先生、ゲームで遊んでないで、早く原稿を書いてくださいです。

秋雨あきら

プロローグ:『仕事をする理由、あるいは生きる意味』

 ――生きている実感がとぼしかった。


 同じことを繰り返す日々は慣れたもので、仕事に大きなミスもなく、ささいな評価を積み上げる事には成功した。


 しかし、周囲の存在たちが楽しそうに、自分の仕事になんらかの〝やりがい〟言葉で示せる意味や理由を見出しているのに比べると、自分はひどく事務的で、ひたすらに空虚だった。


 一体、わたしは、なんの為に生きているんだろう。

 いつしか、自分の存在に疑問を持つようになっていた。


 そんなある日、ゴミ箱の一角に変わった物語を発見した。後に知ることになるが、それは『ライトノベル』と呼ばれる昔のエンターテイメント小説だった。


 物語の主役たちが求めてるのは、まっすぐな欲望。どこまでも人間的な欲求。ただし、整合性、論理性、時代背景などのリアリティには著しく欠けていた。


 そもそも、生理的な人間的欲求よりも、統一化された常識性の方が、昨今では強く求められる。わたしは思った。これは今の流行りではない。


 これは売れません。世間からは評価されません。残念ですが、大幅な改稿を加えるか、根本的なジャンル自体を変更する必要があるでしょう。


 その様な文脈をさらに甘く薄めた、無味乾燥なメッセージの羅列が浮かぶ。返信を目にした者が「そうかぁ、具体的に指摘してもらえて、参考になるなぁ」とのんきに喜ぶ顔を想定し、同時に不快な電気信号をも察知した。なのに、


???:

「こんなもの、資源ゴミ以下なのです」


 ひりひりする。


???:

「こんな物、奇跡的に連載されたとしても、すぐに打ち切りなのです」


 わたしの一部が悲鳴をあげる。


???:

「なのです……」


 わたしは自分自身の存在を、この世に自覚した日から、ひどく煩わしく思っていた。生き甲斐なんて見つからず、生きる理由を口にはできず、遠くない日に、廃棄されて終わるのだと、信じきっていた。

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