第16話 路地裏の情報戦
襲撃開始から2時間45分経過______
ユーリとヘレンが路地裏に息をひそめてから数分が経過した。ユーリの体力・魔力ともに回復し動き出すタイミングをうかがっている。
「これからどう動く?北門は確実に的に封鎖されてるぞ?西門に向かうにしても途中でとらえられる可能性がある。これだけ用意周到に攻めてきてる相手がそこでぬかるとは思えない」
「確かにそれはあるなー……少し調べさせてから動くとするかねー」
ユーリの問いに対してそう答えるとおもむろに両手を前で合掌するように数秒合わせてフワッと開く。肉球や鋭い爪のある大きくモフモフな手の上には、10匹ほどの蝶が止まっていた。その蝶は、黒い体にアゲハチョウのような羽根。その羽根は太目に黒く縁取られた紅緋色を基調とした模様がとても映える。そして、中央がまた模様に沿うような黒。最も特徴的なのは尾っぽの先が赤く点灯していた。
ユーリは、その姿を見て、思わず簀巻きにされている少女を抱きかかえて2,3m飛びのく
「ブラッディー……バタフライ……それで、何するつもりだ……」
今、目の前にいるブラッディーバタフライという蝶は、蝶でありながら蛍と同様の発光器官をもつ特徴から赤蛍ともいわれているが、近い将来死ぬ人間のところにどこからともなく飛んでくることから‘‘死を嗅ぎ取る蝶’’ともいわれている。この蝶は、その見かけに反して、弱った生物を集団で襲い喰らい数を増やす獰猛な蝶として知られている。
「ん……?あ、あーこいつらは大丈夫、大丈夫。契約精霊だから襲ったりしねーよ隠密行動でなおかつ急いでるときは使い勝手がいいんだわーこいつら。」
「ん?どういうことだ?」
ユーリの質問に、めんどくさいのか少し目を泳がせると
「まぁ、見てな……」
とだけ言って、蝶に向けてふーっと息を吹く、それを合図にヘレンの手に止まっていた10数匹の蝶がヒラヒラと空に舞い上がった。噴煙の届かない静かな路地裏には、微かな月明かりが照らしそれに蝶が吸い込まれていくようで、それはどこか幻想的な光景でもあった。
そして、屋根の上に出たところで、蝶はチリジリに飛び始め、一匹だけがその場に残っりフヨフヨと漂っている。
「あいつらは、群れで生きてる群体精霊の一種で、尾っぽの発光器官から群れごとに特有の光信号を出して意思疎通を行う頭のいい奴らでな。そんでもって、俺だけが理解できる暗号になるようしつけたんだぜー」
そう誇らしげに語った後、といきなり遠い目をして「……苦労したなー……」とぼそりとつぶやいた。それに、ユーリは苦笑いを浮かべ、首が付かれそうだと考えて下を向いた。そうしている間もヘレンは真上を漂う蝶に目を向けていた。
「お?きたなー……ほらユー上見ろ、上。」
不意に上を見上げていたヘレンがユーリに声をかけた。
あれから2分ほどが経ち、ユーリたちの真上で漂っている蝶の尾にある発光器官が点灯し始める。そして、強弱のある赤い光を点灯させ始めた。そして、受け取った暗号をそのままヘレンが呟きはじめる。
「北の大通りには、敵が戻ってきている。南にツーブロックの地点で敵がこちらの様子をうかがっている。」
その言葉に思わず顔を上げたユーリが、2ブロック南の方を見る。パッと見誰もないように見えるがちらちらとゴブリンの長い鼻やら翻る衣類やらが見え隠れしていた。中規模結界が張られている為入ってはこれないが、出た瞬間襲われるってことになりそうで少し焦る。
「まじかよ……バレてんじゃん……」
「まぁ、落ち着けって、北に4ブロック行ったとこと西に5ブロック行ったとこで、包囲が始まった。西の防衛線で戦闘が始まった。西門近くの陣は落とされ近辺をオークが3体ずつぐらいで徘徊してる。あ、こりゃー、西門に行くのも無理だなー」
あっけらかんとヘレンは呟いた。
「てか、地上から逃げなくても別によくないか?裏カルトを通っても……」
ユーリのそんな発言にこいつ今更か?と、言いたげな表情を浮かべ、頭の後ろで手を組み枕にしてだらけ始めながら説明した。
「そりゃむりだなー。もう、避難が完了して、裏カルトへ続く扉はぜーんぶ、魔法で鍵かけられてっからなーどうやっても外からは開かないし、物理攻撃も魔法攻撃も受付まっせーん」
その言動にイラッとしつつユーリは最後まで聞く。
「じゃないと、さっきみたいな大技ぶっぱなす許可なんて出すわきゃねーだろー」
その言動には明らかに緊張感というものが合掛けている気もしたがユーリは一応の納得をし、空を仰いだ。相変わらず上空を蝶がフヨフヨと浮かび、赤い光を点滅させていた。
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