マイユートピア

飴雨あめ

序章

連続失踪事件

 現在この町では、連続失踪事件が続いている。


 しかしその真相は、連続殺人事件であり、連続食人事件である。未確認生物災害バイオハザードと言い換えてもいいかもしれない。


 その犯人にあたる生物がこいつ。


 今僕の目の前で、こちらを興味なさそうに見ている、ぎりぎり人間の形をした化け物。


 ずれた位置から生えた手足、ずれた位置で曲がっている関節、間違った本数の指、パーツの配置を間違えた顔、性別の見分けもつかないシルエット。


 こんな身の毛もよだつような生物が、この事件の原因――犯人である。


 こいつらは人気の無い路地裏や森の中で人を食う。


 紛れもなく醜悪な見た目をした、紛れもない悪である。


 そして困ったことに、こいつらの姿は僕にしか見えないらしい。


 僕にしか見えない――故に、僕にしか倒せない。


 だからこの町を守れるのは僕だけであり、僕だけがこの事件を解決できる唯一の人間なのだ。


「よし……」


 僕は制服の内ポケットに忍ばせてあったサバイバルナイフを取り出した。素早く踏み込んで奴の首を跳ねる。


 血しぶきが舞う。


 ぼとり、と首が落ちる。


「ふぅ……、一体何匹いるんだよ、こいつら」


 毎日こいつらを倒し続けているが、連続失踪事件の被害者は増え続けている。


 警察は何をやっているんだ、と町中の住民が思っているが、それは仕方のないことなのだ。


 警察には、この事件の真相が――犯人が、見えていないのだから。


 事件の真相が見えるのは僕だけで、この町を救えるのも僕だけで――清水さんを守れるのも僕だけなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る