3.死を見逃した鼠





授業が終わり地獄のチャイムが響く

逃げられはしない 手を掴まれ廊下に出た

彼の手はとても冷たくてまるで死人のようで

背筋がぞわりとした

ふと後ろの方で知らない子が「かわいそうに」と同情する声が聞こえた

本当にそう思っているのなら助けろよ





着いた場所はグラウンドにあった倉庫

見るからに古くて使われてなさそうだ

彼は一体ここで何をするつもりなのか



「なぁおまえさ」



倉庫の床に私を乱暴に座らせ

彼は立ったまま私のことを見つめていた



「なんで何も抵抗しないわけ?

おまえ俺に食われるってわかってる?」


「……く、食われるって、なに?」



声は震えていた

だがまっすぐちゃんと彼を見ていた



「そのままだけど 俺人間しか食えねえの

今朝もさぁ、もうちょっとの所で食えそうだったのに

逃げられて見失っちまった ついてないよなぁ」



ついてないのはこっちの方だ

彼の言っていることはよく理解できた

彼はおそらくそういう……やばい人なのだ

さすがアスガルド、「輝く監獄」と呼ばれるだけある

頭のおかしいやつや食人鬼

きっと他の人達もみんなおかしいんだろう

やっぱり、私は……



「……死ぬのが、怖くねえの?」



彼は真剣な顔で私に問うた

私は答えることなく下を向いていた

彼は返答を待つのに飽きたらしく

しゃがんで私の右耳を掴んだ



「黙ってんならもう食っちまうからな

……ピアスはつけてないみたいだな

まぁお前真面目そうだし開けなさそうだな」












「"いただきます"」




激痛が走った


何をされたのかわからなかった

私の中の意識が全て右耳に集中し

痛い!!と悲鳴をあげた



「!?……ぃ…い゛、たっ…!!」


ギリギリと食い込む歯

首筋を伝う熱い液体

襲う非日常にただ身をよじることしかできなかった


そして遂に、ブチィと鈍い千切れるような音がした

その瞬間まるで世界が小さくなった

今まで聞こえた世界が半分なくなってしまったのだ

彼はご満悦、といった顔で……

私の右耳を咀嚼していたのだ!!



「……っは、……ぁ」



恐怖、不可思議、逃走心、混乱

彼だけでなく感情までもが私を襲う

頭がどうにかなりそうだ


人間そんな状態になるときっと壊れてしまうんだろう

それを防ぐために理性というものが存在する

正直理性なんてものはとうに消えていたと思っていたが本能的にはまだ残っていたらしい









Addition:透き通る星



逃げるように私の体は透けていった

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