VR世界で、ちょっと虐殺してきました。

りりりりりり

VR世界で、ちょっと虐殺してきました。

晴れやかな青空と、美しく空を装飾する芸術めいた白くダイナミックなキノコ雲の下。

男の子や女の子。

男性や女性。

お爺ちゃんやお婆ちゃん。

それらの死体が、叫んだり、抵抗しようとしていたりと実にバラエティーにとんだ様々な格好ポーズで華やかな草花の上に転がっていた。

自立AIのNPC原住民達は、なんとも不運なことに経験値EXPに飢えた無課金勢の僕に目をつけられてしまったのだ。


『ヒィ…あっああ。』

僕から、そう遠くない位置に運が良いのか悪いのか、まだ生き残っている小さな女の子が呻き声を上げていた。

(といっても、女の子の手足は、僕が放った山刀マチェットの斬撃で見事なまでに根元から切り落とされていて、すっかり江戸川乱歩の芋虫みたいな状態で、とても【生き残った】という表現で言い表せるほど、呑気な容態ではないのだが…。)

女の子が、必死にジタバタと失禁しながらもがいている姿は、なんとも健気で滑稽だった。


ぴょこんと、視界の端っこに文字が浮かぶ。

『ねぇねぇ、このロリさぁ、可愛いし、治療してさ、マザーベースに持って帰って慰めものにでもしようぜ。』

早速、僕の闘いをリアルタイム視聴していた、何処かの誰かさんが、そんな下品な呟きをしたのだ。

『黙れ、この変態ペドフィリア…。

通報するぞ。』

そして、いつものように正義面した何処かの誰かさんが、その下品な呟きをけなす呟きを反射的に繋げた。


『相変わらず、つまらないな。』

観戦者のつぶやきというものは、どうしてこうも、つまらないものなのか。


僕は、人が嫌いだ。

もちろん、最初から人が嫌いで生まれてきた訳じゃない。

両親、友達、自分。

好きな人だって最初のうちは、いたんだ。

でも、なんでかは知らないが、ある日僕の周りの人が、突然みんな死んじゃって、僕は、一人になって、あれこれ冷静に考えたあげく、自分というものの小ささと世界の無責任さに呆れて、人が嫌いになったんだ。

『ごめんね。』

女の子の口に7.62㎜の銃口を突き入れて僕は、

引き金を絞った。

女の子の後頭部から、それはそれは綺麗な脳漿が咲き乱れて、女の子は死体になった。

殲滅オールダウン

クエストクリアおめでとうございます。》

人工的なホログラムが、ぷわんと浮かんでキラキラと瞬く。


僕は、人は嫌いだけど、人が作るゲームの世界は、好きだった。

この世界だけが、僕の居場所だった。

《ゲームロビーに帰還します。》

アナウンスと共にシューという炭酸水のような涼やかな音を立てながら目の前の景色が、ドロドロと溶けていった。

アイスで作ったジオラマをバーナーで炙ったらこんな感じかなぁと僕は思いながら、溶けていく景色と共に無機質なゲームロビーに身体を落下させていった。


ゲームロビーは、あくまでネット上の一つの空間スペースでしかないから、ゲームの中とは、裏腹にそのロビーは、冷たく無機質だ。


黒単色の背景に情報の流れを可視化した光線ビームが、複雑にキャビネットを作り出すそんな電脳世界フルダイブネットの世界も初めのうちこそ、サイバーパンク的浪漫に満ち溢れているように見えたが、慣れて仕舞えば、それは、単なる安っぽい模様パターンでしかなく、非常に不愉快なものだ。


こんな景色に長居するのは、ごめんだ。


僕は、ゲームロビーの空間に溢れている、一つの情報ビームを掴んで、再びゲームの世界へとダイブする。


あの住み慣れた景色に戻っていくのだ。


AK突撃銃アブトマットカラシニコバ山刀マチェット連射拳銃スチャッキン樹脂爆弾プラスチックボム、これらVRMO用に再現された得物ロードアウトの数々と自らの経験値から手に入れた能力スキルとが、僕をガチ勢ソロプレイヤーたらしめている。


