にした。
「アレは一体何だったんだろう?」
自分の部屋に戻って来たシュウトは自分のベッドに寝転がりながらさっきの事を思い出していた。彼がこんな不思議体験をするのは産まれて初めての事だった。
だからこそずっとその事ばかり考えてしまうのだろう。
(……迷惑をかけてすまない)
シュウトがその事をもう忘れようとしていた時、どこからかいきなり聞き慣れない声がした。
「何?何?」
その声に驚いてシュウトは起き上がって部屋をグルグルと見渡した。
しかし人の気配はおろか何ひとつ変わらない部屋の景色がそこにあるだけだった。
この現象が恐ろしくなった彼は寒気を覚え、がくがくと震えてしまう。もしかしたら何かに呪われてしまったのかとすら思うのだった。
(外ではない。君の内側にいるんだ)
「!?」
この聞こえて来た言葉にシュウトは戦慄した。自分の内側から声がする?一体どう言う事なのかと。
思わず自分の胸を触って違和感のない事を確認した。
「どこもおかしくない!どこもおかしくないよ!」
シュウトは混乱した。するとその謎の声が自分の居場所を明かしてくれた。
(物理的に存在しているんじゃない、君の心の中にいるんだ)
「心の中?」
シュウトは恐る恐るその謎の声の主と対話を始める。頭の中には無数のはてなマークが踊るばかりだった。
(私はこの世界では長く実体化していられないんだ。どうか協力して欲しい)
この謎の声の答えを聞いてシュウトは訳の分からない事件に巻き込まれたと思った。厄介事はゴメンだったので、彼はこの生き物にすぐ出て行ってもらおうと説得を始める。
「やだよ。出て行ってよ」
(残念だが、それは出来ない)
「どうして?」
(私達は誰の心にも入れる訳じゃないんだ……。君の心が……魂の器がとても具合がいいんだよ)
そんな事言われても困るんだけどな……とシュウトは思った。
(決して迷惑はかけないと約束する。少しの間だけ協力して欲しい)
「本当に?信用していいの?」
(ああ……神に誓って……)
この謎の声の主の信じる神様がどれほどのものかは分からないし、それだけで信用出来るはずもない。
けれどその声の雰囲気から、自分を騙そうとしている訳ではなさそうな事だけは感じ取れていた。そうなるとこの謎の声の正体をもっと知りたくなるのは当然の流れだった。
「ところで君は何者なの?」
(ああ、自己紹介がまだだったね……私はユーイチ、クゼ・ユーイチと言う者だ。ユーイチと呼んで欲しい)
「え?名前がまるで日本人じゃん!変なの!」
ユーイチと言う名前にシュウトは思わず吹き出した。謎の生き物のくせに余りに馴染みのある名前に彼は妙な親近感を覚えるのだった。
(日本人……そうか……この国は日本と言うんだね)
シュウトの反応からユーイチはこちらの世界の名前を理解する。この謎の生き物、意外と勘がいいらしい。
自己紹介をしてくれたお礼にシュウトもユーイチに自己紹介をする。
「そうだよ。ようこそ日本へ。俺はシュウト」
(シュウトか……よろしく、シュウト!)
こうして平凡な中学生シュウトと謎の生物ユーイチの奇妙な共同生活はなし崩し的に始まった。
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