第11話 拳銃デビュー

 晴天の朝、外から未だに聞こえる蝉の声と、中から聞こえる目覚ましのアラームが僕の眠りを妨げ、眠りから覚める。


 今の時間は午前九時十分、普段なら学校が始まってる時間だ。

 だが今日は日曜日、学校は休みだ。

 そう、僕はこの高校に通ってからの初めての休日を迎える。



 つい先日届いた私服に着替えて居間に行くと。平日でもよく見られる姿があった。

 僕より身長は高くほっそりとした体にふくよかな胸、すらっとした髪が背中まで伸びており、

 テレビに出ているアイドルにも負けない顔だち。まさに美女と言えるほどの容姿を持ち、B組の家事をしてくれているのは百瀬アヤメさんだ。


「組長さん、おはようございます。今日は休みなのに早いんですね?」


 百瀬さんのニッコリと微笑みながらの挨拶にまだ、女性耐性のない僕は思わず目を反らして挨拶を返す。


「おはよう、百瀬さん。今日は訓練場に行こうと思って。」

「それって前に話してたことですよね?、ということは組長さんも拳銃デビューですね。」


そう、今日は前に話していた、銃の使い方を教えてもらうことになっていた。


「拳銃デビューね……」


 世間一般では聞いたこともないワードだ。でも言われ方は凄いが間違ってはいない。

 もちろん拳銃と言っても本物の銃と弾を使うわけではなく、弾はゴム製の物を使用し、威力も殺傷能力も格段に下げられているものだ。だが、それでもサバゲ―なんかで使うような生易しいものではなく、当たり所や使う銃次第では簡単に重症を負わせられるレベルの武器だ。重さや作りも実物と同じように作られている。


 現に一度抗争で見ていたが初めは本物を撃っていると思うほどであった。

 百瀬さんの言葉に自分が拳銃で人を撃っているイメージをして少し尻込みそうになるが、すぐに考えを振り払う。この学校でやっていく時にその覚悟は決めたはずだ。


そんな考えが顔に出ていたのか、僕の顔を見て百瀬さんが優しく笑った。


「別にそんなに気を張らなくても、それが普通の反応ですよ。ここの方たちは幼いころから、そういうことに関しても家で教育されていますから、大丈夫なだけです。」

「百瀬さんも?」


僕の言葉に彼女が首を横に振った。


「いいえ、私は元々、ここに入る予定ではなかったですから……」


 どうして?っと聞こうと思ったがすぐにその考えをやめた。

 もしそれを聞いてうっかり地雷を踏んでしまうような気がしてならなかった。

 このクラスの組長に就いたと言っても、まだ一週間もたっていない、絆も何もできていない状態で人の中に触れようとは思わなかった。僕自身も初めに聞かれた際には少し戸惑ってしまったこともあるし。


「そうなんだ……」


 僕は話を切り上げると居間を見回し、今で落ち合う約束している、二人を探す。


「どうかしましたか?」

「あ、一応案内役として護衛の二人に、ついてきてもらう予定だったんだけど姿が見当たらないなーって。」

「ああ、あの二人なら休みの日は大体お昼まで寝ていますよ、起こしてきましょうか?」


 流石女子力皆無と言われるほどではある。


「いや、休みの日くらいゆっくり寝かしてあげたいし。」


いつも側にいてくれるからこそ、休みの日くらい自由にしてもらいたい。


「わかりました、じゃあ代わりに私が案内しますね。」


僕が頷くと百瀬さんはなにやら少しうれしそうに微笑んだ。




――


寮を出て学校とは真逆の方向に十分ほど歩いたところにある山。

この山は学校の所有地であり、中に射撃場や、戦いの訓練用に整備された、訓練所として作られてある。


この場所はどのクラスも共有で使うことになっており、それぞれの使用時間が定められていて、


A組は土曜の朝九時から午後一時まで、C組は午後一時から五時まで。

B組は日曜の朝九時から午後一時まで、D組は午後一時から五時まで


 とそれぞれ決まっている。ちなみに時間と曜日は初めに協議して決めたらしい。

 僕たちが早速山の中に入ると、中は人が通れるように整備してあり、奥からは銃声が聞こえてきた。


「動物とかはいないの?」

「たまに鹿とかウサギとかはよく見ますね、熊はいませんが、猪はたまに見かけますね。」


――猪……テレビでしか見たことないけど確か車とか潰したりするんだよね。


 百瀬さんに案内されながら進んでいくと奥から聞こえていた銃声の音がだんだん近くなってきた。

 音の所へ行くとそこには、五つのレーン分けされた先に人型の的が並べてあり、その的から離れたところから引いてある線の手前に銃を持った男子が三人並んでいた。


 一人は、若田部健二君、このクラスに三人しかいない、紅蓮会上位組織の子供の一人で、額に巻いているバンダナと鋭い目つきが特徴的な男子だ。僕が来る前のこのクラスの組長をしていて、現在は一つ下の役の若頭に就いて僕をサポートしてくれている。