ギンギンに照った太陽の下、荒れた砂漠の街に一人のプレイヤーと必死に抵抗してくる、NPCの民兵組織による闘いが演じられた。

空には、闘いを盛り上げるために沢山ヘリが浮かんでいて、それを敵の頭上に撃ち落とすとエネミーを効率的に減らせるという仕組みになっていた。

『雑魚め。』

それは、闘いというよりは僕の完全な一方的な虐殺だった。

道路脇に仕掛けたプラスチック爆弾で、敵のピックアップ車両を停止させ、カラシニコフで、ひるんだ敵兵を一掃して車両を乗っ取り、荷台にくっ付いた手作り感満載の迫撃砲をヘリに向かってぶっ放す。

墜落したヘリが敵のアジトにヒットし炎上、あちちと火が付いた身体で、無様な敵がアジトから炙り出されてくるのを僕は、冷静にセミオートで殺していった。


楽しい、楽し過ぎる。

僕が、大嫌いな人をこんなに沢山殺せるなんて…素晴らしい。

やがてアジトから敵は、一切出てこなくなった。

『もう、終わりか…。』

僕は、伏射プローンの体勢からうーんと背伸びをして立ち上がった。

しかし、現実の身体では、ないこの仮想体アバターは、背伸びをしても気持ちよくないし、そもそも体がこるなんてことは、ない。


【いつから僕は、ゲームをしてるんだろう。】

そのとき、急に現実の身体が恋しく思えた。

こんな感情は、久しぶりだった。

学校から帰ったら、民兵を一掃するために米軍の落としていった爆弾が、どういうわけか僕の家をそして街を焼いていた。

気づいた時には、家族も友達もみんな死んじゃって嫌になってフルダイブゲームの世界に逃げてから何日、何ケ月、何年経ったのだろうか。

あの荒廃した日本の砂漠の中で、僕の街は、まだ生き残っているのだろうか。

僕はふと、何にもない廃墟で一人、何も食べず飲まず、やせ細った体でゲームをする自分の姿を想像した。


なんてこったい、なんてことを考えているんだ。

楽しいゲームが台無しじゃないか。


僕は、獲得した経験値EXPを確認しながら、いつもの殲滅オールダウンの表示を待って、次のクエストのことを考えた。

が…いつまで経ってもその表示は、現れない。


『撃ち漏らしか…クソ。』

僕は、悪態をつきながら、カラシニコフの弾倉マガジンをアイテムウィンドウから引っ張り出して、再装填リロードし、行軍を開始した。

『大丈夫ですか、疲れてるんじゃないんですか。』

『おいおい、一流ランカープレイヤーがどうした。』

『課金して、索敵レーダーつけろよ。』

そんな煽りチャットが乱列する。

『クソクソクソ、死ねぇ。』

僕は、空に向かって鬱憤ばらしに景気良くカラシニコフをぶっ放した。


そのときだった。

ふと、見覚えのある建物が、僕の前に現れた。

…だが、その建物は僕の知ってるそれより、随分とボロボロに朽ち果てていた。


僕は、その建物に引き寄せられるように入って行った。


カラシニコフは長く、取り回しがきついため、

連射拳銃スチャッキンに切り替えて一つの一つの部屋を索敵クリアリングしていく。

すると、突然目の前にSFめいた格好のアンドロイドが拳銃を構えて現れた。

『米軍の遠隔操作ドローン兵士ソルジャーがなんで…。』

僕は、素早くスチャッキンをぶっ放した。

パリんっ。

その瞬間、ガラスが割れる音ともに兵士の姿が消えた。

…バクなのだろうか。

それとも、ガラスに反射していただけで本物は、後ろにいるのか。

僕は、後ろに身体を回した。


するとそこには、一人の少年が、椅子に座っていた。

頭には、フルダイブ用のヘルメットデバイスが被さっていた。


電脳空間フルダイブネットを通じた、遠隔操作だ。

なるほど、こいつがさっきの兵士を操ってたんだな。

この野郎、ぶっ殺してやる。

僕は、少年に銃口を突きつけ、引き金を絞った。





































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VR世界で、ちょっと虐殺してきました。 りりりりりり @springfield

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