死神からのチャンスタイム

鯨鮫 鮪

序章 受けた告白、交わされた約束




 ーーーー線路を走る電車の音が、やけに煩く聞こえた。



「す、す、すすすす好きです!わり

と前からでした!」


 頬を紅潮させ、制服に身を包んだ少女は叫ぶ様に言った。チェック柄のスカートの裾を両手で強く握り、足は緊張から、小刻みに震えていた。



 所謂、告白タイムというやつだ。



 夕日で紅く染まる空が、このシチュエーションにはピッタリだ。線路が広がる踏み切りの前に2人きり。目の前を電車が過ぎ去った後の事だった。


 静かに、踏み切りを遮っていたポールが上へと上がっていく。


 先程、彼女から出た言葉を考えながら、上へ上がるそれを眺めながら言った。


「あ、えっと、なんだ、その、俺もでした」


 照れながら彼女の方を向き、頬を人差し指で掻きながらそう、返事をした。言った後、恥ずかしくなり、目線を斜め上に移すと、彼女の小さく笑う声が聞こえる。


「へへっ、そっかぁ、嬉しいなぁ」


 頬は未だに紅潮しているが、眉を下げ、ヘラっとした笑顔は、夕日に照らされ、とても可愛く見えた。






 *********






「はぁー、緊張したぁ!」


 隣同士で歩く中、先程の告白を思い出したように大きく息を吐き、胸を抑える。


 彼女の名前は三嶋

ミシマ

キララ。


 小柄で小さく、オレンジ味がかった茶髪の肩にかかる程度のボブカット。前髪は短く切られており、眉毛が少し見える。気弱そうな眉をしているが目はクリクリとしていて、お人形のようだ。


 そんな彼女、三嶋キララの横を歩く告白を受けた少年。


 御上

ミカミ

 将吾

ショウゴ


 中肉中背、黒髪でわりと長めではあるが、長髪と言うには多少、短い。前髪はピンで留めており、ポンパドールのようなセットをしている。イケメンという訳では無いが、ツリ目と八重歯が印象的だ。


「ははっ、俺は正直、驚いたよ、まさかキララちゃんから告白されるなんてなー。俺ってば、すっげぇ幸せもんじゃん」


 二カッと歯を見せながら笑い、隣に歩くキララの顔を覗き込むと、少し駆け足でキララの前に先に進み、クルッと振り返り、バンザイを掲げる。


「生きてて良かったー!」


 人の少ない道だというのをいい事に、将吾は大きな声で喜びを伝える。


「もう、大袈裟なんだから…でも、そんな喜んでくれて嬉しい。そ、その、今日から、か、かか彼女としてよろしく、ね?」


 彼女、という言葉が恥ずかしいのかまた頬を紅潮させ、声を裏返させる。少し下を向き、上目遣いをするキララは美少女そのものだった。


「……俺の彼女が可愛すぎて辛い」


「もう!また茶化す!」


 いやいや、本当だって。と説得するものの、拗ねたような態度でまともには聞き入れてもらえなかった。


 夕日に照らされた2人だけの歩道を、ふざけ合い、笑い合いながら歩く。とても幸せに思える時間だった。すると、キララは思い付いたかのようにある提案をした。


「あの、さ、いつでもいいんだけど、良かったら、見たい映画があるんだ。一緒に、行かない?」


「あー、あれだろ、どうせあの犬が主役で冒険するとかいう的な内容のやつだろ」


「えっ!なんでわかったの!?」


 バッチリ当てられてしまったキララは、信じられないというような驚いた表現をすると、思わず歩いていた足が止まってしまい、将吾が前を歩く形になる。


 不思議に思った将吾も歩みを止め、キララの方を振り返った。


「悪いけど、俺も前からお前の事好きだったんだよ、好きな子の好きそうなものなんて、案外簡単に想像つくって事。ほら、止まってないではやく帰るぞ」


 呆れたような物言いをしたが、表現は優しかった。キララの方に手を差し出し、急かす。


 キララは差し出された手を見た後、将吾の顔を確認する。手を取っていいものか悩んでいるのだ。手と将吾の顔を交互に見つめると、将吾はコクリと頷いた。


「ん、手。あと、映画は土曜日にしてくれないか?日曜日までいい子に待ってる自信、俺ない」


 今日は金曜日。土曜日とはつまり明日の事だ。


 すぐに会いたい、という意図を遠回しに伝えると、手を取ったキララがクスクスと反対の手で口を抑えながら、笑う。


「ふふ、子供みたい。わかった、約束ね明日だからね。寝坊、しちゃダメだよ?」


「了解です!」


 将吾は反対の手を全開に出たおでこにやり、歯を見せながら笑い、敬礼をした。八重歯がキラリと見える。


 初めての彼女と、初めての約束をした。






 ーーーーはぁ、羨ましいねぇ。



 手を繋ぎながら、笑い合う2人の後ろ姿を、並ぶ家の屋根の上に座り、眺める男がいた。


 銀髪に、黒装飾。大きな鎌のようなものを肩に抱えている。


 それはまるで、




 死神のようだったーーーーー

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