インド旅行の困難と、偏見。

インドに行きたいと思って、行動に移しかけたのが去年。



タージマハルを肉眼で見たいから一緒に行かないか、と誘われたのがそもそもの動機でした。相変わらず自分で決めて行動することがない私です。


まあでも確かにタージマハルは生きてるうちに見たいもののうちのひとつだった。


マチュピチュ、カッパドキア、ピラミッド……人間が作ったものの中で、見たいものは、地震や戦争でぶっ壊れる前に見ておかなければなりません。悲しいことに、数百年経ったものでも躊躇なくぶっ壊す大馬鹿者がいますからね。


海外旅行に耐えうる年齢というのも存在します。肉体的にというより、精神的に。海外旅行は思い立ったが吉日、あるいは飛行機のセールが吉日です。



が。



友人と2人で旅行代理店に入り、「インドに行きたいのですが」と口火を切ると、お姉さんの顔色が変わる。


「女性おふたりで……?」


「え、はい」


「女性2人でインドですか!?」


で、どのプランとか、そういう話もしないうちから治安情報の紙をそっ…と出される。

インド……なんという魔境……!



わたくしの考えるインドとは、一度飲み込まれたら帰って来られないイメージ。ガネーシャの象鼻にからめとられるさまがバーン!と浮かぶ。「僕と1ルピーの神様」という本の影響も大きいかもしれません。たえず襲い来る、苦難! 劣悪な環境! その全てを押し流すガンジス! そして怪しげな音楽に合わせて踊るインド人!!!



ベトナムとインドって、ハマる人はものすごくハマる国だって言うじゃない。すんごく嫌な思いをして「ちくしょー2度と行くかー!」と帰国しなければ「ヤバイもう離れられない、インド、ラブ!」ってインド中毒になり、日本人に戻れなくなるか……




というのも、わたしの叔父が、インドに飲み込まれた1人でして。




5年ほど音信不通になったんです、うちの叔父。(前に本を進めてくれた元・悪童の叔父とは別の叔父ね)

東京で真面目に働いていたはずの人が。


一体どこへ? 元々筆まめな人ではないが、さすがにこうも消息がつかめないとは……と一同不安になりかけたある日、ポストに絵葉書が投函されました。



ガンジスを背景に、見知らぬインド人一家と写っている叔父の写真。……叔父だよね? これ。向こうの人と同じ肌色になってるけど、叔父だよね?


裏返すと、このメッセージ。









『ここで、母と呼べる人ができました。』









(  Д ) ゚ ゚





なんで!?!?


どういう経過を経て!?!?







つーか、叔父、インド行ってる!!   同化している!  現地の!  インド人と!!!  いや待て、 そうじゃない!  叔父、もっと、5年ぶりの家族に、他に、伝えるべきことあるんじゃねぇの!?



後で本人から聞いた話ですが、現地交渉して泊めてもらった一般のお宅に数年居候し、家族同然になったのだとか。

そんな即席ホームステイ聞いたことねーわ。



その後帰国し、私んちの近所に暮らしている叔父ですが、「ハム、飯作ってやるから夕飯食べに来な」と誘われた時に出てくるのは、大体何かを牛乳で煮た感じのインド料理です。も、この片田舎の日本のどこから、そんな見たことのない食材やらスパイスやら仕入れてくるのか不思議でしょうがない。週一でグリーンカレーすくいながら、叔父の中のインドの根深さにおののいてる。




んで、話を戻すと。




治安がいいことなんかなかったインドですが、叔父が暮らしていた時期より、やっぱ今の方が危険らしい。一番の原因はやはり、イスラム国。スリやなんや、命の危険まではいかないものは気をつけることができるけど、さすがに巻き込まれたら即死亡案件は無視できません。確かにタージマハルはすっごく見たいのですが、命を引き換えにして見るべき光景なんてありません。ええ。


結局インド旅行はとりやめになり、別の渡航先が決まり、


「ガンジスのとこにな、観光船だっつって小舟がとまっててな。格安で向こう岸に渡してやるっていうのについてったら、向こう岸で人さらいに売り飛ばされるんだぜ。女の子が狙われるから、気をつけな」


なんてニヤニヤしながら私を脅していた叔父が、行先変更を聞いて残念そうに


「まあ、生きてるうちに一度は行きなよ」


なんて肩を叩いてきた、という―――



……。



うまく言えないけど、

インド、根深い。

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