雷鳴(仮)

赤秋ともる

第1話 雨にうたれる男

 僕は雨の日にしか外出できない。

 雨粒が地面や傘をたたく音、どうしようもなく遮られる視界、池の周りを常に歩いているような匂い。

 つまり、雨はクリアな現実をピンボケした幻想に造り替えてくれる。僕はその曖昧な世界でしか冒険をすることはできない。

 理由なんて聞かないでほしい。実にばかばかしいから、自分の口からはとても言えない。

 当然、僕はそんな自分のことを恥ずかしく思っている。だから、僕は傘を差さずに雨の中を歩いている。

 雨はやさしい。中途半端なやさしさを僕に与えないから。その徹底した厳しさに僕は救われる。

 自分で言うのもなんだが、僕はもっと罵られるべき存在だ。だから、僕は雨の中を歩いている。一千万分の一。これは雷に当たって死ぬ確率と言われている。宝くじの一等が当たる確率よりも低いらしい。

 僕はその奇跡にすがるしかないのだ。僕は臆病で、何度も自殺を試みようとしては、怖気づいて失敗した。さらに、皮肉なことに僕の身体は病気に強いほうで、雨に何時間うたれようと大病を患うこともない。

 そこで僕の思考は絶望的に飛躍した。雷に当たって死ぬしかないと。

 だから、僕は開けた場所に向かっている。周りに避雷針のようなものがなく、雷に当たるにはうってつけのロケーション。そこは廃校のグラウンドだ。

 ここに人は寄り付かない。さらに、町からも完全に管理を放棄されている。これもまたばかげた話なのだけど、ここは呪われているらしい。ある校長がいて、謂れのないセクハラをでっち上げられ、自殺。それは化けて出ても不思議のない理不尽なことだ。この校舎を取り壊すときにも、作業員一人が事故で死亡。噂は瞬く間に広がり、どの解体業者にも断られ、現在に至る。

 その学校がどれだけ古いのかは、校舎の屋上を見れば分かる。避雷針がないのだ。さらに、住宅街から離れたところに建っている。これほどの立地が用意されていることに僕は感謝した。死に場所はここだと、暗に言われているようなものだ。

 腐って崩壊しかけている木の校門を抜け、僕はグラウンドの中央に立つ。

 そして、あとは祈って待つだけ。

 これを雨の日に繰り返して半年が経ったとき、僕は自分と同じように雨にうたれている女性と出会った。

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雷鳴(仮) 赤秋ともる @HirarinWorld

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