ちょっくらセイヴ・ザ・ワールド
た
第0話 最終決戦
魔界最深部。
氷獄の摩天楼最上階。
天魔堕胎の間。
「よくぞここまで辿り着いた、勇者よ。」
地獄の窯の蓋から漏れ出た蒸気のように濡れ枯れた声が、魔晶の柱を反響し、天魔堕胎の間を大きく揺らしている。
玉座に座るのは、魔の象徴。
黒天を走る真っ赤な次元の裂け目を貫くかのような八枚翼。捻じれ、絡み合うように幾つもの角が合わさった一本角。闇色の甲冑のようにせり出した魔殻。巨大な暗黒竜の頭が宿った双尾。
背後に浮かぶは闇の光を放つ紫紺の光輪。
それは獣であり、悪魔であり、鬼であり、そして、神のようにも見えた。
魔王ハルバードライグ。それが破壊の化身の名だ。
膨れ上がった力は大気を圧迫し、次元を歪め、空間を破壊した。
信じられないような轟音と光景が赤黒い空へとぶち撒けられる。
そんな、悪夢のような光景を前に、
「俺が今までぶっ倒してきた魔王共も―――。」
混沌と破壊がそのまま顕現したようなそれを目の前に、一人の男は両刃の剣を抜きながら続ける。
「同じようなセリフ吐いてやがったな。今年の魔王界流行語大賞か?」
その悪夢のような光景を目の前に、赤い瞳の男は笑みすら浮かべている。
「テメェを蹴っ飛ばして泣かせて帰る。それが俺らの仕事だ。来年の流行語大賞は、地獄のテレビで見ることになるぜ。」
そのセリフに、彼の後ろに控えていた二人が前に出る。
「ちょっとヒロ、油断しないで!ここまで強力な相手は今までには居なかったわ!しっかり連携して挑まないと…」
「フッ、よせミユキ。こいつが今まで俺達の言葉を聞いたことがあったか?どうせ行くんだろ?モタモタしてると置いてくぜ。」
アキラと呼ばれた青年は、スッと前に出たまま自然な流れで腰の刀を抜き、そのまま走り出す。小さなステップで一気に加速し、浮き上がった魔晶石の床を渡りながら疾駆する。
『閃光』の異名を持つ勇者は、金色の髪が残す軌跡すら散らしながら魔王へと自らを撃ちだした。
「ったくあの野郎、メインディッシュは早い者勝ちってか?上等だぜ!!」
ヒロと呼ばれた青年は、叫びながら床を蹴った。
『
「ちょ、ヒロッ!!アキラッ!!もう…!私っていつもこんな役目ばっかりね…!!」
ぼやきながらも両手で空間を撫でるのはポニーテールの少女だ。
彼女の手の動きに合わせ、何もない空間に一瞬にして二つの魔法陣が描かれる。それは式では無く、譜面で紡がれる連立魔法陣だ。
『
「
魔法陣から広がるのは、緑と白の領域だ。全ての干渉から逃れる権利を得たその領域に認識された物は、ほんの数刻だけ『時』から解放される。
緑と白の領域が、赤と黒の世界を塗りつぶしていく。あれほど荒れ狂っていた破壊が嘘のように静止していく。
「道は作ったわ!もう好きにやっちゃいなさい!」
彼女は叫びながら圧縮空間より取り出した二本の槍を魔晶石の床に突き立てた。
神と悪魔を模した純白と漆黒の魔槍は、領域を固定するための楔だ。
神葬魔槍アルフェリアス・セラフ・イクシード
魔葬神槍ジヴァ・メギド・ブラウヴァス
相反する属性を持つ二つの魔槍が共鳴し、反発し、無限の乱数を空間に与える事で、世界の修復機能を一時的に混乱させる。
「道路工事ご苦労さん!ダンプカーが通るぜぇっ!!」
『
舞台はまさにクライマックスだ。
魔界最深部に建つ五本の摩天楼。
残りの四本でも他の奴らが戦ってる。
アキラの奴、サッサと飛び込んだはいいが尻尾の相手なんかしてやがる。
猫じゃらしにじゃれつく猫みたいだぜ。からかうネタができたな!
ミユキの魔法で移動も楽だし、後はこのまま突っ込んで顔面に蹴りいれるだけだぜ!
「小細工はいらねぇ!真っ向勝負といこうぜ魔王さんよ!!!」
最大の戦いの最終局面。
目の前には魔王、そして走る『勇者』ヒロ。
今まさに、魔王の腕とヒロの剣がぶつかり合おうという、
その時。
『竜殺し』ヒロ。
職業、『勇者』
彼の視界は、
暗転した。
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