第13話 根拠
組長会議が終わった夜、僕たちは早速今後の事を決める会議を行うことにした。
今回の会議で僕の存在が全クラスに知れ渡ったことで今後、各組の動きがあるかもしれない。とりあえず僕たちはまず初めに今日の会議の内容をを飛葉さんを中心に全員に説明をした。
「……とまあ、こんな感じで今回はただの顔合わせ、ただ、各クラスに何らかの動きがあるのはずよ。」
「一人消せば組が潰れるってだけでもやばいのに更に組長は堅気……こんなに脆い組を放っておく訳がないか。」
「しかしどこが来るんだろう?AやEならかなり厳しけど」
「今さらどこが来たって一緒よ、どこでも厳しいのは間違いないわ。」
話を聞いた皆が口々にそれぞれの反応を示す。
「今敵意を見せてるのはC組くらいだけど他の組もきっと狙ってくるわ。まずは危険なクラスを重点的に絞っていきたいわね。」
「今回の会議で明らかな敵意を見せたのはC組だけなの?」
「あぁ……九条も宇佐見のやろうも、明らかに挑発してきやがった……ぜってぇ許さねぇ!!」
若田部君が会議の様子を思い出したのか拳を強く握っている。
「とりあえず、今聞いた情報じゃ全く見当つかないわね。」
「じゃあ、とりあえず逆に危険のなさそうなとこを上げていってみれば?」
書記を務めている清川さんの提案に乗り、皆で意見を上げていく。
「まず一番危険がなさそうなのはD組かしら、元々抗争には消極的だし熊切が弱体してるとこに追い打ちをかけるとは思わないな。」
確かにあの漢らしい熊切君がそんなことをしてくるとは全く思わない。
飛葉さんの言葉にウンウンと何度も頷いた。
「ならEもかな、最近は大人しいし、何より弱いとこに興味は持たないでしょ」
E組と言えば前に聞いた話じゃ戦闘狂の集まりだと聞いていたけど、やはり相手は選ぶのか、あの場の状況を振り返ると、確かにあの三人はあまり僕たちに興味を持っていなかった。
「なら次はHとFだな、Hは組長がアレなだけに自ら攻めようとはしないと思うしに、Fもあの組長じゃ、ないだろ。実質御堂が実権を握ってるとしても抗争なんて簡単に決めれるもんじゃないしな。」
――……
「じゃあ後はAとG?と話聞く限りだとAは友好的でGも興味持ってない感じだったんだよね?」
「いや、Aはわからないわ!本馬桜は!」
「いや、Aは俺でもねぇと思うぜ。」
若田部君の意見に飛葉さんが食い下がる。
「でも相手は本馬桜よ!あいつなら」
「Aには望月のやつもいるからわざわざ潰しにかかるとは思えねーな、な?片瀬?」
「……俺に振るなよ」
「でも……」
「お前は少し本馬に感情的すぎる、参謀がそれじゃ困るぜ」
珍しく飛葉さんが若田部君に言いくるめられている。確かに本馬さんに対する飛葉さんの敵意は少しおかしく思える。
「ところで話を戻すけど、結局危険な組って絞り込めたの?」
清川さんがメモした内容を見ながら言う。
僕たちもまとめられているホワイトボードに目をやる。
「……これじゃあ、危険なのはCだけってことになるけど」
清川さんの言葉にみんな沈黙する、C組以外の危険な組を絞り込むために討論したのに終わってみれば元に戻っている。
「じゃあ、やっぱり、危険なのはCだけ?」
「いや、そんなことはない……はず……」
行き詰まりにみんなの会話が止まってしまった。
――自分の意見を言ってみようか……
僕の考えは皆とぜんぜん違う。だがその考えには根拠と呼べるものがまるでない。
僕は皆と違い他の組の人たちの事をよく知らない。
そんな僕が根拠もないのに意見するとかえって混乱させるんじゃないだろうか?
――……でもこのままじゃ始まらない
僕は悩みながらも自分の意見を言ってみることにする。
「あ、あの……」
「ん?なに組長?何か気づいたの?」
皆の視線が僕に集まる中、僕は皆の意見を真っ向から否定する。
「僕は、C組は大丈夫だと思う」
皆の満場一致で同意していた意見を、根っこから否定したことにより皆から、小さな驚きの声が上がる。
「Cが安全って明らかに挑発してきたじゃねーか。」
「うん、でもあれは僕たちというより多分若田部君をからかうためにやったんじゃないかなと思うんだ。」
僕の答えに周りからは、ありえる、九条達ならやりかねない……などと肯定的な反応を得られた。そして僕はそのまま話を続けた。
「そして僕が一番危険だと思うクラスは……G組とF組」
その言葉でまた少しざわつく。
「どうしてそう思ったの?GはともかくF組に敵意は見られなかったけど?」
「どうしてって言われると勘になるのかな?」
そう、この考えに根拠は何もない、ただ、なんとなくわかってしまう、どんなに優しい言葉をかけられても内心では、僕を見下しバカにしている、そんな輩が僕の周りにはたくさんいたせいか、いつしか周りの人たちが僕をどういう目で見ているかがわかるようになっていた。
「……目を見れば大体わかるんだ、この人たちがどういう風に僕を見ているのかって、九条君たちの言葉は確かに酷かったけどあれは純粋にからかって楽しんでる様子で敵意は感じられなかった。」
「まあ、確かに楽しそうだったけどね」
飛葉さんが肯定すると、若田部君が少し不服そうにしている。
「そして、G組の人が僕を見ていた時の眼……あれは何度も見たことある、まるで獲物を見つけたような、悪意に満ちた目だった。」
あの目は僕を標的にしていた奴らがしていた目。見慣れてしまった目だ。
「新島とかもか?俺には友好的に見えたけど」
「新島君のはあれは全部偽っている、おどおどしているように見えたけど目はまっすぐこちらを見ていた。あれは傀儡にされているような人の目じゃない。多分油断させるための演技だよ。」
僕の話を静かに聞いていた飛葉さんが深く考え込む。
「……今の話に根拠なんてない、もしかしたら僕の思いこみかもしれない、だからあくまで意見の一つとして考えてくれたらいいんだけど……」
今の話は全て僕が思っていただけ、いわば決めつけに近いものだ、そんな考えで言った意見が、僕も通るとは思っていない。
だけどしばらくすると飛葉さんは立ち上がり指示をする。
「セナ、明日からGとFの動きをマークするわ」
「了解。」
飛葉さんに指示されると清川さんは軽く敬礼をする。
「信じるの?なんの根拠もないけど」
「ここはあなたの組よ、あなたが白と言えば、それは白になるのよ……なーんてね、そんな理由じゃ納得しないでしょ?根拠ならちゃんとあるわ、それは経験よ」
「経験?」
「そう、経験は技術にも勝る武器、あなたは私たちが生きてきた場所じゃない世界を知っている。生まれた時から味方がいて守られてきた私達とは違い、守ってくれる人もいなくすべてが敵の……そんな世界を見てきた組長だからこそ信じるのよ。」
――僕の経験……
物心ついていた時から虐めに合い、周りのすべての人が敵に見えた十五年間、そんな経験がここでは生かされるのだろうか?
少なくとも、その中で唯一心を開けると思ったこのメンバーを信じた僕の目に間違いはない、今はそう思えてる。
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