 もう一人は、片瀬竜馬君。若田部君と同じく上位組織の子供で、小さな姿と坊主に近い丸刈りが少し幼く見せるがその姿とは裏腹に喧嘩の実力もクラスのトップレベルの男子だ。


 そして三人目は青山桃里君。紅蓮会下部組織の家系で、通称知ったかの青山。

 見た目は美形で髪型も爽やかな短髪で身だしなみもクラスによくいる優等生みたいな格好ながら、実際はあまり頭は良くなく、間の抜けたところもあり、まるで本当の事かのように間違った知識を説明したりすることがあるので周りからは知ったかと言われている。


 三人が集中して的を狙ってゆっくりと引き金を下す。

 銃声と共に繰り出された、弾は三人共、的に命中した。


「よし!」

「よし!じゃねーよ、当たったの隣のレーンの的だぞ。」

「お前ホント、銃の腕、ないな」


 隣のレーンの的を当て喜ぶ青山君に、若田部君と片瀬君が呆れていた。


「フフ、精が出ますね。三人共」

「あれ?百瀬さんが珍しく……あれ、組長も?」

「まあ、組長は元々来る予定だったしいいとして、百瀬はどうしたんだ?」

「百瀬さんにはここまで案内してもらったんだよ」

「なんで百瀬が?喜田と秋山が来る予定だったはずだが……」


 周りに見当たらないところを確認すると二人がため息を吐いた。


「ま、あいつらが休日に早起きなんてできるわけないか」

「けどどうするんだ?あいつらが組長の銃を用意してたはずだが」

「……しかたねえ、俺のを貸してやるよ」


 そう言って若田部君が僕の方に投げてきた小さな銃を、慌ててキャッチする。が――


――お、重⁉


 見た目とのギャップの重さに少しよろめく。


「結構重いだろ?エアガンとかと違って金属製だからな、小さくても一キロくらいはあるぜ。」


 今まで一切スポーツ経験のない僕にこの重さはかなりきつく感じた。


 簡単な銃の説明を聞くと、指示された通りに的に向かって銃を構える。

 構えた銃は、さっきよりも重く感じ、上手く固定ができない。


「衝撃がきついからしっかり構えろよ!」


銃に力を入れゆっくり引き金を引く。


――パァン!


 耳に響く大きな銃声と共に僕の手に大きな衝撃が走る。

 僕の銃から放たれた弾丸は、的の横へと大きくそれた。


「まあ、初めはそうなるわな。トカレフは衝撃が割と大きいし結構きついだろ。」


衝撃で手が震える僕を見て若田部君が笑う。トカレフというのはこの銃の事だろうか?


「本来なら防音のために耳に耳当てでもつけるんだが、流石に本番でつけれねえからな、実戦形式なんで我慢してくれ。」


 そう言って僕の手から銃をとると、若田部君が僕の狙った的撃つ。

 放った銃弾はいとも簡単に的へと当たる。


「真ん中には当てられねえか、まあ、銃は女子の方が扱いが上手いからな。」

「俺はさっき当たったよ」

「だから狙ってない的に当ててどうすんだよ」


 三人から指導を請いながら、しばらく練習をしていると入り口の方から二人の女子が走ってきた。


 走ってきたのは、頭に二つのお団子を作った髪型と、百瀬さんとは違い、平たい胸をした少女、喜田良子さんと、おかっぱヘヤーの銀髪で、半開きのような目つきで少しためを作って、語尾を強調するという少しおかしな話方をする少女、秋山紀子さんだ。


