當代の魔術師

きづ柚希

當代の魔術師 The Modern Magus

 このような実験を聞いたことがあるだろうか。

 最初に目が全く見えない者と目に不自由が無い者をサンプルとして集める。両方の人間には実験では使わない部屋で待機してもらい、実験を始めるごとにその部屋から目隠しをされ、実験をする部屋に実験者が誘導する。実験に使う部屋とは縦に長い部屋で、程なく真っすぐに歩くとそこに壁のように背の高い障害物が鎮座している。実験に参加してもらう人間はその部屋に障害物があることを知らない。実験者が真っすぐに歩くように誘導し、対象がその障害物にぶつかる前に障害物に気づくか否かを図る実験である。

 結論から言おう。目が全く見えない者は大多数が障害物の手前で何らかのものがあり、自らの進路を邪魔していることに気が付いた。対して目に不自由が無い者は大多数の者が目の前の障害物に気が付かず衝突した。

 この実験から言えること、それは何らかの事情で一つまたは複数の感覚が働かない者は、残された感覚が非常に鋭敏である。もしくは第六感的な何かが働いている可能性があると言うことである。

 一つの感覚が失われた状態では他が極めて突出したものとなる。それは“彼ら”についても同じことが言えるのではないだろうか。彼らは生まれつき一部の感覚が欠落している。しかしその代わりに超人的な能力が備わる。なお発育途中で一部の感覚と引き換えに突如その能力を手にする例もある。彼らは一部の感覚と引き換えに超人的ともいえる能力を手にする。 これは特価交換、いやかなり有利な条件と言えるかもしれない。この現象について、ある者は人類の新たな進化の形であると、ある者はある種の疾患であると、またある者は人の皮を被った化け物の誕生であると言い、私たちは一部の感覚と引き換えに未だ知れぬ能力を開花させた“彼ら”のことを當代とうだいの魔術師、そう呼び習わすことにした。

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