1章 硝子の割れる音

1.頭のおかしいやつら



朝目覚めた後

洗面台の鏡で自分の姿を見るのは

もう癖というより日課だ

今日も私は存在している

この世界に生きていられる

それは住む場所が変わっても変わらない


封鎖された地「アスガルド」

つい昨日私はこの街に送られた

アスガルドに送られるという事は

私が危険因子だとみなされたという事

私は特に抵抗する事もなく

両親に別れを告げここに来た


未練なんてない

……何に対しての未練だ?

両親のこと?友人のこと?

それともこのいつ殺されるかも

わからなくなった私への命?


あぁだめだ

深く考えすぎてしまうのは私の癖

少し茶色っぽい髪を結って赤いリボンを結んだ



「そろそろ行きますか」



鞄を手に取り家を出た




私は金平 透

特筆すべき事が別にない普通の女子生徒

そして私が今から行くところは学校

なんでもこのあたりで一番荒れているらしい

とてもじゃないが普通の女子生徒が

行くような場所ではない

転校初日で殺されちゃったりしてね


曲がり角を曲がろうとすると

ちょうど曲がろうとしていた人とぶつかった



「ごめんなさい」



私はすぐに謝ったけれど

ぶつかった女の人はじっと私を見ているだけ



「……あの、何か?」



女の人は私のことを

ひとしきりじっと見た後ニコリと笑った



「始まりがあるものには終わりが必ずある

終わりを逃れることは出来ない

さぁ終わらない歌を歌おう」



女の人はそれだけ言った後

さっさと行ってしまった


……少しだけ学校生活への期待に陰りを移し

私も特に気にすることなく学校へ向かった







「転校生を紹介する」


突き刺さるのは好奇心 興味 警戒

それらをはらんだたくさんの目は

私の姿を捉えていた


教室は空席が目立ち

態度の悪い生徒や派手な容姿の生徒が多い


上手にやらなくっちゃ

出来るだけ目立たないように

それでいて忘れられない存在に



「金平 透です よろしくおねがいしま」


そう言い終わるか言い終わらないかだ


さっき私が入ってきた教室のドアが

勢いよく開け放たれた

当然みんなの興味は私なんかより

そっちに向くわけで


……運が悪いなぁ


そう思いドアの方を向くと

立っていたのは男の子だった

白髪頭にだらんとしたシャツ

鞄さえも持っていない

何より特筆すべきは

彼の主に顔あたりが血まみれだってこと!



「……っ」



ぽたぽたと床に落ちる血の滴

赤く染まっただらしないシャツ

むせ返るような鉄の匂い

彼は明らかに異常だった

もっと異常だったのはその光景に全く動じない先生と生徒だった



「……おはよう 弥代

ちょうど転校生の紹介をしていた所だったんだ

早く席に座れ」



彼は頷くこともなくまるでゾンビのように

後ろの席に座った


アスガルドではこんな光景が当たり前なのかな

嫌だなぁ ほんとにいつ死ぬかわからない



……死んだって いいんだけどね


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る