「ちょっと組長、なんで起こしてくれなかったんすか!」

「我々は……断固抗議する!」

「いや、お前ら自分で起きろよ」


二人の理不尽な怒りに少し苦笑いをする。


「ところで、組長の銃は持ってきたのか?」

「フッフッフ、この喜田良子に抜かりがあると思って?」

「抜かりしかねえだろ、お前。」


 喜田さんが自慢げに黒いカバンを見せつけるがなんだかかなり大きい。中を漁っていた片瀬君が出てきた銃に思わず絶句する。


「お前……これ……」


出てきたのは自分の背中ほどの長さがある銃だ。


「AK-47じゃねーか!なんで軍隊が使うような武器を持ってきてんだよ。こんなもん護身用で常備してるやつがどこにいる⁉」

「なによ、いいじゃない!FPSなら初心者向けよ」

「それはゲームの話だろ!こんなもん背負っているヤクザがどこにいる!」

「銃を持ち歩く学生が……どこにいる⁉」

「おま……!」


喜田さん達と片瀬君が言い合いをしている間に持ってきた銃を試しに持ってみる。


「お、重」

「当り前だよ重さは大体十キロさっきの銃の十倍はあるよ」

「そんなに⁉」

「あるわけねえだろ。大体五キロだよ」


 青山君がドヤ顔で説明した直後から横やりの声が飛ぶ。

とりあえず使おうと試みるが銃の重さに的が定まらず結局、使うことを断念する。


「しゃあねえ、じゃあ今日はこれ使っていいぜ」


 そういってさっき使っていた銃を再び貸してくれる。

 そしてまた訓練を始めるが一向に当たる気配はない。


「銃ってやっぱ難しいよね。」


 そう言って同情してくれる喜田さんの横で今度は秋山さんが銃を催促する様に手を出してきた

 秋山さんに銃を渡すと彼女は、真ん中のレーンの線から少し後ろに立つと的に向かって銃を構えた。

 

 その姿は、A組の組長、本馬さんと出くわしたときと同じく真剣な表情を浮かべていた。

 そして次の瞬間、数発の銃声の音と共に、五つのレーンの的の真ん中に穴が開く。


「すっごい……」

「相変わらず銃の腕だけはあるよな」

「止まっている的も当てられなくは……人は打てない」


 普段見ている姿とのギャップに思わず魅了されてしまう。

 これが彼女のもう一つの顔なのだろう。


「わ、私は、ほら、自分の武器なら強いし」

「ぼ、僕もメリケンを使えば……」


――メリケン……


 青山君が言うととてつもない違和感を感じる。


「とりあえず……みんなで練習!」

「はい……」


 僕らは時間いっぱいまで銃の練習に打ち込んだ。



――

「はぁ。疲れた」


 結局あの後もひたすら打ち続けたがまともに当たったものは一つもなかった。

訓練所から寮に戻ると、かいた汗を落とすためにお風呂へ入る。体を洗い終わり、湯船につかるとそのままへたり込んだ。

慣れないことをしたものだから緊張と共に一気に疲れが来た。


 大きな浴場にいるのは僕一人。

 他の人は皆一緒にと入るのだが、僕は断わりを入れて一人で入るようにしている。理由は僕の身体にある無数の傷だ、切り傷とかは特にみられても構わないが、やけどの跡は自分でも少し気持ち悪いから誰にも見られたくなかった。土下座した際は皆が目を反らしてくれていたのが幸いだった。


