冷たい生命

細切れになった黄色い葉が

石畳の隙間を埋めている



その上を踏みしめている僕は

冷え切った身体を竦めて

短い赤信号を待っている



耳元で流れる静かなピアノは

切ない歌声を引き立たせていて

僕はセンチメンタルな気分を

ひっそり盛り上がらせた



そんな僕を自転車のおばさんが

軽々と追い越して行く



僕は軽く肩を竦めて

青に変わった信号を渡りきった



たった3歩半の信号


たった30秒の信号



赤と灰の石畳の隅に寄せられた銀杏の葉が

風で不思議な模様を描き出す



耳元のバラードは

僕の歩くスピードが速くなるように

僕のセンチメンタルが高揚するように

静かに甘い声を張り上げている



次の信号も

急ぎ足のサラリーマンが僕を尻目に

どんどん先へ進んで行く



僕は待っている

少しの間だけれど、待っている



白い息を吐きながら

見知らぬ人の住む街を見つめながら



少し待つだけで

冷たい空気の色が見えたり

見ている風景が全く違って見えたり

家から人の気配を感じて

生きているんだと実感できるから

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