 僕は湯船でゆったりすると銃を使う動作をする。

 使用時間いっぱいまで練習をした僕の手には未だに打った時の感触が残っている。

  これからここで生き抜くためにも是非使いこなさなければならないものだ。


「銃か……」


 本来は人殺しの道具であるが、この学校では特殊な弾を使うことによって、殺傷能力が減らしてあるので死ぬことはない。

 ……がそれはあくまでこの学校内での話だ。この学校を卒業すれば今度からは殺すために使うことになる。

 そう考えると今度は手が震えはじめた。今は大丈夫だが、皆が大人になると、この銃が本物になる。


 となると、今いるみんなが殺し合うことになる。仮にしないとしても別の組織とすることになるかもしれない。


――震えが全然止まらない。


 練習していた時には感じなかった恐怖が落ち着いてきた心にのしかかってきた。楽しくに思えた銃の訓練が、この学校の本当の恐怖を教え始めた。

 自分が危険なだけなら耐えられる、そう思って楽観的に考えていたが。そうではなかった。

 とりあえず、今はどうにかして止めないと。


 今考えてることを必死で振り払いひたすら平常心を保っていく……


「それにしても広いなぁ」


 考えていることを逸らすために今更ながらの事を言葉にして呟く。

 本来なら五人、十人で入る場所を一人で貸し切っているのだ。その広さは他の人より感じるだろう。

 本当なら他の人たちと一緒に入ってみたい。でも背中の痕がそれを許してくれない。


「……なんか、寂しいなぁ」


 ポツリと呟いやいた言葉が思った以上に風呂場に響く。


「その言葉を待っていたぁ!」


 まるで図ったかのように勢いよく扉が開くと風呂場に女性の高々とした声が響くとともに二人の女子が入ってきた。


「え、……えぇぇぇぇ⁉」


 現れたのは護衛の二人、喜田さんと秋山さん。前にも似たような事があったが、今度は前とは違い向こうが羞恥の姿をさらしている


「ちょっと二人ともなんで入ってきてるの⁉」


 身体を一切隠さない彼女たちの堂々とした態度に勇ましく思えたが、女子と目を合わすこともままならない僕にその姿を目にする勇気はなく、すぐさま壁際を向く。


「お背中を……流しに⁉」

「やっぱ、仕えるってこういうイメージあるじゃん?」

「ヤクザではこういうのはよくあるの?」

「さあ?私の家では男の人が良く洗い流してるけどね」

「じゃあ、僕も男の方が……」


 いや、まあそれでも困るんだけど


「組長は……ホモォ⁉」

「そこ強調しないで!」


 いつもよりも強調して聞こえる語尾は風呂中に響き渡った。


「まあ、ホモでもゲイでも何でもいいや、とりあえず背中流すからさっさと湯船から上がって」


 幸い今は、湯につかっているから背中を向けても痕は見られない。

 だが湯船から上がると火傷痕が見えてしまう。



「……もう体は洗ったから」

「二度あらうと……なお綺麗!」

「ともかく、さあ上がってさあさあさあ!」


 僕の言葉に耳を貸さない二人の煽りを聞かない振りをする。だがそれは余計彼女たちに火をつけた。




――

「……あいつら何風呂で騒いでるんだ?」


 風呂場から居間まで聞こえる騒ぎ声に居間の扇風機で寛いでいる片瀬が眉をしかめる。


「また、良子と紀子が暴れてるんでしょ?」


 風呂場と居間の間にある洗い場から、百瀬と一緒に皿洗いをしているツンコが答える。


「二人ともちゃんと護衛してますね、」

「いや、あれは護衛の仕事じゃないでしょ」

「フフフ、ちゃんと共同生活でのイベントをこなすとはさすがは組長だ」


 突如どこからともかく沸いて出てきた横田が不敵に笑う。

 だがそれに関して誰一人突っ込もうとしない。もはやこれは恒例となっている。


「お前も、ああいうの期待しているのか?」

「ん?いや、次元が一つ多いんだよねぇ」

「そ、そっか……」


 横田拓馬 秋葉原を拠点としている紅蓮会下部組織の横田組の長男である。


「ううう……」


――頭がクラクラする


 身体全体の体温が下がらず倒れた状態から起き上がることができない。


「あ、組長いた、てかどうしたの?」

「真昼間から湯船につかり続けてそのまま逆上せたみたいだよ。」

「その時間は……なんと二時間!」


僕を訪ねてきた飛葉さんにまるで他人事の事かのように二人が説明する。


――僕を連れ出そうと、二時間粘り続けた君たちもすごいよ。


「大丈夫?出直そうか?」

「う、うん、大丈夫だよ、何か用。」


 ふらつく頭を強引に起こす、その姿に二人が驚きを見せる。


「えと、組長会議の事でね」


――組長会議……


 生徒手帳に書いてあった月一に行われる会議の事か。

 確か、前に先生が臨時であるっていってたっけ?。


「今回が初めてだし、先に簡単な説明をしておこうと思ってね。」


そう言うと彼女は説明をし始めた。


「念のために一から説明すると、組長会議ってのは月の始めにある、各クラスの定時報告会みたいなものよ、そこで先月の離脱人数、復帰した人、そしてその他の連絡事項を報告しあうの。今回は転校生が組長に選ばれると言う前例のないということで、臨時として開かれるの。だから組長には多分皆の前で自己紹介をしてもらうと思うからその辺は心得といてね。」

「皆って言うと他クラスの組長と?」

「あと、若頭、参謀の人達もね。」


その言葉にゴクリと唾を飲む。


――他クラスの組長各の人達……


 今までは東校舎側の組長との顔合わせは終わっているがまだ西側の方の人達は全く知らない。

 これは相手のトップも分かるが逆に全クラスに僕の存在が知れ渡るということだ。

 もし、下手な行動を見せたら付け込まれる可能性だってある。半端なことはできない。

さっきまで火照っていた体がいつの間にか冷めていた。

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